松浦晋也『母さん、ごめん。50代独身男の介護奮闘記』を読む

 

母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記

母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記

  • 作者:松浦 晋也
  • 発売日: 2017/08/03
  • メディア: 単行本
 

 

50代の独身男性による、二年半に及ぶ認知症の母親の介護記録。

認知症の家族を介護することの苦労、悲哀が赤裸々に、時にユーモアを交えて述べられている。著者は科学関係のフリーライター。客観的かつ明晰な文章で読みやすく、Kindle版をダウンロードして半日で読み終えた。読ませる文章である。

 

はじめは母親の異変を軽く見積もり、それが対応の遅れに繋がってしまう。家族の責任として自らが母親の介護を一人でしようとするも、諍いが絶えず心理的に追い詰められていく。地域包括支援センターを訪れ、介護保険の認定を受けたことで自宅のバリアフリー化やデイサービス等が利用できるようになる。ケアマネージャーやヘルパーといったプロが著者の負担を軽減する。「介護する方が楽をしないと、される側も不幸になる」、なぜならば介護者が倒れてしまえば介護される側の生活は破綻してしまうからだ。介護される側のみならず、介護する側のケアも忘れてはならない。代替療法、健康食品の否定。差し入れするなら金にしてくれ、身も蓋もないが真実だろう。介護は金がかかる。認知症の悪化と、同時進行する老化。肉親ゆえの辛さ。自宅のリフォーム。失禁。仕事と介護に疲弊し、遂には母親の死を望むようになり、とうとう手を上げてしまう。自宅での介護の限界を悟り、著者は母親を施設に入居させる、介護生活は終わりを告げる。

 

認知症が厄介なのは老化と同時進行していくことだと著者は述べる。そのため、有効だった手立ても時間経過ともに効果が薄れ、あるいはなくなり、再度立て直さねばならなくなる。有効なのはあくまで一時。著者はとにかく、親が変だと思ったら早期に支援センターに相談に行くことと、介護者の負担を減らすことを強く勧めている。病いの対応は早期であればあるほど効果が高い。介護者のケアを怠ると、虐待に繋がりかねない。実際、そういう悲しい事件も起きている。健康だったころの姿なのにコミュニケーションが取れない、その齟齬が辛いのだ。どうして言うことを分かってくれないんだ、と家族は思う。

 

終わり近くに書かれた、分断を煽るようなポピュリズム及びポピュリスト政治家への批判に同感。男性と女性、老人と若者、日本人と外国人、病人と健康人、なんであれ対立を煽るような言説に耳を傾けてはいけない。「我々の社会は、誰が悪いということはなく、全員が一蓮托生なのだ」。社会の分断を許してはならない。

 

著者の介護生活を支えてくれたのは26年間乗り続けているバイクと、そのバイクで逃げ込んだシネコンで見る映画だったという。

シネコンの暗闇に滑り込めば、1時間なり2時間なりは介護の現実を忘れることができる。実際、私はこの2年半の間、これまでの人生のどの時期よりも多くの映画を見た。

 バイクで逃げ込んだシネコンで見る映画は、確実に私の精神を支えてくれたのだった。

自分の母親も、著者の母親ほど重度ではないが介護保険の認定を受けている。だから読んでいて身につまされる部分が多くあった。一家族の介護記録として、よくぞ書いてくれた、との思いが強く残った。