刊行を1年待ったpanpanya 『そぞろ各地探訪 panpanya旅行記集成』を読んだ

 

昨年12月に出たユリイカpanpanya特集号の裏表紙に『そぞろ各地探訪』の新刊情報が載っていたのを見て以来刊行を楽しみにしていた。そこには「二〇二四年春発売予定」と記載されていたけれど当該時期になっても情報がなく、9月頃になってBOOTHでの予約が始まった。当初11月出荷予定となっていた記憶があるがそれも延期になった。その本が遂に先週届いた。

 

 

現在は特設サイトからの通販と一部書店でしか買えないが来年春から一般書店や通販サイトでも買えるようになるみたい。

www.1to7.jp

 

楽しみに待っただけの甲斐のある素晴らしい製本と内容だった。上の特設サイトの紹介にあるようにこれまでpanpanyaさんが個人誌として出した旅の本を1冊にまとめた、というコンセプトで作られている。そのため一冊の中にサイズや紙質の違うページが混在している。表紙からして幅が足りておらず中のページが露出している。

表紙をめくったところ

 

上から

 

コミックスの装丁も毎回凝っているけれど今回のこだわりはその比じゃない。背の上下にビニールの網掛け(なんて言うのかわからん)が掛けられさらにその上からシールが貼ってある手のこみよう。

シール部分を拡大するとSOZORO KAKUCHI TANBOUの文字が読める

 

 

予約特典のシールが裏表紙に貼られている

 

ペーパーナイフで切ったような跡も仕様?


エッセイ、漫画、写真、イラスト等で著者がしてきた旅の話が述べられる。近所の散歩的なものから北海道や熊野・奈良・京都や四国やハトヤホテルや、さらには記憶に導かれて犬吠埼やどことも知れぬ洞窟まで。中でも著者の持ち味が発揮されているのは羽田空港をさまよい歩くエピソードだろう。普段は電車、モノレール、バス、自動車で来ることを前提にデザインされている空港という施設を徒歩で移動する話。まず空港ロビーから外へ出るだけで一苦労。先月旅行で大阪へ行った際、新大阪駅からの出口がわからず困惑した記憶が蘇った。

 

hayasinonakanozou.hatenablog.com

 

そもそも徒歩で空港から出る、という考えが自分なんかには浮かばない。あそこはあくまで施設内で用事が完結するようにできている場所でしょう。設計思想から逸脱した行動に出た途端、巨大な施設が一種の迷宮として立ち現れる。殺風景な整備場、一般客は入れないコンビニ、全長700メートルのトンネル、立ち入り禁止区域、オアシスとしての自販機…。斬新で面白いけれど自分だったら途中でへばってしまいそうな何時間にもわたる彷徨。

 

北海道や熊野の旅話は自分がした旅行の記憶と重ね合わせて楽しんだ。panpanyaさん、名所旧跡も観光してるんだけど、地元のコンビニで売られているおにぎりや飲料に惹かれて収集・分類するのがいかにもらしいなあ、と可笑しくなる。おにぎりのラベルを集めている、というかシール自体を収集している、と何かに書いていた。旅先でパンフレットの類を見ると必ず貰って帰るとあり、どうも収集は趣味のようで、海岸に漂着した40cmもあるブイを持って帰ったり、落ちているゴミを拾って帰ったり(過去には拾った漂着物をランダムに綴じた個人誌も出しているという*1)、看板・標識・注意書きなどへの関心もかなり強いらしくその収集の記録も本書で見ることができる。自身が見聞きしたものすべてを記録して残すことはできない、どれだけ注意して何かを見たとしても見落としてしまうものがある、そういった人間の不完全性への寂しさも感じているようだ。panpanyaさんは、本を作るとは自分がした体験や過ごした時間といった人生の痕跡を物質化することだと考えている。俺も似たような動機からこうしてブログを書いている*2。だからタイトルが生存記録。

 

2015年 熊野古道

 

2017年 五稜郭


移動距離の長い旅行もいいけれど近所の散歩的な挿話もいい。とくに愛宕山飛鳥山箱根山といった都心の山(!)を一日で縦走する(!!)話は、自分も少し前に早稲田周辺を散歩した際行った場所が含まれていて、ああ公園サービスセンターへ行って箱根山の登頂証明書貰えばよかった(ちょっと距離があったので面倒くさくて行かなかった)と今更ながら後悔を覚えてしまった。改めて行ってみるか。そのときは同じように愛宕山飛鳥山にも寄って。

箱根山山頂

 

hayasinonakanozou.hatenablog.com

 

上の記事を読み返したら戸山公園に「負の印象」を抱いたと書いてある。なんだか敷地内の空気がどんよりと重く、景色が暗く見えた。『そぞろ各地探訪』によるとここは「都内でも有数の心霊スポット」らしい。心霊現象は信じないけどあの変な空気感からそういう噂が生じたとしても不思議はないな、という気持ちにはなる。あの感じ、何だったんだろう。

 

ここのところ週末によく出かけている。本書は行き先を探す際のいいガイドになると思った。子供の頃TVコマーシャルでよく見たもののまだ行ったことがない伊東のハトヤホテル*3や、北海道のローカルチェーンながらなぜか埼玉県に複数店舗があるセイコーマートへも行きたくなった。俺が影響を受けやすいだけかもしれないがpanpanyaさんの漫画に描かれると現実の風景や場所が魅力を増して見えてくるから不思議だ。今年は筑波山にも行った。信者による聖地巡礼みたいだな。

 

hayasinonakanozou.hatenablog.com

 

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*1:本書には複写で再録

*2:隙自語

*3:同じ頃ホテル三日月のCMもよく見た