先月、この本を読んだ。
2000年から2020年代までのホラー映画(洋画)の遷移を社会との関わりや作家性といった切り口で見ていく本。この本について、また、この本から触発されたホラー映画についての話は長くなりそうなのでべつの機会に譲る。
この本に映画の長尺化の話題が出てくる。1939年の『風とともに去りぬ』以降に作られた3時間以上の映画をまとめたリストの上位25本のうち、4本が2020年代の作品だという。割合的に20年代に入って長尺化が進んでいると見ることができる。そして長尺の映画は(意外にも)若者から支持されているという。一方で若者は倍速視聴をしているともいわれる。彼らは家では倍速視聴、映画館では長尺映画を見る「体験の住み分け」をしているのではないか、という推測。
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もう一つ。若者文化は根底にカウンター精神がある。だから配信ばかり見ている同世代に対して「俺は映画館でしかやってないものを観てるから」みたいな反発も原動力としてあるのではないか。
たしかにZ世代と聞くと、「おうちでTikTokやってるんでしょ」みたいな目で見てしまう。それも事実なんだろうけど、でもそういう若者だけじゃないんだよね。だから逆説的な現れ方として「配信とかショート動画で満足するのはダセえよな、映画館で観よう」みたいなムーブメントが起きてるのかもしれない。
これはあると思う。俺がもし今若者だったとしたらたぶんそういうムーブをしている。反発というか、「俺は周りの奴らとは違うんだ感」を出して自分に酔いたいタイプだから。
さらに、マーケティング的にも削りまくって95分とかにするより長尺になってもいいからしっかり作った方が観客の受けがいいという結果が出ている。以上のことから、映画の長尺化は制作側の戦略と観客の本物志向が重なって起きていると見ることができる。
上映時間3時間と聞くと見に行くのに少々腰が引ける*1。疲れそうとか、ケツが痛くなりそうとか、トイレの心配とか、スケジュール的に時間を合わせるのが難しい場合もある。ノーラン、スコセッシ、濱口竜介、彼らの作る映画は大抵長い。面白いけれど長い。やろうと思えばもう少し短くできるんじゃないのと思ってしまうが、この長さが逆張りとして機能しているのではないか、とこの本では指摘している。
基本的に思考のベースがXをはじめとするSNSコンシャスになっている中で、何事も短くするのが当たり前になってる。そうして全部が情報に還元されちゃうわけだよね。それに対抗するオルタナティヴな倫理をつくるとしたら、やっぱり長尺化しかないってことだよ。映画館に来い、長いのを観ろ、お尻が痛くなって痔が悪化しても観ろ、なぜってこれが「本物」だからだ、というね。
先日、ChatGPTにこんな質問をした。

以下、最近いい小説続けて読んでるから求める楽しさのハードルが上がってきてるんじゃないの、無理にインターネットを楽しもうとしないでいいんじゃない、小説や映画など「時間をかけて味わうもの」に重心が移ってる時期なのかもね、との答え。ふむ。
少し前に『肉は美し』という小説を読んだらすごく面白かった。その流れで、最近ご無沙汰だった海外小説を続けて読んだらそれらも面白くてのめり込んだ。ソローキンの『親衛隊士の日』とウエルベックの『服従』。前者は皇帝を頂点とする中世に逆戻りした2028年のロシアの、後者はイスラム主義政党が政権をとったフランスの話でどちらも短時日で読了した。
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面白い小説ってこっちの脳をめちゃくちゃ刺激してくる。ソローキンのイカれっぷりといい、ウエルベックの挑発といい。この刺激はXのポストからは絶対に得られない。あそこにあるのは承認欲求、自己顕示欲、バズ狙い、対立煽り、フェイク、ヘイト目的のしょうもない言葉ばっかり。浴びたそばから消えてしまいあとから何一つ思い出せない。
今週末から夏季休暇。いろいろ予定を立てているが、その中に「本を読む」も入っている。しょうもない言葉が飛び交うSNSの喧騒から離れ、腰を据えて分厚い本を読みたい。SNSコンシャスな思考に対するオルタナティブな倫理としての鈍器本。ページいっぱいに詰まった文字。繰っても繰っても減らない残りページ。字の小ささに目がしょぼしょぼして、重い本を持った腕はだるくなる。そういう身体的な感覚とともに、オフラインの静けさの中で、スクロールされて消えていくのではない文芸の言葉に触れたい。
生成AIは今のところ物理書籍の内容をクロールできない(ただし青空文庫とかPDF化されてネットに転がってる海外の書籍とかは除く)ので、その意味で書物は実質ディープウェブだし、そのうち読書という営為は「人力クローリング」と呼ばれるようになる
— kzwmn02 (@euthanasia_02) 2026年4月14日
いいから読め、分厚いのを読め、腰痛が悪化しても肩こりがひどくなっても読め、なぜってこれが「本物」だからだ。

*1:俺は7時間以上の映画を見た経験があるが


