吉田豪『サブカル・スーパースター鬱伝』を読んだ

 

 

中年本の一冊として。なぜサブカルは四十を過ぎると鬱になるのかをめぐるインタビュー集。リリー・フランキー大槻ケンヂ杉作J太郎松尾スズキユースケ・サンタマリアなどが登場する。まず、自分はサブカルが何なのかよくわかっていない。著者が冒頭でマガジンハウス系とコアマガ系がどうしたとやたら語っているのだが、門外漢としてはそんなのどうでもいい。冒頭部分はミラン・クンデラ『冗談』の終わりに出てくる女子学生のような冷めた気持ちで流し読みした。

 

サブカル中年が心を病みやすいのは、日に当たらない不規則な生活と運動不足のせいではないかと著者は推測する。自己管理を徹底し、規則正しい生活を送り適度に運動する…これである程度の健康を確保できそうな気もする。本格的な病いに関しては無効だろうが、ちょっと滅入ったくらいのレベルであれば。本書に登場する人たちは皆中年の危機を四十前後で迎えており(もう少し早く経験した人もいる)四十歳が鬼門になっている。もう若者ではなく、さりとて老人でもない狭間の年代。若い頃のような体力はなく、かといって枯れきってしまったわけでもない。余力があるからこそ却って辛い、そんなところか。唐沢俊一はこう語る。

サブカルの基本はフットワークと情報収集でしょう。それがこの年になるとある程度惰性になってきますからね。古書店古書市に通い、古本を集めることもある時期から…つまり四〇代後半になると、自分があと何年生きるかっていう情報収集の期限が見えてきちゃう。幸いにも多少老眼は入っているとはいえまだ本も読めるけれども、六〇代の先輩に聞いてみると、字を読むこと自体かなり苦痛になってくるらしいんですよ。

自分の場合、四十代になってからは若い頃のようなイケイケで仕事に取り組むことはまずなくなった。ブルーワーク、まず体に負担がかからないこと、怪我しないことを第一に考える。もちろんシングルタスク。多少経験を積んだことで得た知識、それを活かして適度に頑張り、適度に手を抜く。やるべきことはきっちりやるが、余計なことには進んで関知しない。若い頃のペースで四十過ぎても仕事したら体がもたない。まだ今の会社で定年まで20年近くあるが、自分がどの程度のクラスまで行けるのか、目安はすでについている。たいしたところまでは行けない。己の限界が見えてしまう中年の悲しさ。いや、出世願望ないからいいんだけど。長と付く立場になると病みそうだし。

 

本書に登場する人物のうち本当の(と言ってしまっては失礼かもしれないが)鬱病を発症したっぽいのはユースケ・サンタマリアのみで、他の人は鬱っぽいか、あるいは何らかの病気だったのかもしれないが、起きられない、食事が喉を通らない、激痩せする、というレベルの鬱病となると一人だけのように思える。杉作J太郎がかなり具合が悪かったときアイドルに救われた、アニメに救われたというのを読んでいい話だなあとは思ったけれども、多分本当に鬱病だったらアイドルやアニメを見る気力さえ出ないのではないか。そういう意味では本書に登場するのはバイタリティ旺盛な人が多い、と言えるだろう。体力の衰えのほか、親の介護問題だったり、金銭問題だったり、家庭の不和だったり、仕事の内容や職場の人間関係だったり、中年が病む理由は無数にある。

 

本書のインタビュイーは皆口を揃えて40歳になる頃が一番危険だと言う。しかし自分の場合、40歳になってもとくにメンタルに大きな変化はなかった。心を病むこともなく、大きな病気をするでもなく、43まで無事来た。だから本書を読んでもあまり身につまされる部分がなかった。2017年前後の日記が少しだけ残っているので読み返してみたが、40前後で変化はなく、記憶している限りでもこれといった心身の衰え・失調はなかった(35くらいのときちょっと変になったことがあるので自分は40前に済ませてしまったのかもしれない)。42歳のとき四十肩になったくらい。これは一年以上経つ今もまだ治らない。独身こどおじだから生活に変化がなく、金の問題に悩まされずに済み、両親ともまだ健在だから介護の問題もなく、だから病まずに済んでいるのかもしれない。あとは体調の変化というと、老眼が始まった、食が細くなった、痩せにくくなった、性欲が減衰した、0時前には眠ってしまい朝は5時過ぎに目覚めるようになった、など。似た話は下の記事にすでに書いた。

 

インタビューする相手は豪華なのにページ数が少ないからいまいち話の内容が薄いのが本書の残念な点。以上、そんなところ。

 

 

『鬱伝』を知ったのは荻原魚雷『中年の本棚』による。この本は本当にいいガイド。

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中村光夫は失禁の悲しさについて赤裸々に書いていた。それくらい突っ込んだ話を『鬱伝』でも聞きたかった。

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『鬱伝』にも登場する杉作J太郎の本。文庫化すればいいのに。今となっては遅いか。

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この本、あるあるの連続で面白かった。

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