俺にはラノベはむずかしい

 

奇書が読みたいアライさんはその名のとおり奇妙な本、変わった本の情報を発信しているアカウント。Xの紹介ポストを読んで興味を持つこともあるが、奇書なので一筋縄ではいかないものばかり。残念ながら奇書の所以たる奇怪さを楽しめるメンタリティが俺には備わっていないようで、こればっかりは趣味嗜好の問題だからどうにもならない。なので実際に読書ガイドにするというより、そんな変てこな本もこの世にはあるのか〜、と純粋にその情報を楽しんで見ている。この方の守備範囲と俺のよく読むジャンルはやや重なっているくらいと思っている。

 

その奇書が読みたいアライさんの新しいZINEが今年の春に出た。前から欲しかった旧作『奇書が読みたいアライさんの変な本ガイド』と一緒に購入。

新作はラノベ奇書ガイド。90年代から10年代までのラノベ奇書を100作紹介している。よくもこれだけの数を…と感服。このガイドに導かれて6月からこっち定期的にラノベを読んできた。

 

これだけ色々なラノベ作品を何ヶ月にもわたって読んだのは人生で初めて。中高生の頃はラノベを読んだものだが社会人になってからほぼ読んでいない。

 

当時読んでいたのは『ロードス島戦記』…はラノベというには硬派な気もするが、あと『スレイヤーズ』。『ロードス』は最後まで読んだけど『スレイヤーズ』は途中の巻で読まなくなった。『グイン・サーガ』は途中の何冊かだけ読んだが、これもラノベというには硬派な気がする。

 

以上が俺のラノベ読書歴。ほとんど読んでこなかったと言っていい。もっともラノベに親しむ年代だろう中高生時は小説より漫画や映画が好きだったし、それ以降は小説はラノベより所謂文芸、とりわけ海外のを好んで読んできた。

 

ラノベの定義とは? はっきりした定義はない。自分としては「レーベル」が説得力高いかなと。漫画的、若年層向け、ともある。

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今年の夏、ホラー小説を集中的に読んだ。

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ホラー映画は昔から今までよく見てきたがホラー小説はろくに読んでこなかったので、読むたび新鮮さがあり楽しかった。普段読んでいるのとは違うジャンルを読む、そしてそれが楽しいものと知るのはいいことだ。世界が広がった感がある。このときと同じことをラノベでもやってみた。

 

やってみたのだが…ホラー小説と比べるとラノベは俺には難しかった。難しさのハードルは文章にある。癖の強い文章が多い。いや、そもそもそのジャンルに不案内なのだから最初は王道的、入門的なものから入るべきで、なのにいきなり奇書から入るというやり方自体が間違っていたかもしれない。でもおかげで、ラノベが「若年層向けの軽い読み物」と括れるほど浅いジャンルではないと知ることができた。前衛的な手法で書かれた作品が多々ある。

 

以下、感想をまとめて。奇書が読みたいアライさんによる『このライトノベルが奇書い!』をガイドにしつつ、載っていないものも読んでいる。ラノベ、紙の本は品切れが多いがかなり電子化されており、またKindle Unlimitedで読めるタイトルも多い。今回読むにあたってだいぶKindle Unlimitedのお世話になった。

 

2014年に出てわりとすぐに一度読んでいるので再読になるが、内容はざっくりとしか覚えていなかった。前半はかったるい学園ラブコメ、後半は容赦のないサバイバルホラー。あっけなく登場人物が死ぬ展開は進撃の巨人マブラヴオルタを彷彿とさせる。綺麗にまとまっている。ただ軽薄な主人公のセクハラ発言が今読むと結構きついものがある。前回読んだときはどう感じたんだったか…。この10年ほどで読者の側の意識もだいぶ変わった感あり。

 

 

続編。こっちは初読。前作で起きた事件の影響で主人公とその相棒的キャラの性格がだいぶシリアス寄りに変わっている…んだけどやっぱりセクハラ的発言がありイタい。展開的には前作よりスタンダードで読みやすい。インパクトは前作の方が上。でもあの展開は一回しか使えないだろう。話がだいぶ大きくなってしまったので続編書くの大変そう…と思ったらもう9年出ていないのか。

 

 

これはかなり奇書だった。奇書が読みたいアライさん曰く「言語化し難い魅力を放つ正真正銘の奇書」。終盤まで全然展開の予想がつかず。そもそもなぜそうなるのか、作品の前提が説明されないので意味を読み取るのが難しい。最後まで読んでも全然わからなかった。

 

 

ブクログに書いた感想からコピペ。

内容も文章もライトノベルというより一般文芸のような読み心地。
久生十蘭の翻案であるという。
複数の人物の視点から物語の真相に迫っていくという構成だがそれが真相かどうか。全員が狂気や妄想に憑かれているようで「信頼できない語り手」だから読んでいくほどに迷いは増す。
最後の章である程度の種明かしはされる。

 

演技をめぐる哲学的な思索がテーマか。虚構性、二重性、正気と狂気など。

 

最初の二章がよかった。
派遣された人物が起こした(とされる)奇異な事件の報告と、別の視点人物による捜索。この第二の人物の語りも怪しいものだが。
三章以降はちょっとだれた。一人称の語りは語り手の自意識が出るので長く読んでいると鬱陶しくなってくる。

 

 

これは自分のチョイス。ブクログに書いた感想からコピペ。

復讐の仕方が残酷。目的を果たした主人公より「彼」のその後が気になってしまう。
大佐の前では弱みをつく演技をしたり、目的のためには無関係の人間を巻き込むことを厭わなかったり、主人公はかなり冷徹な性格。元ネタだろうニーベルンゲン伝説のブリュンヒルドやクリームヒルトも苛烈な性格の女性キャラだった。
人と野生の共生の不可能性の話とも読み取れる。

 

 

これは面白かった。ブクログに書いた感想からコピペ。

SFありホラーありの内容豊富で面白かった。
文章が読みやすく、テンポもよく、最後までダレない。一晩で読んだ。

 

あっさり終わってしまうエピソードがいくつかあってもったいなく思った。探偵部なのに後の方は推理しなくなっている。というかはじまりと終わりでは作品の雰囲気が違っている。

 

語り手が母親を下の名前で呼んでるのと微妙なエロ要素はちょっときつかった。

 

作品の背景であるらしい宇宙人ってのは結局何だったんだろう。村人の大半は超人で、血が何か絡んでいたのか。八家も二家しか出てこないし、続き物として予定していたのかな。

 

 

『電気サーカス』がかなりよかったので期待したがこちらはそれほどでも。奇書が読みたいアライさんは「一言でいえば天才の小説」と絶賛している。

ブクログに書いた感想からコピペ。

胡蝶の夢ってことでいいのだろうか。
最後までよくわからない話だった。
終盤の夢が連続するシーンに翻弄された。
『電気サーカス』と比較すると文章がいまいちだった。

 

「みんなね、頭のなかに部屋があるんだ。それは自分専用の部屋で、自分一人だけが内側にいて、世界のすべての人は外側にいる。窓はついているけれど、それはとても小さくて、限られたものしか見えない。おまけにガラスが歪んでるから、見えたもののかたちも正確じゃないんだ」
人はみな孤独だと言っているのだろう。

 

 

文章はかなり上手いと思う。ただこの小説は語り手である女子高生のモノローグ──途中で脱線が何度も──がずっと続くのでだんだん飽きてくる。こういう語りは短編にするか、複数の語り手を導入した方が飽きなくていいと思う。

ブクログに書いた感想からコピペ。

内向的? な主人公が他者や世界に対して心を開いていく成長譚。地味というわりにイラストだと美少女過ぎる。俺また何かやっちゃいました? 的な言動が鼻につく…のは俺の性格が歪んでいるからか。登場人物、みんな美形で超能力者なのもなんだかなあ。

 

女子高校生の一人称の思考ダダ漏れ文体が最初から最後まで続くので中盤あたりから飽きてきて少しつらかった。

 

ところどころB’zの歌詞っぽくなるのが可笑しい。

 

 

登場人物の一人が語尾に「っス」をつける。こういうのとか「必ず敬語で喋るキャラ」みたいなのが出てくると一般文芸より漫画に近づいていく感じがある。

「アインズヴァッハの門」という創作心理学用語が出てくる。これが斬新らしいが俺はとくに感銘を受けなかった。

ブクログに書いた感想からコピペ。

スリードしてくるので終盤まで真相が読めなかった。明らかになってからは肩透かし感も多少あり。

 

実在を認めるのがストレスになるから脳が認識しない、という設定は面白かった。

 

最初読んだときは意味不明だったプロローグも最後まで読むと理解できる。

 

 

アニメは放映当時熱心に見たけれど原作は未読だったのでこの機会に読んでみた。

文章がとてもうまい。すらすら読める。表現にも過不足がない。話のテンポもよく各キャラにそれぞれ見せ場がある。さすがスニーカー大賞受賞作。

アニメでストーリーは知っているのでそのおかげで読みやすいのもあったかもしれない。冒頭のキョンのサンタがどうしたみたいなモノローグがそのまま書かれていて可笑しかった。いや原作なんだから可笑しくはないんだが。

この1巻で完結しているのだから続編はサイドストーリー的に楽しめばいいのだろう。

 

 

以上、ラノベを集中的に読んだ感想を総括すると、「ハルヒすげえ!」、それからホラー小説ほどには世界は広がらなかった、この二つ。ラノベ奇書じゃなくてスタンダードな名作を読めばまた感想は違うかもしれないが。

 

繰り返しになるがラノベのハードルの高さは各作家の文章の癖の強さ。記事に挙げたのは読了したもののみで、他に途中で挫折したタイトルは同じ数かそれ以上ある。自分に合わない文章をずっと読み続けていると頭がへんになるのでそういう場合は読むのをやめるようにしている。俺にはラノベは難しい。

 

 

ついでに、『このライトノベルが奇書い!』で紹介されていてすでに読んでいた本も挙げておく。

これこそ「幻覚小説」にして奇書だろう。少年が主人公でスニーカー文庫に収録されているからラノベ扱いなんだろうが、これラノベだろうか? 奇書が読みたいアライさん曰く「ライトノベルどころかホラー全般を見回しても他に類を見ない孤高のオカルト小説」。

 

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これもラノベではないだろう。「厳密にはラノベじゃない」と奇書が読みたいアライさんも断っている。曰く「10年代を見回しても他に類を見ないド級の奇書」。めちゃくちゃ文章が上手くて、面白くて、ぶっ飛んでいる。同じ作者の『魔女の子供はやってこない』は40過ぎて出会ったオールタイムベスト小説。

 

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