映画『サンドラの小さな家』を見たが…

滅多に見る機会のないアイルランド映画。MOVIX昭島にて鑑賞。見ようかどうか迷ったが、映画のついでにモリタウンのバーガーキングへ寄るのもいいかと思ったので行ってきた。予告編をYouTubeで見、Twitterで少しだけ情報を集めた。DV夫から娘二人を連れて逃げたシングルマザーが自分の住居を自力で建てるというストーリー。ケン・ローチ的との評に期待が増した。邦題だと、herselfという原題の政治的あるいは社会的ニュアンスが薄く感じられる。興行的な判断だろうか。

 

映画のトーンは基本的に暗い。夫の暴力は彼女のみならず(直接には振われていない娘たちにも)被害を及ぼす。暴力シーンは主人公のトラウマとして作中で何度もフラッシュバックする。一方で偶然から彼女に力を貸してくれる人たちもいる。自分の土地を提供するドクター、体が悪いのに週末に協力してくれる建築士、何人かのボランティアたち。主人公が娘たちと一緒に暮らす目的で建てようとしている家とは、住居であると同時に彼女の居場所というシンボルなのだ。アイルランド的な共助の精神、ということが作中で言われるが、社会的弱者が厳しい現実をサバイブするための社会関係資本の重要性を言っているのだと自分は受け取った。終盤で彼女は、完成間近のその家を失うことになるだろう。しかしシンボルとしての家は失われない。ラストは爽やかで、まあお約束的な希望のエンドと言ってしまえばそうかもしれないが、素直に感動した。どれだけ暴力を振るおうが、人から希望を奪うことはできない。子供たちの作業姿は可愛らしい。

 

シングルマザーの苦境や暴力の被害については、アイルランドも本邦もさして変わらない普遍的な社会問題と思う。善意の協力者が多すぎて現実味に乏しいが、あくまで共助の精神を描くための、一種の理想イメージだろう。社会問題に目を向けさせる、訴えるという点では成功していると思う。けれど映画として楽しめたかというと微妙。全体的に説明不足で、なぜそうなるのかがよく分からない部分がいくつかあった。特に前半の住居をめぐる福祉の問題はもう少しきちんと描いてほしかった。それと夫の母親はもっと早く謝罪しろ、と思った。

 

単調なテンポの映画だったからか一晩経って記憶にあまり残っていないのだが、よかったシーンは裁判のところと、主人公がこちらに背中を向けてベッドに座っていた終盤のシーン。後者はハンマースホイハマスホイ?)のような静謐さが漂っていていいなと思った。辛いシーンでもあったが…。建築中のBGMでやたらとハードな音楽がかかるのに違和感が凄くて可笑しかった。