
予定のない三連休。
予報では天気がよくない模様。先週の連休に筑波山へ行っておいてよかった。
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無趣味な独身中年の自分が休日出かける先といえば、映画館、ミュージアム、本屋、古本屋、図書館くらいしかない。コロナ禍前まではスパ銭も選択肢に含まれたがコロナ禍によって見知らぬ大勢の他人と同じ空間で過ごすことへの拒否感が生まれ足が遠のくようになった。サウナブームで大学生くらいの若い男性客のグループが増えた体感があり、それが鬱陶しくなったのもある。山へ行ったりもしたが何度か転んでから怪我するのが怖くなり行く気が失せた。
映画館は近場で俺好みなのがやってない(少し前に見た『エイリアン:ロムルス』と『アビゲイル』はどっちも面白かった)。
読みたい本、読みかけの本はすでに手にしているので本屋、古本屋、図書館へ行く用はない。
なので美術館へ行くことにした。先日だらだら書いた記事の中で少しDIC川村記念美術館について書いたら、なんだか無性にアートが見たくなったのもある。
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東京都現代美術館で開催中の「日本現代芸術私観」に興味があったが、天気の悪い中、三連休で人出が多いに決まっている東京都現代美術館まで行くのは(途中の電車移動も含め)想像しただけでだるかった。なので車で行けて、しかも駐車場無料の東京富士美術館へ行くことにした。行くのは初めて。今年のGWに同じ八王子にある八王子夢美術館へは行った。
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現在、「印象派 モネからアメリカへ」のほか、「西洋絵画 ルネサンスから20世紀まで」「ジュエリーコレクション」「タヴォラ・ドーリア特別展示」「大使館の美術展Ⅱ」を開催中。
混んだら嫌だったので開館と同時に入れるよう時間を合わせて朝早い時間に家を出た。チケットはオンラインだと当日券より300円安く買える。印象派、若い頃は好きだったけど今はそれほどでも。所蔵品を展示した「西洋絵画 ルネサンスから20世紀まで」に見たい絵があったのでそれ目当てに出かけた。
家を出たときは小降りだった雨が目的地に近づくにつれかなり強い降りに。でも面白いことに開館15分前くらいに駐車場に到着すると止んだ。駐車場はガラ空きで俺で三台目かそこらだった。ほぼ開館と同時に入場。
この展覧会は写真撮影が可能。どころかハッシュタグ付けて宣伝しようとまで書いてあって時代の変化を感じた。SNSによる宣伝の集客効果を見込んでの試みか。せっかくなのでいいなと思ったのをスマホで撮った。
家に帰ってから写真を見返すとたしかに絵が撮れてはいるものの実物を肉眼で見たのと全然印象が違う。実物の油彩画って重ね塗りされて層になった絵の具や筆の跡などからかなり立体的に見える。対して写真や印刷だと(当たり前だが)平面的にしか見えない。混雑する中、人の多さにイライラしながら他人の頭越しに見る生の絵より、部屋でくつろぎながらコーヒー片手に画集で見る印刷された絵の方がよほど有意義な鑑賞なんじゃないの、と思ったりしたこともあったけれど、やっぱり実物を肉眼で見ることには他に代え難い意味があるなと今更ながら考えを改めた。
そう思えたのは、天気が悪く、開館すぐの時間帯で館内が閑散としていたおかげでゆっくり見ることができたから。

モネ「税官吏の小屋・荒れた海」。タイトルを読む前のパッと見では海が雲海に見えた。雲より上に人が住んでるのか? と思ってタイトルを見たら海だった。雲じゃなくて海か。たしかに海だよな。こんな崖っぷちに建ってるの、かなり危険な気がする。地震がないからそれほどでもないのだろうか。

モネ「睡蓮」。後年の燃えているような睡蓮と比べると控えめ。あまり立体感はなかった。他に人が来なかったので真正面に立って数分間じっくり見られた。

ソーン「オパール」。この画家の名前は初めて知った。写真ではわからないが実物は表面がキラキラしていた。絵の具が照明に反射していた? 手前の女性のアップにした髪のぼやけた感じ、背中に落ちる木漏れ日、水面のピンク色の反映、とてもよかった。毎回美術館で絵を見るときはどれかひとつ持って帰ってもいいと言われたらどれを持って帰ろう? と心の中で自問しながら見ている。今回はこれ。

斎藤豊作「風景」。模様のようにも見える。じっと見ていると目が回りそう。


パーシャル「ハーミット・クリーク・キャニオン」。優しい色調。絶景、題材の勝利って感じもする。寄って撮ってもみたけれど絵の表面のざらついた感じは写真には残らない。

ここから「西洋絵画 ルネサンスから20世紀」。展示されているのはこの美術館の所蔵品。充実のラインナップ。フロアがシームレスにつながっているのでそれとわからずエリアに足を踏み入れた途端ルノワールが並んでいてびっくりした。「読書する女」。ルノワールの絵って見てると幸せな気持ちになる。色やタッチに秘密があるのだろうか。

マネ「散歩(ガンビー夫人)」。マネの描く女性、好き。黒い服がいい。背景、結構すごいなこれ。

ブリューゲル(子)「雪中の狩人」。上で書いた目当ての絵ってこれのこと。かなり小さくて最初見落としそうになった。父ブリューゲルの「雪中の狩人」は俺が世界で一番好きな絵。色が明るいせいか、こっちは悲壮感がなくて物足りない。父の方はくすんだ色調のせいで狩人や犬の後ろ姿がどんよりしていた。くっきり描かれた遠景は世界の広がりを感じさせて、今日の暮らしと彼方の可能性の対比が面白くもむごたらしかった。でも見られてよかった。

このエリア、キャプションなしに作品が並べられていてその無造作ながらゴージャスな空間になんともいえない贅沢さを感じた。もしかしてかなりいい美術館なんじゃないだろうか。


作者不詳「タヴォラ・ドーリア」。ダ・ヴィンチの失われた壁画「アンギアーリの戦い」に基づく初期の油彩画。これ、絵だとどう戦っているところなのかいまいちわからなかったんだけど軍旗をめぐって争っているシーンらしい。構想を再現した彫像を見て合点がいった。左下の人は盾で防いでたんだ。戦っているにしては表情が穏やかだから何してるのか謎だった。
1時間半ほど鑑賞。いやー、繰り返しになるがかなり充実の展示で大満足。見終えて一階へ移動する頃には雨はすっかり止んでおり人もだいぶ増えていた。早めに来て正解だった。
昼前だったが小腹が減ったので一階にあるカフェレストラン セーヌへ入る。待ちがなくすんなり通された。カルツォーネが何かも知らないのにメニューの写真が映え映えしていたのでカルツォーネプレートとカフェラテを注文。具が中に入ったピザみたいなものだった。旨し。そして映える。美術館内のカフェでこんな洒落た食事をするなんて、独身中年がいいご身分である。

一時間弱同行者とだらだら喋ったのち外へ出た。雨は止んでいた。一階出入り口で傘を回収し、外を回って二階出入り口へ移動、そこから再入場してショップへ。同行者の買い物に付き合った。駐車場に戻るとすでに満車で外の車道にまで待機列ができていた。重ね重ね、早めの時間帯にきた自分の賢明さを自賛したくなった。帰路は時々小雨がぱらつく程度で本降りにならず。スーパーへ寄って買い物をして同行者と別れて帰宅。
定期的に自然を見たくなって公園や山の方へ行く。同じように定期的に美しいものを見たくなって美術館へ行く。美術品って鑑賞するのに美術史や宗教や神話や文学の知識が必要になるので教養のない俺としてはしょうじき博物館の方が展示品そのものへの実際的な関心は強い。なんだけど、不思議と博物館行きてえ、とはあまりならない。美術館は行きたくなる。ブルーカラーの俺がモネやルノワールを見たって人生の何の足しになるんだってもんなんだけど、見るときっと楽しくなる。美しい人工物、偉大な製作者による手仕事への憧憬と崇敬の念があるからだろう。