映画『英雄の証明』を見た

アスガー・ファルハディ監督の映画はこれが初めて。序盤の展開はかなりゆっくり。状況説明もないので最初何が起きているのか理解するのに時間がかかった。元妻の父親(主人公の義父)に融資してもらって事業を経営していたが共同経営社に金を持ち逃げされ、返済するよう義父に求められたが払えなかったため投獄されている、というのが映画スタート時に主人公が置かれた状況。保釈じゃなくて休暇と言うからなんで囚人が休暇なんだ? と混乱した。で、新しい恋人の女性が金貨の入ったバッグを拾ったことから、これを盗んで返済にあてれば自由になれる、と主人公は目論む。しかし次第に罪悪感が募り、盗みはやめて正直にバッグを拾った旨を町中に貼り紙するとやがて持ち主を名乗る女性が姿を現す。このあたりまでは退屈で、何度か寝そうになった。イランはペルシア語? 抑揚に乏しく聞こえ、眠気を誘われる。

 

面白くなってきたのはこの持ち主の素性が怪しい…となってから。捜しても見つからない彼女の代理を立てて自身の「善良さ」(かっこつきの善良さ)を証明しようとあれこれ画策していく展開は嘘をつけばつくほど泥沼にはまっていくようで見ていて楽しかった。彼を利用しようとする周囲の思惑も事態を混乱させる。主人公は偽りの善人か、根っからの嘘つきか。貼り紙の連絡先を姉の番号ではなく刑務所の番号にした理由は本当に彼の主張どおりだったのか、それとも刑務所を通してアピールするのが狙いだったのか、どちらかで全然彼のキャラクターは変わってくる。バッグの「持ち主」(かっこつきの持ち主)も、彼女が他人の善意を利用することを何とも思わない悪党か、それとも困窮の挙句に思い詰めた行動だったのかで全然キャラクターは変わってくる。せっかく防犯カメラ映像の写真を持っていたのだから最後気づくのかなと思いきやそうでもなく。ラストは尻すぼみだった。