グランドシネマサンシャインには2019年に『ジョーカー』のIMAXを見た一度きりしか行っていない。国内最高峰のIMAX設備らしいが当日は台風で大雨、観客は十人もいなかったので存分に空間と映画を満喫できた。以来行っていないが池袋は同じ埼玉県、いつかまた行くだろうと思って有料会員のままでいたらコロナ禍に、でも年会費500円だからと2年間会費を払っていたらポイントが溜まっていて一本無料になっていた。見たいけれど近場で公開していないから配信まで待つつもりだったジュリア・デュクルノー監督の新作『TITANE/チタン』がかかっていると知り、久々に池袋へ。池袋自体、2019年に映画を見に行って以来である。間違って西口に出たら現在地を見失って戸惑った。埼玉県なのに馴染みがない。早めに来たので往来座とジュンク堂に寄った。無敵家はかつて常に長蛇の列だったのにこの時は日曜夕方で15人くらいだった。ジュンク堂で欲しかった本を何冊か購入。レジの行列が物凄く、セルフレジで30人くらい、有人レジはもっと。一階でしか会計できないから自然そうなるのだろうが列を見てげんなり。買った本は配送してもらった。
で、久々のグランドシネマサンシャインへ。前に来たときは平日の昼頃だったか、ガラガラでロビーにもほとんど人がいなかったがこの日は打って変わって人が溢れていた。コナンの新作が公開されたらしいのでさもありなん。『TITANE/チタン』はというと観客30人くらい。都内の映画館にしては入っていなかったのでは。新宿とかこれ見る人いねーだろーなーって映画でもほぼ満席になったりする。カップルも多かった。映画の前知識はほぼない状態で見に来たが、序盤に結構なゴア描写があり退席する人もいたと聞いていたのでそれも少し意外だった。まあ他人のことはどうでもいい。『サタンタンゴ』にもカップル来てたしな。
デュクルノー監督の『RAW 少女のめざめ』は自分のオールタイムベストと言っていい映画である。その監督の新作で、カンヌのパルムドール、ハードルはかなり上がっていた。が、見終わってみると…うーん…。
チタン見たけどわけわからんかった
— Hhh (@eleintheforest) 2022年4月17日
直後の感想。難解。しかし退屈ではなかった。108分の上映中飽きずにスクリーンを見ていられた。見ている最中何度も思ったのは「変態映画じゃん」。見終わってすぐ思ったのは「やべーなこれ」。
散漫で断片的な印象しか残っていないので感想を文章にまとめるのが困難。公式サイトの「完全解析ページ」を参照しつつ自分なりに箇条書きでだらだらと。
・冒頭、坊主頭の少女は『マーターズ』の拉致監禁されてた少女たちを連想した。
・主人公はシリアルキラー。交通事故の治療としてチタンを脳に埋め込んだのがきっかけでそうなったのか。冒頭、クセの強い子のような描写があったので元々素質があったのをチタンが助長したのか。
・主人公は凶器を常に身につけている。いかにもサイコパスっぽくすぐ人を殺すのはショッキング。腕力すげえ。
・上映中ふと斜め前にいたカップルが目に入ったのだがゴアシーンで女性の方は下向いてた。しかし途中退席者は出ず、それどころかエンドロールまで全員着席してた。バルト9で『ハウス・ジャック・ビルト』見たときも途中退席者はいなかったな。
・自動車ショーみたいな場でボンネット上で主人公が踊るシーンは、ポルノじゃん…と思った。
・自動車への性的な執着は『クラッシュ』の影響らしい。クローネンバーグの映画は見ていないがバラードの原作は読んでいる(内容は忘れた)。でも自動車へ執着するシーン自体はそれほど多くない。異常だから強く印象に残るが。
・自動車の子供を妊娠したってのは新しい設定では。血の代わりにオイルが流れる。ラストシーンは『ローズマリーの赤ちゃん』っぽい。でもこっちはちゃんと生まれた赤ん坊を映している。異形に生まれた赤ん坊を祝福するラストは同じ。
・ギャランス・マリリエは前作と同じくジュスティーヌという名前で登場。主人公のアレクシアやアドリアンという登場人物の名前も前作に出てきた。
・主人公と両親との関係が判然としない。とくに父親との。
・ユーモア多し。乳首のピアスに髪が絡まるとか、ジュピの間抜けな登場とか、「マカレナ」歌いながらの心肺蘇生とか、消防車上でのダンスで皆ドン引きとか、ラストシーンとか。ラストのあれは笑うシーンだろ?
・外科手術、ピアス、タトゥー、剃髪、性の転換、妊娠・出産、老化、と身体をめぐる意図がなんかありそう。
・男女問わずこれだけ裸体が映るシーンが多い映画を初めて見た。上映時間の半分以上映ってたんじゃなかろうか。
・ヴァンサンは老化および死の強迫観念に憑かれている。ステロイドを打つ一方で自殺も試みる。彼の死への願望と対極に描かれるアレクシアの妊娠・出産。
・ヴァンサンは引き取った偽アドリアンに対して「俺がお前を殴ったら俺は自殺する」と妙なことを妙なタイミングで言う。焼死体の子供の幻視といい、ヴァンサンはおそらく息子を虐待していた。もしくは殺している。その罪悪感が偽アドリアンを引き取った理由だろう。
・消防車上のダンスで皆ドン引きはジェンダーに関する社会的抑圧の表現…のようにも見える。
・自分が『RAW』に惹かれたのは青春期の葛藤や苛立ちという普遍的なテーマをカニバリズムという異常性を絡めて祝祭的に描いていたから。今作のテーマはなんだったのだろう。性を超越して無機物とも愛し合える、妊娠できるという価値観が新しかったのかな。自分にはよくわからん世界だったが…。
・今作は全編画面が暗い。前作にあった祝祭的描写は最後のダンスシーンくらい。音楽はよかった。
・結論:変態的なヤベー映画。
以上。
『RAW 少女のめざめ』の感想記事。
hayasinonakanozou.hatenablog.com