映画『アオラレ』を見たが…

unhingedが原題。頭のネジぶっ飛び野郎みたいな感じか。スピルバーグの『激突!』を思い出させる、逆ギレ煽られスリラー。スピルバーグ煽り運転手には背景がなくそれがゆえに不気味さがあった(煽ってくる反面、子供たちに道を譲る。車から降りてこない)。対して本作のラッセル・クロウは、社会から弾き出された「負け組」「無敵の人」であると背景が描かれる。冒頭近く、アメリカ社会全体にフラストレーションが溜まっており、人々は互いに攻撃的になっているみたいな説明がある。日本でも数年前から煽り運転が犯罪として注目されるようになり、今やドラレコは必須装備といってもいいほど定着した。アメリカも似たような状況の様子で、世の中全体がギクシャクしているのだろう。みんなムカついてる。

 

自動車の運転は日常であり、この映画は日常に起こりうる暴力を描く。ラッセル・クロウは無敵の人だが、主人公の女性も恵まれた環境にいるとはいえない。いわば困窮者同士で衝突している図になるのがやるせない。『激突!』との違いとして本作のラッセル・クロウは煽ってきた主人公への怒りに留まらず、その周囲の、彼女の家族や友人たちにまで危害を及ぼそうとする。白昼堂々、人目を気にせず殺人を犯すやべー奴。弁護士の首にナイフを突き立てたり、弟の恋人を何度も刺したりするシーンは暴力描写として過激で、ラッセル・クロウがこんな汚れ役をやるんだ、と驚いた。

 

感想としては、カーアクションのあるB級スリラーかな、と。いつの間にやらタブレットをシートの底面に貼り付けたり、トラックからミニバンに乗り換えてたりしたのはご都合主義的に感じた。スマホの履歴から主人公を先回りしたり、警官を名乗って油断させようとしたり、かなり犯人は頭が回る。なんか『スマホを落としただけなのに』的な一面もあるか? 煽り運転ってカッとなってやるものだろうに、こんなに怒りが持続すること自体がファンタジーといえばファンタジー。肝心のカーチェイスの迫力がイマイチだったのは撮り方の問題か、自分の感性の問題か。終盤の、画面奥から主人公の車が突っ込んでくるシーンはよかった。ローリーがパトカーを潰すシーンといい、車と車が衝突するシーンは興奮する。見終わって、煽られる恐怖を描いたというより、クラクションがきっかけでサイコ野郎の標的にされる恐怖を描いた映画だったな、と思った。