映画『パーフェクト・ケア』を見た

U-NEXTの配信で。1900ポイントは映画館の一般料金とほぼ同額。自宅のなんちゃってホームシアターで見ても迫力に欠けるが、近場の映画館で上映していないのでそこまで行く交通費や時間、さらに席ガチャとトレードオフと考え配信を選択。

 

老人を食い物にする恐ろしい女の話。医者と共謀して身寄りのない裕福な老人を無理やり施設に入居させ、代理人として資産を合法的に奪う。法律を知り尽くしているのでマフィアでも正攻法では彼女に勝てない。『ゴーン・ガール』もそうだったが、アクの強い主人公を演じるロザムンド・パイクの存在感が圧倒的だった。物凄い美貌なのにストーリーを追ううちにその美貌がとにかく憎らしくて嫌らしくて我慢ならなくなり、彼女が不幸のどん底に突き落とされるのだけを期待しながら見ていた。ゲースロのジョフリー然り、演技で観客をムカつかせることができる俳優は本当に素晴らしい。主人公はある意味無敵の人である。マフィアに拘束されても殺されるのを恐れないし、母親を殺すと脅されても「あんな毒親」と吐き捨てて顧みない。こういう捨身のやけくそ人間ほど強くて恐ろしいものはない。だからマフィアは殺そうとする、が間抜けにも仕留め損なう。なぜ死んだかどうかきちんと確認しないのか。猛獣のような人間を殺し損なうのがいかに危険かを知らないマフィアなんて。案の定彼女は逆襲に出、マフィアは敗北する。彼女はかつて以上に社会的地位と権力を手に入れる。この展開は胸糞悪い。全部マフィアが間抜けなせいだ。ラストで彼女が受ける報いは観客の感情を考慮した結果仕方なくそうした、みたいなとってつけたようなもので、これならいっそ最後まで勢いよく突き抜けて胸糞悪いまま終わりでもよかったのでは、と思った。

 

いずれこんな事件が本当に起きそうと思わせるようなストーリーだが、『柳下毅一郎の特殊な本棚』によるとすでにアメリカでそっくりな事件が起きていた。老人を食い物にした養護ホームの女性経営者。彼女は身寄りのない社会保障受給者を受け入れ、彼らに給付される社会保障小切手を偽造の筆跡で現金化し、さらに入居者から指輪などを盗んでいた。ホームの庭を掘り返すと都合七体もの遺体が出てきたという。彼女の事件は本になって翻訳もされているので(ダニエル・ブラックバーン『ヒューマン・ハーヴェスト』)いずれ読んでみたい。

 

ムカつく、イラつく映画だったが面白かった。今年自分が見た洋画の中では数少ないアタリと言っていい。今週末見に行く『ラストナイト・イン・ソーホー』もアタリであってほしい。

 

 

この本も『新世紀読書大全』も素晴らしいブックガイド。

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