映画『はるヲうるひと』を見たが…

佐藤二朗のユーモラスな演技は寒く感じてしまい苦手である。だから原作・脚本・監督・出演の本作を見るか迷ったが、予告を見るとシリアスそうで、二年前に見た『岬の兄妹』のようなヘビーな内容を期待して見に行った。

 

思っていたよりいい映画だった。けれど、見ている間ずっとちぐはぐな感じがした。そう、この映画の感想としてまず思い浮かぶ言葉は、ちぐはぐ。基本的にはシリアスな愛憎劇である。ある島の置屋を舞台にして描かれる腹違いの兄弟の確執。置屋の経営者である長兄は、かつて父親が妾と心中したことで妾の子である弟妹を憎んでいる。ポン引きの次男は兄に従順で、少し薄弱の傾向があるようにも見える。妹は病弱で普段は床に伏せている。アルコール依存症でもある。血縁へのこだわりなどは戦後文学的。ケータイもスマホもテレビも出てこない代わりに火鉢や原発建設工事が出てくる。昭和中期頃が舞台か。長男の自宅も昭和レトロなインテリアをしていた。そういえば画面もざらついた褪せたような色味だった。でも山田孝之演じる弟は金髪で、もっと現代に近い時代のような印象も受ける。舞台は昭和レトロ風なのに登場人間は現代風、いわば画面のちぐはぐさを終始覚えながら見ていた。

 

映画全体の調子、テンポ、これもちぐはぐだった。主演の山田孝之はじめ俳優陣の演技は基本シリアス。でもミャンマーから来たという男性だけは常に寒いボケを連発する。これが映画のリズムを悪くしていた。片言の日本語でズレた発言をする人物設定にも不快感を抱いた(演じた俳優にではなく人物設定に)。シリアスな愛憎劇の息抜きとなるユーモア担当としてこの人物を出したのだろうが、いない方がいい映画になったと思う。冬の路上で日焼けしながら「全然焼けない」とぼやくチョイ役がいたが、この映画のユーモアとしてはあの程度でいい。実際、あの人は終盤でいい味を出していた。ミャンマーの男性のギャグは過剰すぎてうんざりする。山田孝之も、仲里依紗も、迫真的ないい演技をしていただけにもったいなく感じた。ギャグとは物事を相対化する視点から生まれるもの。だからシリアスな劇とは相性が悪い。佐藤二朗という人が基本ふざけたくなる人なのだろう。

 

山田孝之仲里依紗はどっちもよかった。仲里依紗がこんな美しい顔をしていたとはこの映画を見るまで知らなかった。佐藤二朗も不気味な男を演じていて迫力があった。「ここにいていいのか」と呟き続けるシーンは怖かった。山田孝之が、両親が心中した家に飛び込んだ後のシーンはそのおぞましさにびっくりした。あのシーンがこの映画の白眉だろう。坂井真紀は…どうだろう。きつい方言を一人だけ使うのがかえって徒になっているように感じた。あと、役柄にしては綺麗すぎるというか、スレた感じが乏しくて違和感があった。

 

血縁の問題とか、愛のある性交ない性交だとか、「まっとうな幸福」だとか、提示されるテーマのいちいちに、現代でこれやるのか、なんか古いなあ、という印象を持った。そうか、ここまで書いて今気づいたのだが、だからしつこいギャグはあって正解だったのかもしれない。でないと、なんかシリアスな古くさい映画、で終わってしまったかもしれないから。このあたりは好みの問題。最初から最後まで飽きずに見られたし、前述の実家に飛び込むシーンとか、酒瓶を兄妹で取り合いするシーンとか、ラストの海岸のシーンとか、印象的なシーンも結構あって、悪い映画ではなかった。兄と妹が並んで海を眺めるラストシーンは、光の加減が絶妙に寂しい感じを演出していて、とてもいい画だった。