『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編。前作は、特急の中のゾンビ禍というアイデアが新しくて、面白く見た記憶があるが、今ではほとんど内容は忘れている。『新感染半島』は前作から四年後の世界が舞台。ゾンビ禍は未だ終息せず、韓国はすでに国家として機能していない。かつて祖国から命からがら脱出した主人公は、訳あって再度訪れることになる。
新型コロナウイルス流行後はゾンビ映画を見る目も変わってしまった。現実の感染症と絡めて見る向きが強くなった。昨年の映画館の営業再開後、最初に見に行ったのは『キュアード』という映画で、面白い映画ではなかったが、ゾンビからの回復と周囲の偏見というテーマはタイムリーだった。本作においても、冒頭の、船の中での感染爆発のシーンに、昨年の出来事を思い出したりした。
ゾンビ映画だけれど、ゾンビの怖さ、ゾンビに感染することの怖さみたいなのは薄かった。もはやゾンビは邪魔な障害物、くらいな雑な扱いで、それよりも感染後の世界で生き抜くことの困難を描くことに主眼が置かれていた。はっきり言ってしまえば、怖いのはゾンビより人間、という内容。持てる者と持たざる者との格差が、パンデミックによってより拡大する。現実世界なら格差の尺度は経済力だ。しかし映画の中で幅を利かせるのは経済力ではない。暴力だ。弱者は強者の食い物にされる。タガが外れた人間は、ゾンビよりもよっぽど怖い。そう、この映画の世界観は『怒りのデスロード』と同じなのだ。激しいカーアクションの数々を見ながら、何度心の中で「マッドマックスかよ」と思ったか。
秩序を失った人間の恐ろしさ、家族愛、カーアクション。これらがこの映画の勘所だったと思うのだが、そのどれにも主人公は絡み方が弱くて、だからストーリーが進展するにつれだんだん彼の存在感がなくなっていくのは妙だった。途中から母親と姉妹が主人公のような気がしていた。そういうところも、ちょっと『怒りのデスロード』っぽいか。自分にとってベストシーンは、大尉の部屋で、大尉と軍曹がやりとりする場面。互いに裏をかこうとする緊張感が漲っていて見ていて楽しかった。
退屈せずに最後まで見られたので、エンタメ性は凄くある。スクリーンで見てこその映画だろう。