二度目の鑑賞『劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song』

 

先週に続き二度目の鑑賞。ナボコフが、読書とは再読の謂である、みたいなことを言っていたかと思うが、一度見ているからこそ味わえる部分があるのは映画も同様だろう。

 

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前回は平日夕方の回だったので初週とはいえ観客20人くらいだったのに対し、今回は土曜レイトショーで80人くらい入っていてなかなかの盛況ぶり(地方都市のシネコンだとだいぶ入っていると感じる人数)。見所はやはり左腕の解放と、対セイバーオルタ戦のアクション。後者に関しては、前作のセイバーオルタ対バーサーカーのバトルシーンを超える迫力だと思う。これだけキャラが動き回って応酬するアクションシーンは、自分はアニメに全然詳しくないが、それでもアニメ映画の最高峰といっていいくらいハイレベルな出来ではなかったか。いや、同じことを前作見た時にも思ったのだけれど。

 

最初見た時のエントリにも書いたけれど、士郎が左腕を解放するシーンの尺は短めで、黒バーサーカーはあっさりとやられてしまう。黒バーサーカーがどれだけやばくて強いのか、原作では触れていたけれども映画だと木を薙ぎ倒す、地面に亀裂が入る、くらいの描写なのでちょっとわかりづらいか。このシーンのキモはエミヤのBGM。まさか劇場のスピーカーで聴ける(浴びる)日が来るとは…。士郎が未来の自分を追い抜いたあと、その背中を見送るエミヤの笑顔はもう…なんといったらいいのか…最高すぎる。

 

もう一つの見せ場であるセイバーオルタ対ライダーのバトルについて。最初に駆け出すライダーの前傾姿勢からかっこいい。目を開いたり閉じたり、しかし魔眼を解放するのは至近距離に入ってから。歯を食いしばってのキック、滅茶苦茶かっこいい。見落としていたけれども、崩落する足場を移動する時にもライダーはマジ顔をする。都合二度のマジ顔。涼宮ハルヒがライブでシャウトした顔を初めて見た時と同じ、アニメで人(サーヴァントだが)のこんなリアルな表情を描くのか、という驚きがあった。セイバーの背後に回った時、怜悧な笑みを浮かべて、自分は士郎に信用されているが「確かあなたは、ああ…(察し)」と嘲るシーンは楽しくて笑ってしまう。このシーンのライダーの動きの速さは凄い。ずっと見ていたくなる。そして前屈みになってからの「宝具!」の叫び。迎撃態勢に入るセイバー、脇から援護に入る士郎。エクスカリバーのべらぼうな火力は前作で十分すぎるほど描かれたから今回は控え目で、キモはライダーのベルレフォーン。ペガサスが登場するとは思わなかったが、確かにライダーのライダーたる所以をここまで描いていなかったからか。吹っ飛ばされた後で一瞬正気に戻ったセイバーを、士郎はあっさりと倒す。今シリーズのセイバーはヒロインではなく最大の敵として存在していたのだから、ここで感傷的にならなかったのは趣旨に適っている。

 

凄すぎるバトルを見たあとの興奮と疲労が残る中、桜と凛の対決が待っている。映画冒頭では余裕の笑みを浮かべ、「私の方が強いもの」と発言していたのに、ここでの桜にはその時の大物感はない。いや、教会で言峰の発言に激昂したり、臓硯を握り潰したあとに呟くシーンなどで、彼女は倒すべき悪のラスボスというよりは、弱さゆえに道を誤ってしまった、救うべき対象として描かれていたように思う。「お前は別人格などではない」と言峰が看破したように、彼女は偶然手にしたパワーに半ば溺れ、半ば逃げ出したいと願っているような、危うい存在に見える。凛と対面し、自分の半生の積もり積もった苦しさをぶつけた後で、凛の、いかにも彼女らしい冷徹な反応に激するあたりでは、桜の弱さはむしろ同情を誘うほど。失って初めて気づく。自分にも大切なものがあった、大切なものを持っていたということに。「遠坂のやつ、勝ったんだな」。桜の、「一人でもちゃんと死にますから」ってセリフは凄いセリフだと思う。自分は桜より凛やセイバーの方が好きだけれども、それでもこんなこと言う相手を見殺しにできるか、という気分になる。ルールブレイカーを構えた士郎のお仕置き発言に対して、両腕を広げて「はい」と答えるシーンもしおらしくてよかった。

 

二度目の鑑賞で思ったのは、最後の殴り合いは、この映画においては蛇足だったのではないか、ということ。原作をプレイしたのがもう10年も前なので記憶はほぼないのだが、原作だとこのシーンはかなり熱かった記憶がある。しかし士郎の正義のありかを言峰と比較することで明確にするという意図は、丁寧に時間をかけて描くべき重要なテーマ(ヘブンズフィール篇の最重要テーマか?)であり、映画だとちょっと尺が足りなかった気がする。映画三部作としては、闇落ちしたヒロインを救うために戦うヒーロー(士郎および凛)の物語という、ありきたりかもしれないがそのコンセプトで一貫した方がまとまりがよかったのではないか。桜は凛の愛によって正気に還る。イリヤの魔法も、彼女がアイリスフィールへ駆け出すのも、やはり愛。人は愛によって救われる。コテコテだが、最終盤はそういう展開のみにまとめた方がわかりやすい映画になったかもしれない、と二度目の鑑賞を経て思った次第。いや、でもやっぱり言峰とはきっちりケリをつけないと…切嗣の時からの因縁もあるし…という気持ちももちろんあるが…難しいな。最後もっと尺が欲しかった。

 

前作のクオリティから最終章の期待がものすごく高く、ハードルを上げまくっていたのにそれすら越えてしまう映画だったのは本当に嬉しい。9月から4D版の上映があるようなのでもう一度見にいく。