小野一光『新版 家族喰い』を読んだ

 

 

尼崎連続変死事件についての本。この事件でインパクトがあったのは主犯の「ファミリー」が暮らしていたマンション最上階の部屋のバリケード。周囲から見えないように囲ってそこで虐待によって人を殺していた。あんなものが自分の住むマンションにDIYされたら警察に通報するだろうにと思いきや、マンション住人たちは一味を恐れて見て見ぬふりをしていた。さすがにあれだけ異様なものがあると知ったら警察も注視したのでは、もちろん室内には入れないが殺されずに済んだ命があったのでは…と思ってしまう。甘いか。この事件は複数の家族が犠牲になっているが、彼らが主犯の角田美代子に監禁される以前に警察に助けを求めても民事不介入の一点張りで、そのことを恨む声は本書中で幾度も反復される。

以下、ブクログの感想からコピペ。

 

尼崎連続変死事件のノンフィクション。
複数の家族が長期間監禁、虐待、資産を奪われるなどして殺害された事件。死者・行方不明者は10人以上に及ぶ。

 

主犯・角田美代子による、家族同士で暴力を振るうよう仕向けて分断させる手法は北九州の事件を連想させる。が、あの事件の主犯のようなサイコパスな印象は本書を読んだ限りではない。親族間のトラブルなら民事不介入を理由に警察の手が及ばないと味を占めた無法者という印象。実際には交際のない暴力団の大物の影をちらつかせて相手を脅しながら、逆に本物が出てきたらビビって平身低頭して謝罪する小物感。自分だけさっさと獄中で自殺した点から考えても本性は人間性が卑劣なだけの小心者だろう。著者も書いているが「決してモンスターではない」。ここまで角田をのさばらせ大勢の被害者が出る大事件にしてしまったのは、何度も相談を受けながら民事不介入の一点張りできちんと角田周辺を捜査しなかった兵庫県警や香川県警の失態による部分も大きい(被害者の一人は逃亡後、最寄りの兵庫県警ではなく大阪府警に助けを求めて駆け込んでいる)。それでも桶川の事件のときの埼玉県警上尾署みたいにもみ消ししないだけまだマシか。

 

他人の家庭は破壊しておきながら自分は血のつながらないファミリーを形成して悦に入っていた美代子。子供の頃から両親に放置され、十代にして実の母親から売春して稼げと言われてやらされる。荒み切った家庭・生育環境ゆえグレたのだろうし普通に暮らしている普通の家族を、自身の生い立ちと比較して憎む気持ちもあったのかな、と思った。「かわいい妹」と口では言いながら共犯の妹(もとはいとこ)に50歳前後まで売春させて金を稼がせていたり、戸籍を動かすことに関しての感覚が軽かったり倫理観の欠如は窺える。

 

こういう手合いに絡まれた場合はまず警察に相談、警察がダメなら弁護士に相談。決して折れず開き直って「来るなら来い」の姿勢。反抗してきた相手に対しては手を出さなくなるのは北九州の事件も同じで、この手の輩は自分より弱い者を獲物に選ぶ。

 

凄惨な事件だが主犯の角田美代子に自分はあまり関心を持てない。なんでだろう。得体の知れなさみたいなのがこの人からはあまり感じられない。次々と殺人を犯した行動原理、その人間性、そういったものを知りたいという興味がわいてこない。むしろ角田美代子に取り込まれ、実の姉を殺害するにいたった共犯の女性や、角田美代子の「かわいい妹」として産んだ子を差し出すほど忠誠していた金庫番の方に関心が向く。角田に従っていたときの心境。「ヤクザでもないんですけど、教祖みたいな女のドンがいる集団」と角田ファミリーを評した証言があるが、教祖たりうるほどのカリスマ性が角田美代子にどれほどあったのか、本書を読んだかぎりだと伝わってこなかった。著者が面会していればまた違ったのかもしれないが…。しかし身内同士で互いの不満を言わせ合い、半目させ、支配下におくというマインドコントロールの手法は北九州の主犯とそっくりでその点は興味深かった。そしてどちらも「来るなら来い」と強気に応じてきた相手に対しては手を出していない。

 自分よりも強い者には徹底的に弱く、弱い者には徹底的に強い。それが美代子だった。自分を強く見せるためには手段を選ばず、虎の威を借りることが必要であれば、迷わず借りた。

 そうして、美代子は虚勢が通用する相手しか、毒牙にかけてこなかったのである。それは”相手に勝とうとするのではなく、勝てる相手を選ぶ”ということで徹底していた。

(略)

 美代子は決してモンスターではない。弱いからこそ相手を殺した。そうしなければ、自分がいつ寝首を掻かれるか、不安でしょうがなかったのだ。

 

彼女が自殺した理由は事件が発覚したことではなくて、自分が家族だと信じていた者たちが次々自供したために裏切られたと感じ、そのショックに耐えられなかったからではないか、とある人物は推察している。

 

 

 

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