江戸東京博物館「古代エジプト展 天地創造の神話」と、すみだ北斎美術館へ行ってきた

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3月12日金曜日。朝一で『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を見たあと、両国駅へと向かった。表題の展覧会を見るためである。

 

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 美術館や博物館へたびたび行くほどの文化資本の持ち合わせはない(こちとらブルーカラーだぜ)。年に一回、行くか行かないか、その程度である。行くのはやはり上野が多い。というかほとんど上野である。近年で記憶に残っているのは東京都美術館で開催されたブリューゲルの「バベルの塔展」と、ムンク展である。前者は、細部の拡大図から精緻さが窺えて面白かった。後者は、福永武彦の小説『死の島』の新潮文庫版の表紙の絵(「浜辺にいる二人の女」)が見られて嬉しかった。

 

古代エジプト展の開催は偶然Twitterのタイムラインで知ったのだったか。特別古代エジプトにロマンを感じているわけではないし、『とーとつにエジプト神』は一話しか見ていない人間だが、「死者の書」の公開があると知り、興味を持った。昔の人の死生観や、彼らが想像した死後の世界に関心がある。女の人を誘うと、行くと言うので一緒に出かけた。緊急事態宣言中であるが、平日ならば館内も途中までの交通機関も人は少ないだろうと予想した。電車は空いていたが、後述するように館内はそこそこ人がいた。

 

午後2時頃、両国駅到着。西口を出て、すぐ右側に国技館。その前に大きく江戸東京博物館の案内看板あり。徒歩3分程度で着く。入場する前に、アニメキャラ化したアヌビスが巨大モニタでエジプト神話の解説をしてくれる。曰く、初めに海があった。そこから全ての生命が生まれた。が、やがて世界の終わりが訪れ、全ては海に沈んでいく。「ただいま混雑」の表示があり、入るとたしかに人が多い。平日だからがら空きだろうとの見込みは甘かった。館内撮影可なので、一部展示はスマホを構えた人が撮影順番待ちの列をなしていた。入ってすぐに冥界の神アヌビスの小さな像。山犬が座っているだけのようにも見える。当時は墓地周辺に山犬が多かったから、転じて冥界の神は山犬の頭を持つデザインになったとか何かで以前読んだ記憶がある。もう少し行くとバステト神の像。本展覧会でもっとも列の長かった展示。座っている猫のデザイン。「癒しの女神として人気があった」との解説。まあ、そうでしょうね。

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ほかにも神々の像や彫刻など。ホルスもいた。続いて少し開けたスペースでは棺の陳列。紀元前のものにしてはサイズが大きく感じた。160cmくらいの身長でも入れそう。死者の内臓を取り除いてミイラにして、胸にスカラベの細工を置き、死者の書を持たせて葬る。死者は冥界の入り口で42柱の神に会ったあと、アヌビス神によって心臓を天秤に乗せられ、真実の羽と量られる。罪によって羽より重いと怪物に食われてしまうが、軽いと(バランスが取れていると?)死後の理想郷へと行くことができる。この秤にかけられる時にバランスを取る役目を果たすのが死者の書だったとか、あれ、書かれている呪文が大事なんだったか? そのへん、アニメで解説してもらったがもう忘れた。

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死者の書のデザインは素晴らしい。紀元前のものとされるが、人物画は今日の目でも見てもキャッチー。上の左側の女性が死者だろうか、ミイラの包帯を巻いているように見える。右側にいる座っているのが、死後の国を統治するオシリスか。下の方が死後の経過がわかりやすい。42柱の神々の元を過ぎたあと、アヌビスによって秤に心臓を置かれ量られる。右端の白い衣装の人が死者で、左端にいるのがオシリスか。その前にいる獣が、罪に汚れた心臓を食う怪物アメミトか。当時の人たちにとっては呪物、あるいは世界を説明する物語だったのだろうが、今日の人間はアートとして死者の書を鑑賞する。展示のそばにある最小限の解説を読むだけではわからないことだらけなので、今後は積極的に音声ガイドを利用したい。写真は絵の部分しかないが、実際の展示は大半がヒエログリフのまさしく書物だった。今回の展示はベルリンの博物館の所蔵品だが、来月は渋谷でライデンの博物館の所蔵品が展示される古代エジプト展がある模様。こちらはミイラ推しっぽい。

 

江戸東京博物館から総武線の線路沿いに10分くらい歩いて行くと、すみだ北斎美術館がある。せっかく両国まではるばる来て、次またいつ来られるかわかったものではないから、こちらにも行った。最初、どこから入ればいいのやら分からず、建物の周囲をぐるぐるした。斜めの切り込みの間を通って入るとき、沖縄の斎場御嶽を連想した。現在、筆魂展というのをやっているようだったが、常設展のチケットを買った。JAF割引のおかげで二名600円程度で入れた。

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常設展の展示フロアまではエレベーターで上がった。フロアは決して広くはなかったが、自分たちを入れても客が10人くらいしかいなかったので快適に鑑賞できた。北斎の年譜と並行する形で作品が展示されている。と言ってもここにあるのはすべてレプリカらしい。北斎といえば知らない人でも知っている富嶽三十六景。これが完成したとき、彼は70歳を過ぎていたという。もっと若い頃の作品だと思っていた。江戸時代に90歳まで生きたというから驚く。しかも生涯現役。引越し回数90回以上とか、吉良上野介の家臣が曽祖父だとか、健康のために自作の漢方を作って飲んでいたとか、豆知識の表示も面白かった。タッチパネル式のガイドでは北斎漫画や富嶽三十六景が見られる。後者は部分拡大も可能。「下野黒髪山きりふりの滝」で滝が樹の根のように表現されていたり、大胆な余白があったり、山や森を黄や青で描いていたり、今日の目で見ても斬新。「北斎仮宅之図」を再現した模型もあった。紙屑が散らかった部屋の中、こたつから上半身だけ出して畳の上で描いている年老いた北斎と、父親の様子を火鉢に寄りかかって眺めるお栄の模型。北斎の手の甲の質感が気持ち悪いくらいリアルだった。展示は40分くらいで見終わった。ショップで赤富士デザインのハンカチを土産に買った。

 

外へ出たら東京スカイツリーが靄の向こうに見えた。

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