2020年の夏季休暇中に見た映画3本

コロナ禍と猛暑のため出歩く気になれない2020年の夏季休暇。昨年は映画館をハシゴすることもあったが今年の春以降は一切なく。映画館での鑑賞は他人と向かい合ったり喋ったりはしないのだからナーバスになり過ぎることはないのだろうが、気分的に今一つ出かける気になれないのは、やっぱり、少し、ちょっと滅入っているのかもしれない。昨年は土日はほぼ毎週映画館に通っていたものだが、もはやそこまでの情熱も体力もなく。面白いと思える映画、見てよかったと思える映画は、5本見て1本あればいい方という事情もある。今年はこれまで50本程度見てきて、よかったと思えたのは『パラサイト』『リチャード・ジュエル』『1917』『レ・ミゼラブル』『千と千尋の神隠し』『ダンケルク』『Fate HFⅢ』の7作品。

 

2020年夏季休暇に鑑賞した映画は3本。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』

ソ連の人工大飢饉についての映画。YouTubeで予告を見ただけの状態で見に行ったらストーリーがよく分からず途中寝そうになってしまった。冒頭から、何年のどこ、と示されないので訳が分からず(1930年代のロンドンだったと後で知った)、全編を通じて状況の説明が不親切で、この映画を見に来るからにはこの程度の知識は当然あるでしょ、という監督のスタンスなのか、自分のような無知な観客は、見ていて、この場所はどこなのか、この人物はどういう人物なのか、いちいち考えながら見ることになり疲れた。世界恐慌の最中でも好調を維持するソ連経済に疑念を抱いた英国人記者が、スターリン体制下のウクライナに潜入し、独裁政治による大飢饉という真実を目撃する。筋は面白そうなのに退屈だったのは、全編説明不足気味なのと、どうでもいいシーンで間延びしてテンポが悪いのと(乱痴気パーティや警備兵?から逃れて森を走るシーンはだらだら続いて苛々した)、登場人物たちの魅力の乏しさゆえか。昨年のワイスピでヴァネッサ・カービーをいいなと思ったから見に行ったら、つまらない役でがっかりした。昨年の『工作』で、韓国のスパイである主人公が北朝鮮に潜入し、ある村で山積みになった餓死者たちを目撃するシーンがあったが、ああいう怖さはこの映画からは感じなかった。主人公は、「この肉はどこから?」と確認した後すぐ逃げ出してしまう。あれではただのエピソードでしかなく弱い。極限の飢えは本作の肝となるテーマなのだから、そこから姉妹たちと対話するなりしてもっと掘り下げて欲しかった。

 

インセプション

リバイバルIMAXで鑑賞。有名な映画だが初見。夢の中への侵入という面白そうなテーマ。ただ、自分はノーラン監督の映画は結構雰囲気重視な映画と思っていて、本作も然り。映像は物凄い。本当、凄い。街が折り重なったり、ホテルの中での無重力だったり、見ていて楽しい。ただストーリーの整合性は微妙。そもそも主人公たちが何者なのか分からない。超国家的組織に属しているのか、他の何かなのか。夢につなぐアタッシュケースのような装置は何なのか。ボスやエンジニアのような他のメンバーはいるのか。作中では説明されない。夢へのダイブにも色々気になる点がある。現実でキックして覚醒するなら理解できるが、夢の中でキックして覚醒できるのは解せない。それなら殺して目覚めさせる必要がない。終盤の、虚無に落ちた人物を主人公が救いに行って、その間に対象は老化しているのに、自分は若いままなのがよく分からない。主人公は妻殺しの容疑をかけられているといい、妻の遺書によると三人の精神科医が彼女が正常であることを証明したというが、現実と夢の区別がつかず、自殺して目覚めようとする人を正常だと認める精神科医がいるだろうか。即入院させるだろう。同期した夢に主人公の罪悪感が投影されるなら他のメンバーの潜在意識も混線するはずなのにそれがないのは不自然。などが気になった。映画のメインとなるインセプションは、成功率の低さの割にリスキー過ぎて、あんな手段を普通選択するだろうか。しかもその動機がライバル企業を潰すためとは拍子抜け。復讐とか、世界征服?とかなら分かるけれども。繰り返すが映像は本当に凄いのでIMAXで見られたのはよかった。しかし長過ぎて、途中で寝そうになってしまった。1層が街で、2層がホテルで、3層で山荘なのは側近の夢だったから? このあたり、うとうとしていてうろ覚え。いきなり皆が冬装備になっていてびっくりした。トラウマを克服して現実に回帰する、というありがちなラストかと思いきや、思わせぶりに終わるのは却って安っぽく感じた。俳優陣が豪華で、お茶目なトム・ハーディが見られたのは嬉しい。自分はノーラン監督作品では『インターステラー』と『ダンケルク』が好き。『ダンケルク』は4DXで見たあとIMAXを見に行ったら観客自分一人だけという奇跡を体験させてくれた映画でもある。

 

 『Fate HFⅢ spring song』

3月からずっと見られる日を待っていた。HFを最後までアニメで見られる日が来るとは感無量。長大なシナリオゆえ端折ったり、説明不足になったり、台詞で説明してしまったり、原作未プレイの観客には若干わかりづらいかもしれないが、それでも未プレイ者を置いてけぼりにしてしまうほどの駆け足ではなく、可能な限りそういう人たちでも楽しめるようにしよう、そして原作プレイ済の観客を存分に楽しませよう、度肝を抜いてやろうという製作陣のパッションが感じられて感動的な映画だった。聖骸布を解いてからのバーサーカー戦をいちばんの楽しみにしていたので当該シーンの短さは物足りなかった。「お前が守れ」とバーサーカーに言わせてしまうのは、士郎がそう解釈した原作より直截すぎて軽い、とも思った。それでも、エミヤのBGMが流れる中駆け抜けた士郎を半ば呆れ、半ば羨むように見送るエミヤの笑顔が見られたとき、「最高かよ」と声が出そうになった。ナインライブズ・ブレードワークスがアニメで見られた感動。本作のクライマックスはセイバーオルタ対士郎・ライダーのバトルシーンだろう。前作のセイバーオルタ対バーサーカーのバトルシーンに匹敵する激しさ、熱さ。前作のバトルがパワーの応酬だったとすれば、今回のバトルはスピード、テクニックの応酬。ライダーの俊敏な回避と撹乱、ギリギリまで溜めて開放する魔眼、歯を食いしばってのキック。崩落する足場を移動しながらの応酬。三者の表情が限界の戦いであることを物語る。このままずっと見ていたいと思える素晴らしい時間だった。最後の宝具と宝具の激突では、ペガサスまで登場してくれて、もう、ありがとうございますという言葉しかない。その後であっさりとどめを刺す士郎もよかった。そこから続く桜のこれまでの鬱憤をぶつけるような内心の吐露と、凛の圧倒的な追い込みからの諦念は、人間の心の複雑さと深さ、愛の不可解さを見るようで、声優の演技も相まり感動的だった。最後の、男二人の殴り合いが霞むほどに。アーチャーの腕の副作用で体が蝕まれ、記憶もなくなっていく中でイリヤの名前を叫ぶ士郎の演技もよかった。ラストは原作を知らないとなんで彼が生きているのか混乱するかもしれないが、大団円としてこれまでのキャラクターが総集合して賑やかで、気持ちよく映画を締めてくれた。色々感じまた思うところあり、けれども自分の拙い言語力で文章化するのが困難で、書いていてもどかしいが、とにかく、このシリーズを最後まで見られて嬉しい。もう一度見に行きたい。むろん前二作同様ブルーレイBOXも購入するだろう。不思議と、完結してしまった寂しさを今は感じなくて、それよりも最後に桜の笑顔が見られた嬉しさの方が大きい。