映画『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』感想

1970年代のドイツに実在した殺人鬼の日常を淡々と描く。冒頭から解体シーン。どぎつい。続く酒場のシーンも、中高年の酔客たちの荒みまくった風体のリアリズムに怯む。ちょっと露悪的にすぎないか、と思いつつ腹をくくって鑑賞。ホンカの殺人にはこれといった理由がない。衝動的な殺人の連続。死体の始末に困っての解体(一度ゴミ山に捨てたら見つかって大騒ぎになる)。その後遺体は物置?に無造作に放置。死臭が漂っているのにスルー。彼は一度町で会った美しい娘に憧れを抱いていて、名前も知らない、二度と会えない彼女の面影はいつか理想の女性像となり、脳裏にこびりつく。「肉屋で働く、ぽっちゃりした30歳の女」を、ホンカは若く美しい娘と重ね合わせて妄想する。しかしホンカが繰り返す犯行と彼の妄想は無縁だろう。それよりもアルコールによって脳が変になっていると見た方が自然なほど、彼の犯行は短絡的で支離滅裂なもの。同じく殺人鬼を描いたトリアーの『ハウス・ジャック・ビルト』が映画として洗練されていたのに対し、「ホンカ」にはドキュメンタリーのような無骨さ、生々しさがある。しかしドキュメンタリー調の方が迫力があるとは限らないのが映画の面白いところ。例えば同じ絞殺シーンを比べても、『ホンカ』と『ジャック』では、後者の方が断末魔の演出などでリアリティがあったような気がする。該当シーン鑑賞中、『ジャック』では自分の喉まで苦しくなったが、『ホンカ』では微塵もそんなことはなかった。また主人公の造形も、『ジャック』は主人公の強迫神経症をユーモアを交えて描いていたが(そこに監督の余裕すら感じられた)『ホンカ』はただ酒に酔って滅茶苦茶な暴力を振るっているだけの男にしか見えず、死体への無頓着さ(ジャックのコレクションと正反対な)もあって面白みに欠けた。死体ハウスとかダンテの地獄とか、『ジャック』はアート映画の趣ある傑作。でも『ホンカ』は…。ただただ不快さばかりが残る。残念な印象。