東京国立博物館で「国宝 鳥獣戯画のすべて」を見てきた

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4月24日土曜日。女の人を誘い、上野の東京国立博物館の平成館で開催されている「国宝 鳥獣戯画のすべて」を見に行った。東京都は新型コロナウイルス感染拡大による三度目の緊急事態宣言が翌25日から発令されるため、5月11日の宣言期間終了までトーハクは休館となる。休館前日のチケットを買っていたのは運がよかった。

 

13時からの入場組。時間を少し過ぎてから平成館へ行くと、すでに入場待ちの列ができていた。人数を区切りながらの案内。昨年行ったあいみょんのコンサートもこんな感じだったなと既視感を抱いた。中へ入ると会場は第一と第二に分かれていて、第一会場の前にグッズ売り場があった。鑑賞前に買うか一瞬迷ったが、だいぶ混雑していたのと、目当ての図録は分厚くて重いとTwitterで見ていたので荷物になっても嫌だから買い物は後回しにした。600円払い、山寺宏一さんによる音声ガイドをレンタル。音声ガイドを初めて利用したが、待機中とか移動中に解説を聞けるのでとてもいい。本体の液晶で画像表示する機能もあった。今後は、基本、音声ガイドがある時は借りる方針で行こうと思った。ただ悲しいことに今回は不調の機材を引いてしまったらしく、途中から音声が切断・接続を繰り返すようになり、当初はプラグを抜き差しして対応していたが、終盤はイヤホンから音が聴こえず本体から漏れしてしまうようになったので利用を断念した。他の利用者を見ると問題なさそうだったので通信状況ではなく個体の問題と自分は感じたがどうか。残念。まあ、こういうこともある。

 

鳥獣戯画は12世紀から13世紀にかけて複数の作者によって書かれた全四巻の絵巻。鳥獣戯画と聞いて真っ先に連想する兎や蛙や猿が登場するのは甲巻。それに、現実と想像上の動物が描かれた動物図鑑的な乙巻、人物戯画と動物戯画が描かれた丙巻、人物主体の丁巻と続く。四巻すべてが公開されるのは展覧会では初めてとのこと。自分も甲巻以外の鳥獣戯画は初めて見た。全四巻中、やはり甲巻の、現代でも通じるユーモラスな動物のデザインが際立っていると感じた。兎と猿の追いかけっことか、兎と蛙の相撲とか、笑いの表現とか、漫画的表現の元祖になるのだろうか、もっと古いのがあるのか、とにかく普遍的な表現であり時代の懸隔を感じさせない。鳥獣戯画の肝であるこの甲巻を動く歩道で見る趣向は、本展覧会の目玉だったと思うが、とてもよい試みだった。企画展では入り口から自然と鑑賞の列が出来て、前の人が見終わったらケースの前へ移動して、自分が見ている間次の人がすぐ横でこっちがどくのを待っていて…みたいな感じで、人気の企画展であればあるほどゆっくり落ち着いて見るのが難しいと常々感じていたので、押し合いへし合いするでなく、前列の頭越しに見るでもなく、緩やかな速度で初めから終わりまで最前列で鳥獣戯画が見られたのは貴重な体験だった。難しいだろうが、今後他の展覧会でも同様の試みがされるといい。

 

甲巻のような動きの表現はあまりないものの、乙巻も楽しい。絵巻の前半では馬や牛など実在の動物たちが描かれていたのが後半になると麒麟や獏や龍など想像上の霊獣が描かれるようになる。鳥獣戯画は可愛く描かれているので親しみやすく、美術だ、芸術だ、みたいな高尚さをあまり感じさせない。丙巻丁巻も面白みはあるけれど、とくに丁巻のヘタウマ的なタッチはインパクトがあるけれども、やはりユーモラスな動物キャラを期待していた自分としては甲巻が第一、続いて乙巻が素晴らしいと思った。

 

鳥獣戯画を一通り見終わったあとは、この絵巻を保管している京都の高山寺明恵上人に関する展示となる。自分は集中力があまりない人間で、ここに至るまでにだいぶ疲れてしまって、明恵上人の展示部分は飛ばし飛ばしの鑑賞。この人、夢日記をつけていて、夢にいい女が出てきたと思ったらありがたい仏様(だったか?)とか、ちょっと色っぽい夢の話がいくつかあった。ような気がする。明恵の坐像、大事にしていた二つの石、タツノオトシゴのミイラ? 等ゆかりの品々。この人は犬好きだった由。個人的に所持していた仔犬の彫像が本展最後の展示物で、ちょっと首を傾げてつぶらな瞳でこちらを見つめる仔犬像の愛くるしさといったらなかった。

 

総括。本展でとくにいいと思ったのは、動く歩道で鑑賞する甲巻と、兎と猿のレースを描いた断簡(躍動感がすごい)と、最後の仔犬の彫像。やっぱりユーモラスなものや可愛いものはいい。観賞後、入場前と全く変化なく、ソーシャルディスタンス不可能なほど混雑しているグッズ売り場をうろついて物色したが、人が多くて疲れてしまい、図録のみ購入。重くて、この後持って移動する際に難儀した。動物をめぐる鳥獣戯画スピンオフ展示も開催していて、せっかくだからそちらに寄ってもよかったのだが、なんだか人の多さに疲れてしまい、女の人と二人、館外へ出てベンチで休憩。前回ここに来たときは夜で、やはりベンチに座ってジュースを飲みながら、増田みず子の『シングル・セル』についてあれこれ話した(自分が一方的に)記憶がある。結局他へは寄らず出発。展覧会、とてもいいものなのだけれど、大勢の人でひしめく中での鑑賞は、美術を鑑賞する環境として違和感がつきまとう。なんかこう、もっとゆったりゆっくり、展示物と対話するように(というと気障な言い方になってしまうけれど)できないかなあと行くたび思う。以前、群馬県立館林美術館で見た、鹿島茂さんのフランス絵本を展示する企画展は、人が少なめで、展示は多数で、ゆったりゆっくり回れて、箱の素晴らしさも相俟って、とても豊穣な時間を過ごせた充実感・幸福感があった。ああいう時間を過ごしたい。

 

トーハクを出て、休園日の上野動物園を過ぎると上野東照宮の前に出た。相方は御朱印集めが趣味なので、寄って行くか尋ねると行きたいという。入るとぼたん園で春のぼたん祭り開催中とあった。ついでだから寄る。東照宮の観覧料金と合わせて一人1100円(合わせてチケットを買うと別々に買うより100円お得とのこと)。カメラを持って来ていたので撮影していたら突然ファインダーが真っ暗になる。バッテリー切れ。朝、家を出るときは十分にあったような…。もともと大した写真が撮れる腕じゃないので気にしない。花を綺麗に撮れたら楽しいだろうな、と思う。

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東照宮の前は人だかり。でも中へ入る人は少数らしく、自分たち以外には誰もおらず。後から何人か来たが、土曜日なのに閑散としていた。やはりお金を払う、というのがハードルになるのだろう。上野公園へも、上野東照宮へも何度も来ているが、自分も中へ入ったのはこの日が初めてである。絢爛な佇まいは日光東照宮を彷彿とさせる。外の唐門の龍の彫刻は左甚五郎の作だという。

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公園を出て、パンダ橋を歩き、アトレ内のつばめグリルで遅い昼食というか早い夕食というかを食べる。緊急事態宣言発令に伴い、アトレは25日から宣言中は休業するとの表示があった。自分の住んでいる市も25日から「まん延防止等重点措置」の対象区域となり「県境をまたぐ移動自粛」の「お願い」が出たため、連休中に行くつもりだった宿をキャンセルした。今年の連休もまた昨年同様こもって過ごすことになる。部屋のペンキ塗りをしたり、読書したり(「鳥獣戯画のすべて」展の分厚い図録とか)、近場の低山をトレッキングしてもいいだろう。遠出したっていいのではという気もしなくもないが、何かあって後悔するかもしれないリスクを考慮すると大人しくしている方を選ぶ。自分や家族や親しい人に万が一にも何かあった場合を考えると慎重にならざるを得ない。東京、京都、大阪、兵庫の4都府県は、宣言期間中、大型商業施設のほか映画館や公園も休業となり、酒類を提供する飲食店には休業要請するという。政府はいつまでこんなことを繰り返すのやら。