永江朗『51歳からの読書術』を読んだ

 

51歳からの読書術―ほんとうの読書は中年を過ぎてから

51歳からの読書術―ほんとうの読書は中年を過ぎてから

  • 作者:永江 朗
  • 発売日: 2016/02/01
  • メディア: 単行本
 

中年に関する本として選択。著者個人の読書の方法論。扱われるのはほぼ文芸作品のみ。しかし読書のスタイルとして本書の内容は文芸以外の読書にも適用できると思う。以下、自分が参考にしたくなった箇所をメモ。

 

何を読むか迷ったら文学賞受賞作を読め

賞なんて政治だろうという気もしなくもないが見識のある評者が選ぶのだから優れた作品なのだろう。芥川賞直木賞は読まなくていい。野間文芸賞谷崎潤一郎賞泉鏡花文学賞大佛次郎賞受賞作がおすすめだという。その理由はとくに書いていないのだが。以上の賞を意識して読んできたことはなかったが、試しに自分がこれまで読んできたのがどのくらい入っているかWikipediaで確認してみた。野間文芸賞は『山の音』『金閣寺』『まぼろしの記』『黒い雨』『枯木灘』、谷崎賞は『抱擁家族』『沈黙』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『雪沼とその周辺』、泉鏡花文学賞は『シングル・セル』『グロテスク』、大佛賞はなし。挙げたタイトルの半分以上に感心した・面白かった記憶があるので著者の主張は妥当かもしれない。大佛賞受賞作に面白そうなタイトルが多々ある。

 

一年間のテーマを決める

年間これというテーマを決めて読む。特定の作家だったり、ジャンルだったり。自分も何度か同ジャンルをまとめ読みしようとしたことがあるが三冊目くらいで飽きてしまう。もう今年も半分が経とうとしているが、自分は今年一年のテーマとして「中年」に取り組もうか。特定の作家を選ぶとしたら今年は山田太一を読みたい。

 

新書は優れた入門書である

新書は専門家が一般読者向けにわかりやすくコンパクトにまとめたものが多い。具体的な理由は書いていないが、岩波新書(岩波ジュニア新書)、中公新書講談社現代新書が外れの少ない御三家。あまり新書は読まないが、確かに岩波と中公には信頼感がある。著者はこれら三レーベルを挙げたあとでさらにあれもいいこれもいいと足していくのだが、それだと多すぎる。忖度したのだろうか。

 

山川の教科書とちくま評論選

著者は読書のお供として山川出版社の日本史と世界史の教科書を机のそばに置いておき、気になる箇所があると引くという。素晴らしい読書スタイルだと思うけれど、自分は(四方田犬彦『人間を守る読書』のように)読書の大半をベッドでしているので真似するのは難しい。四方田氏は楽しみの読書を「読む」、勉強のための読書を「調べる」とカテゴライズした。自分はもっぱら「読む」のみ。ちくま評論選は受験参考書としても評論のアンソロジーとしても優れているとのこと。読んでみたくなった。

 

老眼なら電子書籍おすすめ

毎日新聞社が行っている読書調査によると普段本を読むと回答する人の比率は1960年代から殆ど変化していないという。そして若者より中高年の方が読んでいない。中高年の「読書離れ」の原因として考えられるのが老眼・飛蚊症白内障。自分も、元々の近視に最近では老眼が加わり二時間続けて本を読んでいると目がだいぶ疲れる。2段組の本を長時間読むのは結構辛い。電子書籍なら文字のサイズを好みに変更できるので中高年に向いている。Kindle Paperwhiteならバックライト搭載で目への負担も少ない。自分も買う本の三割くらい(漫画はほぼ全て)電子書籍で買っているが、大半が1000円以内の本ばかりで、かたちのない電子書籍に3000円とか出す勇気はまだ出ない。3000円出すならばリアル本を買う。あと、中年になって気づいたのだがフォントや文字サイズによって読書のしやすさが違ってくる。読みやすい本とそうでない本がある。岩波文庫の最近のバージョンはとても読みやすい。みすず書房白水社早川書房も読みやすい印象がある。文庫本の小さい文字を大きく改版した最初はたぶん新潮文庫だったと記憶している。確かに文字は小さいより大きい方が読みやすいのだが、ページとのバランスも重要。講談社文芸文庫で復刊した『死の島』は読みにくかった。

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これと関連してそうだがデザイン大事。 

 

悲しい本は読まなくていい

現実が辛いのに本(映画でもなんでも)でさらに辛い世界に浸るのは精神的に自分を追い詰めることになるのではないか、という指摘。賃労働でその日その日を食い繋ぐ毎日はそれだけで辛い。ましてやコロナ・パンデミックの昨今、連日ニュース番組はウィルス感染者数から報じる。今日は何人感染、何人重症、何人死亡、と。こんな毎日がもう一年以上も続いているのだから気分は滅入る一方である。カミュの『ペスト』新訳とかサラマーゴの『白の闇』とか、平時なら楽しく読めるのに今は現実と重なってさらにしんどくなるから読めない。フィクションは辛い現実からの避難所であるべきと自分は思っている。

ハッピーエンドって「浅い」よな、そう思っていた時期が俺にもありました。実際、圧倒されるような小説の大半はハッピーな内容ではない。

 『カラマーゾフの兄弟』とか『世界終末戦争』とか『シルトの岸辺』とかもそう。カフカだったか、自分を脳天から叩き割る斧みたいな本だけが読書するに値するとかなんとか言ったのは。でもそういう意見は若い人のそれ、という感じが、中年になった今はする(カフカは40歳で亡くなった)。若い頃は体力も気力もあるから重い内容を読んでも平気だが、年食ってくると体に堪えるようになる。また、ある程度現実生活が充実していて精神的余裕がないと重厚な内容のはきつい。ホラー映画がバブル期を頂点に日本で衰退していっているのも似たような理由からではないだろうか。自分も若い頃はホラー好きだったけど最近きつくなってきた。『スペイン一家監禁事件』、見たかったのにいざ見たらしんどかった。

nikkan-spa.jp

ハッピーではないかもしれないが読んでいてうっとりした小説は何だったか。ラルボー『幼なごころ』、ラディゲ『ドルジェル伯の舞踏会』、コレット青い麦』、ル・クレジオ『地上の見知らぬ少年』、シュティフター『晩夏』、ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』、あとは小山清庄野潤三は読み終えていいものを読んだという恍惚と充実があったような気がする。『ウォーターシップダウンのウサギたち』はめちゃくちゃ面白かったが、再読して初読時の感動が薄れるのを恐れて再読できずにいる。ナボコフなら、読書は再読しかありえないというだろうが。

 

他にもいろいろ書いてあったがとくに自分が参考にしたいと思った箇所は以上。

 

 

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