pha『パーティーが終わって、中年がはじまる』と『エリーツ9 特集:45歳からの思春期』を読んだ

 

phaさんの新刊、楽しみにしていた。蟹ブックスで購入したのでサイン入り、さらにシールも付いてきた。嬉しい。

 

内容は中年クライシスをめぐるエッセイ。40代半ばになって20代30代までのようには生きられなくなってきたという。同世代(俺の方が一歳年長)の俺も今その渦中にいるように感じている。

 

中年になっての変化。

他人の存在がストレスに感じられるようになった。

身なりに構わないでいれば不審者感が出てしまうようになった。

創作のひらめきがあまり起きなくなった。

以前は楽しめていたことが楽しくなくなってきた。

これまでの自分の生き方が時代と合わなくなってきた。

そしてそのせいか、仕事の依頼も少なくなった。

等、なかなか寂しく厳しい(著者曰く「詰んだ」)状況が述べられる。

 

phaさんの場合、加齢による心身の衰えや慣れによる飽きの問題に加えて、これまでしてきたような、あまりお金をかけずに人と集まってだらだらしていれば楽しい、という生活スタイルが今の時代と合わなくなってきていることの難しさがある。

 若い頃は、お金があまりなくてもインターネットで遊びながら、安いチェーン店とかに行ってふらふらしていれば楽しい、みたいなことを言っていたけれど、そんな言葉は昔より世の中に響かなくなってきているのを感じる。

 自分はあまりにもデフレに適応しすぎてしまったのかもしれない。今まで自分の意見が注目されて本を書いたりしてこられたのは、低成長のデフレ時代にちょうど合っていたからだったのだろう。だけど、そんな考え方はもうインフレ時代には通用しないのだ。

 

コロナ禍以前までならチェーンのファミレスやカフェや漫画喫茶で比較的安い料金を払って時間を潰せた。しかしコロナ禍後、世の中の人手不足とインフレ化であらゆるもの・ことの価格が上昇傾向にある。スーパーでちょっと買い物したつもりが会計が3000円を超えることも珍しくなくなった。時代の空気も、以前より「ちゃんとお金を稼がねばならない」との意識が強まっている。いや、社会のインフレ化に対して実質賃金の低下が続く状況下で経済的な厳しさが増し、お金への執着が強まっているのが今の時代の経済感覚なのかもしれない。フリマサイトでの転売やSNSでのビジネス誘導やFIREや「貯蓄から投資へ」など。

 

ゼロ年代の頃は不景気が続いているなどと言いながらも、まだ社会全体に余力があったのかもしれない。今は、格差社会化や高齢化が進んだせいか、役に立たないものを面白がる余裕がなくなってしまった。そんな時代の空気の中で、自分の存在が少しずつ時代遅れになってきているのを感じる。今まではなんとかごまかしながらやってこられたけど、この先はかなり怪しい。

 

 なんだか少しずつ、何かが詰んできている気がしなくはない。

 この令和の世の中は、もう自分みたいな生き方が通用する時代ではないんじゃないだろうか、ということをときどき思う。

 

ゼロ年代頃のインターネットが楽しかったのはウェブ2.0的な楽観を信じられる余地がまだあったからだろう。かつてインターネットはオタクとインテリのものだった。しかしスマホの普及によりオタクとインテリ以外の人たちもインターネットを利用するようになった。ユーザーが増えればビジネスチャンスとばかりに企業も参入してくる。結果、これまで性善説に則って守られてきたネットの秩序が失われていく。SNSの登場は、ネットを、承認欲求と自己顕示欲とヘイトと劣等感煽りと金儲け詐欺といった人間のどろどろな部分を常に煮詰めている闇鍋のような場所にしてしまった。

 現実では出会うことのない人たちが出会ったり、現実では見ることのない本音にアクセスできるようになった結果、人々は無限にぶつかり合うことになった。ヘイトを煽るようなコンテンツでアクセスやお金を稼ぐ人間も増えた。

 ツイッターは、人間の怒りや嫉妬と相性が良すぎた。ツイッターは、人間の集合知を集める場所ではなく、人間の負の感情を増幅させる装置になってしまった。

俺にとっては、ネットはかつては逃げこむ場所だった。でも今は逆にそこから逃げる場所になりつつある。

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phaさんの文章はいつもながら平明で淡々としている。にも関わらず、タイトルにあるようなパーティーの終わり、祭りのあとのような喪失感や悲哀のトーンが終始漂っている。それは自分の生き方が時代と合わなくなってきたことと、かつては信じられたインターネットの未来がつまらないものになってしまったこと、この二点に由来しているように思われる。あとがきでは一緒に暮らしていた猫たちの死も報告される。phaさんの本をこれまで何冊か読んできて、読むたびに「こういう考え方もあるんだな」「こういう生き方もあるんだな」と気持ちが軽くなったり自由を感じてきた。でも本書を読んでも単純にそういう気持ちにはなれなかった。我が身に引き寄せて複雑な気持ちになった。今までやってきたようなやり方を変えてもっとミニマムにする必要性がありそうとか、一人で生きていくには人生は長すぎるのだろうかとか。ここ数年、俺の頭から消えない中井久夫の言葉が連想されたり。

人生前半の課題は挑戦であり、後半の課題は別離であるというテーゼがある。おそらく正しいだろう。それは所有していたものとの別離だけではない。所有しなかったもの、たとえば若い時に果たせなかったことへの悔恨からどう別離するかということもある。もはや果たすことはないであろう多くのことへの別離である。

 

 

phaさんと同世代の俺の日常もまた色褪せた退屈なものだ。

好奇心、体力、気力が衰え、寝つきが悪く寝ても眠りは浅く、だから常時体調はイマイチで、「楽しい」「美味しい」「美しい」と感じるアンテナが錆び付き、日々に彩りや潤いが欠けていく。今の俺の日常はそんな感じ。イライラすることはあまりないが何をするのも億劫で、かと言って何もせずベッドに横になれば時間がもったいない、何かしなくては、と焦燥感に駆られる。今の暮らしに不満はない。が、満足もしていない。ただ、こんなもんだろう、という諦念がある。

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更年期的な不調なのだろうと自分では思っている。

10代の頃から好きだった読書や映画がかすみ目や筋力の低下(本を持っているのがつらい)により楽しめなくなった。自分の場合、43歳から急に衰えが来たように思う。それまでは30代の延長的な感じで問題なくやれていたんだが。

外食や旅行は楽しさより出かける億劫さが上回るようになった。

仕事では年下の若い人たちに発想や行動力や瞬発力で絶対に敵わないと自覚するようになった。もう今の自分は主戦力ではない。控えだ。

 

 

男性の更年期を「45歳からの思春期」と言い換え、どう乗り切るか、あるいは付き合っていくか、について特集した『エリーツ9』も読んだ。先月開催された文学フリマ38で頒布されたが自分は行かなかったのでBOOTHでの購入。多数の執筆者による寄稿のため付き物の玉石混交感はある。中年クライシスに対しての温度差もある(全体的にあまり切実な深刻さはない)。

 

冒頭のエリーツメンバー5名による座談会、メンバー各人がスタイリストに服を選んでもらうファッション入門、海猫沢めろん滝本竜彦による創作をめぐる対談、中原昌也インタビューが面白かった。中原さんは現在54歳、中年クライシスどころじゃない脳梗塞のリハビリ中。40代へのメッセージとして、酒を控え、運動し、友だちを大切にしろ、と。ド正論だが、あの中原昌也がそう言うのか、と感慨深い。このインタビュー記事はとてもよかった。読んで元気が出た。

 

逆に読んでいてつらかったのが鈴木光司へのインタビュー。中年クライシスとは無縁の人生で、自分のバイタリティや趣味や仕事を自慢したり、「コロナウイルスのワクチンは効果ないから打たなかった、自分も家族も複数回コロナにかかったけど屁でもなかった」と豪語したり、俺の一番嫌いなタイプのおっさん感が凄くてげんなり。この記事をこの特集号にどうして掲載したんだろう。合っていない気がする。反面教師として? まさか。

 

 

人生を仮に80年とするなら、若い時期より中年以降の方がずっと長く続く計算になる。その領域に足を踏み入れたばかりでもうダメだだのつらいだの言っていたら今後どうなる。残りの人生で今日が一番若いのに今からこのていたらくではこの先いよいよ真っ暗じゃないか。ちっとはしゃんとしろ。自分の人生だろ。

 

変な強迫観念にビビったりテンパったりせず、まずは落ち着こう。そして中年クライシスというこの嵐をじっと耐えて過ぎ去るのを待とう。無理をせず適度に働き、適度に休み、適度に遊ぶ。歯を大事にする。毎日短時間でもいいから運動する。野菜を食べる。酒を飲みすぎない。ジャンクフードやお菓子を食べすぎない。無駄遣いしない。毎月散髪する。見すぼらしい格好をしない。人には親切にする。なんであれ挑戦するのを恐れない。

そういう教科書的な正しいことをやってその場しのぎをしているうちに今の状態に馴染んで違和感がなくなり、何年か後にはいい中年になれるように、今は期待するしかない。

 

前向きに、希望を持って、中年をやっていこう。やっていくしかない。

 

 

 

 

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