谷岡一郎『ツキの法則』を読んだ

 

 

今年から本格的? に競馬を始めたので回収率を上げる賭け方のヒントでもあればと期待して読んでみた。

 

予想していたとはいえ、冒頭から「ギャンブルに必勝法はない」と断言されてしまった。そんなものがあればギャンブル産業を支える基盤は崩壊するはずであると。確かにその通りだ。しかし著者はこうも続ける。「『確実に勝つ方法』はなくても『確実に負ける方法』ならわかっている」。だったらその賭け方を避ければいい。

 

なぜ必勝法がないのか。それは胴元が一定の利益を得るように設定されているからだ。競馬であれば馬券を購入した時点で25%が控除され、残りの75%を購入者同士で取り合う。だから大数の法則に従うと回収率は75%前後に回帰する。この大数の法則は「ギャンブルの世界において、疑いなく成立する絶対の法則である」という。現在の回収率が75%を大幅に上回っていたり下回っているのならばそれは賭けの回数が大数に到達していないからで、1000回、10000回と回数を重ねるにつれ75%に回帰していく。つまり競馬とは負けて当然のギャンブルなのである。負けて当然と理解した上でギャンブルを健全に楽しもう、というのが本書の主旨である。

 

大数に至るには「ダラダラと同様の賭けを何回も続け、『回数を増やす』こと」が第一条件であるという。競馬で言うと1Rから12Rまで賭けることで回数が増える。さらに一回の賭けであってもボックス買いをすると何回も賭けたのと同じことになる。ボックスで点数を仮に二十点買ったとしても当たりは一点しかないのでトリガミになったり、堅そうな馬の複勝と配当が大差ないケースが発生しやすくなる。実際自分も、三連単フォーメーションで口数を増やして買ったら、当たりはしたもののロスが多く、結果的に1着の単勝に賭けたのと変わらない配当だった経験がある。この時はまだ当たっただけマシだが…。思うに競馬とは「予想」という言葉の通り、分析・推理をして当たりを狙うから面白いのであって、買い目を増やす(抑える)というのは邪道というか、本末転倒というか、そういう気がする。だから口数を増やす買い方はその時一度きりしかしていない。その後はいかに切るか、買わずに済ますか、あれこれ考えて買っている。そうして回収率は期待値以下の69%というヘタさである。でもあれこれ予想している時間は結構自分にとって楽しい時間であるし、競馬の醍醐味はレースの結果もさることながら予想している時間にもあるような気がしている。一切考えず他人の予想をあてにして馬券を買って勝っても、嬉しいかもしれないが楽しくはならないのではないか。競馬の快感って(配当はひとまず措くとして)未来を読み取る→運命を支配する、といった全能感への欲望が多くを占めてはいないだろうか。自分だけか(自分はどうせ豆馬券ばかりだから大層な結果など得られはしない)。…と話が自分のことになってしまったが、

競馬で「何点も抑える」という行為は、勝っても旨味がなく、負けた時の金額が大きくなる賭け方で、統計学的には先ほどの「回数を増やす効果(大数の効果)」だけが増大し、それに伴い「マイナスの効果」が早く出現してしまう。

たくさん買えば当たる確率は増大するが、その分投資額に対する回収率が悪くなり、結局「回数」を増やし「分散」を小さくする効果しかない。早く確実に負ける方法といえるのである。

 とのこと。

 

数学的に一番早く確実に負ける方法は、(1)回数を増やし、(2)一定金額を賭け、(3)本命狙いに徹すること

 であるならば、それを避ければまだマシな賭け方になるかもしれない。すなわち、「期待値の低い賭けには手を出さない」「一〜二点に絞って賭ける(「抑え」は避ける)」「金額を同一にしない」「『本命』は避け、『大穴』を狙う」などの賭け方をすればいい。

 要点は、<分散を大きく>し、なるべく<回数を減らす(または減らす効果を出す)>ことに尽きる。そのためになるべく倍率の高い賭け(中穴以上)を、なるべく賭ける金額に幅を持たせて賭けることである。

 そうすれば少なくとも「運が良いと思ったのにトータルでマイナスになった」ということは避けることができる。ただし大幅なマイナスになる可能性も同時に併せ持っていることは、言っておかねばならない。

 

前回の競馬についての記事で、的中率が下がったとしても三連単で大きい当たりを狙う方が回収率は上がるかもしれない、と書いたのだが、本書の主張とも重なる。といっても、どう賭けたところで競馬の期待値が75%である以上いつかは必ず負けるのだが。ただ、回収率の高い人がよく言う、レースならなんでもかんでも買うのではなく勝てそうなレースを選んで買うというのは、予想のしやすさもあるのだろうが、大数に至るのを遅らせる効果も併せ持っていると見る。大数に至らない回数であれば、統計上の必然として大幅なプラス収支というのは十分あり得ると著者は述べる(ツキとは統計上の揺らぎを指す言葉であり、必然的な現象であるとのこと)。

 

本書を読んで、どうやら的中率は捨てて回収率に拘って馬券を買った方がいいように思った。何連敗しようと中穴を狙って馬券を買い続ける。オッズとはその馬の強さではなくケインズの言う「美人投票」と同じであり、実力の割に買われない(オッズの高い)馬を見つける目を養うことが肝心なのだろう。こないだの有馬記念で言えばサラキア二着を可能性として考慮できるような目を。それができれば苦労はねえよ、と言う気しかしないが。…いやー、やっぱり自分は買えないな。実際あのレース、サラキアが最後届かずフィエールマンが二着だったとしてもおかしくなかったわけで(同様にサラキアがクロノを差していてもおかしくなかった)、可能性として三連単の三着に抑えておくのが判断の限界だった。これはもう結果論だ。後からならなんとでも言える。

 

本書も参考の一つとしながら、来年の競馬もまた試行錯誤しながらやっていこうと思う。いつまで熱が続くかは分からないが。当たりを期待せず買う、外れて当然と思って中穴を狙っていく、そういうメンタルが大事になってくるのかな。でも負け続けると、競馬つまんねーってなりそうな気がする。それにやっぱり競馬は好きな馬を買いたいし、じゃあ好きな馬はどういう馬かっていうと、いい走りをする強い馬、ということで結局人気の馬を買ってしまうことになりそうだが…。そのへんの損得の割り切りも強いギャンブラーの条件なのかもしれない。

 

しかしこの本、今から20年以上も前に書かれた本であり、現在のAIによる予想やSNSの発達による情報の拡散については当然想定外。どちらも現在の競馬のオッズに影響を与えていると思うが、そのあたりの事情については他書にあたるなり自分で補っていくなりするしかない。

 

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