母の引っ越し

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アラームは5時50分にセットしていたが5時半頃に目が覚めた。ベッドから出て階下へ降り、トイレで排尿したのち洗面所で手を洗い、口をすすいだ。少し肌寒く、蛇口から温水が出てくるのに時間がかかった。水をコップ一杯飲んだ。朝食兼弁当のスープを作るため鍋に水を入れ、加熱ボタンを押した。冷蔵庫からカット野菜の袋と餃子のパックを取り出した。父が起きてきて、無言のまま玄関から出て行った。すぐ戻ってくると朝刊を食卓の上に置いて脱衣所に入り、洗濯機を回した。ちらっと朝刊を見ると当然ながら一面は昨日の衆院選の記事。自民党単独過半数確保。湯が沸いたので味覇を溶き、無造作にカット野菜と餃子2個を鍋に投入、した、ところで、頭上から物凄い音がして天井が揺れたようだった。重いものを倒したような音。「倒れた!」自分は即座に叫んだ。父が脱衣所から飛び出してきた。二人で階上へ行くと、中二階からの四段ほどの小階段の下で母が倒れていた。仰向けだった。小階段の下にあるトイレに行こうと手すりを掴まって降りたものの、おそらくは寝起きで呆けていたのだろう、足を踏み外してそのままぶっ倒れたようだった。一見したところ外傷はなく、意識もはっきりしていた。どうしたのかと聞くと「転んじゃった」としか言わない。父と二人がかりで起こそうとしたが、母は73歳なのに70キロ近い肥満体。重くてなかなか起こせない。本人は足が弱っているから踏ん張れない。それでもなんとか起き上がらせてトイレへ行かせる。

 

頭をぶつけているようだから、救急車を呼ぶほどではないだろうが病院で診てもらった方がいいだろう、と父と話す。鍋があったので自分は先に下へ戻る。父に付き添われながら母が階段を降りて一階のリビングへ来た。座ると「頭が痛い」と言い出す。少し前に近所のクリニックへ行った際、父がそばを離れている僅かな間に踏ん張れずに駐車場で倒れ、偶然通りかかった警察官二人に助けてもらうという出来事があった。足腰が弱りきっているのだ。70キロ近い体重を支えきれなくなっているのだ。父は朝が早い仕事である。自分が病院に連れて行こうかと言うと、どのみち今日の午後、近くの総合病院に腰痛診察の予約を入れているからそのついでにMRIを撮ってもらえばいいと父が言った。ではそうしようとなって、朝食を済ませ、余りをスープジャーに注ぎ、コーヒーを淹れてテレビのニュースを見ていたらスマホがビービー鳴り出して地震が来た。横揺れ。だがすぐおさまった。最近地震が多い。少しして母はまた父に付き添われて二階の寝室へ。自分はその間にほったらかしになっていた洗濯物を干した。空は曇っていたが降水確率は10パーセントとのこと。父が所用で先に出たので、家を出る前に母の様子を見に行くとうとうとしていた。父が帰ってくるまで絶対に一人で階段を降りるなよと言い置いて自分も家を出た。なんかあったら連絡くれと父にLINEしておいた。

 

結局就業時間中に何も連絡はなかった。まあそうだろうと思い自分からも連絡しなかった。定時ですぐ会社を出て五時半には帰宅。玄関から入るとリビングに置いてあった家具が出ていた。「引っ越しか」と思わず声が出た。「うん」と奥から父が答えた。もう危なくて母に階段の昇り降りはさせられない。だから広くないリビングだが一角を空けてそこに二階からベッドを移動させるしかない。夜中に催して目が覚めても(リハパンを穿いているが)リビングならばすぐトイレに行ける。

 

上がると母がリビングの椅子に座っていた。「どうだった?」と訊くと「MRI撮った」と返事。「結果は? なんでもなかっただろ」と言うと結果は土曜日にわかるという。写真を見る医師がいないのだろうか? 随分悠長だなと思ったが、すでにこれまでにも何度も倒れているので本人も周囲(自分や父)も慣れてしまっているところがある。普通なら階段を踏み外して頭を打ったとなると大騒ぎだろうが、母はこれまでにも似たような件や別の件でもう救急車に四回か五回は乗っている。

 

軽い家具は父が片付けていたので、手を洗うなりすぐ棚などの重い家具を二人がかりで脇へ移動させた。スペースができたので二階のベッドを父がばらし、自分がそれを下へ降ろす。昔の家だから階段が狭い。リビングで組み立て直し、マットやら毛布やら掛け布団やらを降ろしてベッドメイクして終了。なんだかんだで40分くらいかかったか。狭いリビングはさらに狭くなってしまった。「今後は二階へ行くの禁止な」と母に言うと頷いたがわかっているのかどうか。言うことを聞かない人だからきっとまた懲りずに階段の昇り降りをするだろう。しかし今更と自分でも思うのだが、しばらく前から階段を降りるのが危なっかしく見えていたのだから(昇りは大丈夫そうだった)もっと早く一階に母の生活圏を移動させるべきだったのかもしれない。でもそうは言っても実際にリビングにベッドが置かれると、家族のとはいえちょっと嫌なものである。なんかだらしねえというか、生臭いというか…。まあそんなこと言っていられないのだが。父とベッドを組み立てながら、「次にこのベッドをばらすときは…」「(母が)死んだときだろうな」と軽口を言い合った。今年一年で急にめっきり老け込んだ感じがあり、もしかすると本当にもしかするのかなあという気もしなくもないが、母は四人きょうだいの末っ子で、姉兄たちはみな健在で、認知症だとか施設に入っているとかいうこともない。末っ子の母が一番早く老け込んでしまっている。順番じゃないのかよ、と不思議に思う。

 

とりあえず階段を踏み外して転倒するリスクは排除できたのでよしとする。今は嫌な違和感があるが、一月もすればリビングにベッドがあるのにも慣れるだろう。

 

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