『柳下毅一郎の特殊な本棚』を読んだ&DMMブックスアプリの操作性について

 

 

どこから見つけてきたんですか? と訊きたくなるような特殊な本ばかりを集めた書評集。大手出版社の本もいくらかは混ざっているが、大半は聞いたことのない中小出版社の本や海外の本、官公庁の出版物、さらには自費出版物が占める。本書を読んで世の中にはこんなに数多くの奇怪な本があるのかと、もちろん本書で紹介された本すら世界の出版物という砂浜においては一握の砂に過ぎないのだろうが、とにかく圧倒された。世界は広い。

 

事件記録、ノンフィクション、コミック、小説。それらは実際の殺人事件や殺人犯に関する本という点で共通している。『福島県犯罪史』(福島警察本部)や『長野県犯罪実話集 捕物秘話』(防犯信州社)や『珍しい裁判實話』(法令文化協會)なんて本、どこで見つけてくるのだろう。やっぱり神保町か? 本書で紹介されている古書を、仮に自分が神保町で買って読んだとしても楽しめるかどうか…。本書のユーモラスな書評の方が実物を読むより面白いんじゃないかと思ってしまう。書評だって技術であり創作である。だから実物より面白い書評が存在するのだし、そういう優れた書評だけを読みたい。

 

1冊目から凄い。Love Sick(恋わずらい)著『MY JODIE BOOK』。著者が1993年にサンフランシスコの雑貨屋で購入した自費出版物で、A4版100ページほどの両面コピーを綴じてあるだけの体裁。版元の名前がなく代わりにサンフランシスコの住所が書いてあるだけなので、恐らくは書いた(作った)人がコピーして売り歩いたのではないかとのこと。内容はタイトルの通りジョディ・フォスターに関するあらゆる雑誌記事のスクラップ。少女モデル時代から子役時代、さらには『告発の行方』や『羊たちの沈黙』の写真、雑誌インタビュー。合間には作者からジョディへの愛の告白が記されている。「きみがそんな振る舞いをすると頭がおかしくなっちゃう」。著者曰く「ストーカーのスクラップブックそのもの」。ジョディ・フォスターのストーカーといえばレーガン大統領暗殺未遂犯ジョン・ヒンクリーが有名だが、このスクラップブックにはヒンクリーの記事もスクラップされているという。なにそれこわい。ペンネームが恋わずらいってのも相当キてる。

 

海外の話題では、何人もの入居者を次々殺しては庭に埋めて何食わぬ顔で代理人として社会保障小切手を受け取っていた養護ホーム経営者や、ロマン・ポランスキーにレイプされた少女の自伝、J・G・バラードの『クラッシュ』の元ネタになった自動車事故が人体に及ぼす破壊的影響を研究した医学書などがとくに面白かった。「史上最低のミステリ作家」H・S・キーラーについては3章も割いている。日本だと昭和初期の事件記録が面白い。警察は科学捜査なんて最初からやる気がなくて、容疑者に暴行したり拷問したりして自白させるのが当たり前、人々はおおらかというか人権意識が希薄で、今と感覚が違い過ぎて凄惨な事件の話でも苦笑してしまう。たとえば火葬場で損壊した焼死体が見つかった事件。実はその死体は焼却担当者がベロベロに酔っ払って燃やしたご遺体で、適当に火を入れたから時間になっても半焼けのままだった。慌てた彼は燃え切った部分だけを切断して何食わぬ顔で遺族に骨を拾わせ、半焼けの遺体は後でもう一度焼こうと思ったが、日々の雑事に追われて燃やすのを忘れたまま放置してしまっていた…とか、すげえ。これまでもそれなりに書評集を読んできたと思うが、こんなに風変わりな本ばかりのは初めてだ。

 

というわけで本書の内容に関しては文句ないのだが、プラットフォームについて一言ある。本書は電子書籍版しか出ていないので、ちょうど50%ポイント還元セール中だったのもありDMMブックスで買った。これまで電子書籍Kindle一択だったが、いつか来るかもしれないサービス終了のリスクを分散する意図もあった。ところがアプリを使ってみて二つ問題があった。一つは、スマホだと目が疲れるからiPad miniで読んだのだが、文章にマーカーを引くと何秒かしてから消えてしまう。もう一つは、DMMブックスのアプリが重いのか、ダウンロードしてある本なのに読み込むのに時間がかかるときがある。この二点の不具合のせいで読書中ストレスを感じた。アプリが重いのは自分のiPad miniが古いせいか? 漫画に関してはKindleと大差なく不満はないが、文字の本に関してはDMMブックスは微妙。とくにマーカーが消えてしまうのは致命的だ。Paperwhiteが利用できるKindleの方が使い勝手がいい。E-inkがもっとサクサク表示できれば言うことないのだが…。いずれは他の電子書籍サービスも利用して更に比較してみるつもり。