
ネタバレあり感想。
単行本は刊行されてすぐに読んだ。面白かった。元々カクヨムに投稿中のときから読んでいたのでリアルタイムで更新されていくのを体験している。本になってからまとめて読むのとはまた違った体験だ。
hayasinonakanozou.hatenablog.com
映画版の感想。
近畿地方にまつわる一連の怪事件を追っていた編集長が失踪し、編集者とライターが記事が示す謎を追う、というストーリー。単行本版でいうと語り手のライターを菅野美穂、編集者の小沢を赤楚衛二が演じる。
中盤までは原作に忠実で、モキュメンタリー的な資料映像が実際に映像として見られる(日本語が変だ)のに興奮した。ニコニコ動画の生配信で首吊り屋敷に突撃するのと見たら死ぬ動画はかなり怖い。林間学校で聞こえる声と手は近すぎて想像していたのと違ったが…。蘇ったと思しき了くんやましろさま(でいいのだろうか?)のビジュアルは白石監督のカラーが出ている。ちょっと安っぽさあり。怪異ってのは出てくるまでがキモで、姿を見せてしまうと興醒めなのはホラーの宿命だからしかたない。
中盤以降、失踪した編集長の居場所が判明して会いに行く以降の映画オリジナル展開は原作のファンからすると違和感があるかもしれない。超常的な力を持つ岩がメインになってしまって肝心の赤いジャンプ女と了くんは脇役の怖がらせ要員に格下げされてしまっている。映画を見ただけだと彼ら二人が何だったのか、わからないと思う。終盤の展開は好みが分かれそう。見ながら、いっそネオが出てきてましろさまぶっ殺したら面白いのになあとか考えていた。
原作に出てきた資料映像の数々がリアリティある映像として見られるのが映画版のいいところ。上で挙げた首吊り屋敷凸と見たら死ぬ動画のほかにも、古いVHSテープならではのノイズや80年代あたりのバラエティ番組っぽさの再現、まんが日本むかしばなしをパロったまさるのアニメなど、かなり作り込まれているので見ていて楽しい。原作でもっとも怖いと感じた事業家集団みたいなサークルの映像もあったらなおよかったんだけど、尺の都合かカットされていた。残念。
菅野美穂、悪くないけどこのライターの役を竹内結子が演じてもハマっただろうなと思った。『残穢』の沈着な作家役がどハマりしていたので。
ふだんガラガラな映画館のレイトショーなのに50人くらい観客が入っていて、中には制服姿の若い女子グループもいて、ホラーブーム来てるんだなあと感じた。夏休みに入ったし鬼滅もやってるしで夜でも映画館は盛況だった。入場特典の栞? のQRコードから映画で怪異の元凶とされた岩にまつわる短編が読める。どうせなら小さくても冊子にしてほしかった。経費削減を意識しすぎの感あり。
文庫版の感想。
単行本とは異なる内容との謳い文句に、映画になるからってさらに擦るんかい、と思ってしまったのだが、読み終えて別物っぷりに驚いた。単行本版を読んでいた方が文庫版の改変部分に感動できると思う。
単行本は2023年の刊行。怪異の元凶について作中で明示されないものの、すでに内容については語られ尽くしているし、ネットを見れば考察は無数にある。謎を解く、あるいは解けたと納得するだけなら造作もない。文庫版はすでに内容を理解している人向けな作りになっている。単行本版より物語の真相がわかりやすい。
文庫になってどう変わったの、というと怪異そのものよりそれに頼ってしまう人間の弱さ、哀しさ、愚かさに焦点が当てられている。加筆された最終章「ネット収集情報5」。匿名の人物によって赤い女の生前の姿が語られる。ここを読むと、それまでおぞましい化け物としか思えなかった彼女の別の顔が見えてくる。結末の一文が素晴らしい。
人は幽霊を怖がる。怖がりながらも楽しむ。あそこの心霊スポットには血まみれの女の幽霊が出るなんて言っては盛り上がる。しかしその女は、かつては生き、もっと生きたかったのにそうできなかった人かもしれず、もしかしたらそれは自分やあなたであったかもしれない。その女には家族もいただろう。家族は自分の身内が心霊スポットの幽霊という見せ物にされてしまったことに心を痛めているかもしれない。誰が自分の娘を、母を、姉や妹を、成仏できずにこの世をさまよい、今も世の中を恨み続ける血まみれの存在にしたいと望むだろう。一方で、亡くなったあとも忘れられず、夢でも、幻でも、幽霊でもいいから会いたいと思っている人もいるはずだ。
「そうやって人の不幸で楽しむのやめろよ」という台詞が出てくる。 ホラーとは人の不幸を娯楽として消費するものだからこそ、ホラーブームといわれる今、幽霊の人権(!)を提示していることに蒙を啓かれる思いがした。昨今、因習村ホラーは差別的だという指摘がある。あんまりポリコレやコンプラを先鋭化させてしまうと娯楽を娯楽として楽しめなくなってしまうけれど、そういった見方もあると意識的になることは大切だと思う。幽霊と人間のあいだに分断を作らないために。これをホラーブームの火付け役となった作家がやったことに感動した。怖い、キモい、グロいときゃあきゃあ騒ぐのも楽しいけれど、一歩引いて批評的にホラーを見れば、また違った豊かな世界が開けるかもしれないぜ、と示してくれている。
「これは怖い話じゃない。ただの悲しい話」。
自分の家族を失った悲しみを埋めるために、馬鹿げていると承知の上で、偽物の神様に縋るしかなかった女の話。

