映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』を見た

普段アメコミ映画はほぼ見ないが『バットマン』だけはなんとなく見ている。マイケル・キートン主演の初代が小学生くらいの頃上映されたかして、黄色の楕円に黒くコウモリがデザインされたキャップやTシャツやバッグを身につけているキッズが当時そこそこいた…ような記憶がある。ノーラン監督の三部作は最初の二作は配信で、最後のは劇場で見た。が、とくに印象に残っていない。キャットウーマンかわいい、くらい(というか自分はノーラン監督と合わないんじゃないか、と少し前から思い始めている)。惰性で見ているようなものなのでバットマンという映画にもヒーローにも特別思い入れはない。正直にいえば『ダークナイト』が世間でわりと高く評価されているのも不思議に思っている。でもトッド・フィリップス監督の『ジョーカー』は素晴らしかった。これはIMAXで二回見た。

 

で、今作である。ブルース・ウェインバットマンになるまでを省略しているのはスムーズな導入でよかった。今回のバットマンはかなりリアリティある描写をされていた。アイテムもノーランのときほど現実離れしていない。せいぜいが録画機能付きのコンタクトレンズくらいか。それだって外そうとすれば電気が流れるマスクや空飛ぶモービルと比較すれば突拍子ないレベルではない。ノーラン作品との比較になってしまうが、あっちがバットマンをヒーロー映画として描いたのに対して、今作は刑事・探偵的な描き方をしていると思った。今作のバットマンの行動や活躍は刑事のようで、内容も刑事ドラマ的。リドラーとの対決は『セブン』のジョン・ドゥとの対決とダブった。知能犯による社会への挑戦としての連続殺人。ただし『セブン』の怖さにはまったく及んでいなかったが。

 

映画としては面白くなかった。長すぎてだれる。この日は一日外出したあとのレイトショーだったのでその影響かもしれないが何度も寝そうになった。人間関係が複雑で、途中からこんがらがっていって考えるのがだるくなってきた。マローニだっけ、結構重要な人物で何度も言及されるのに本人が登場させないのは妙だ。逆にペンギンは出てこなくてもよかったのでは? ストーリー上そこまで重要なキャラじゃなかった。

 

トーマス・ウェインの欺瞞を暴くという筋は悪くない。でも結局本当は善人だった扱いになるので肩透かし。政治家や警察や検察の欺瞞をSNSを通じて暴く、拡散する、それにより同調者(フォロワー)が増してテロが起きる…という流れを今更やられても、議事堂襲撃事件という現実をただなぞっているだけじゃねーかとしか。復讐は復讐を呼ぶだけ、というバットマンの「悟り」も…うーん…。社会から見捨てられた孤児の復讐という現実の格差社会を背景にしたストーリーなのに、バットマンの莫大な富についてほとんど省みられないのが不自然で。どうせなら富の不平等を叫んでウェイン邸を襲撃するとかすればよかったのに。

 

この映画の白眉は予告編にもあるバットモービルの爆走シーンだろう。エンジンがかかった瞬間、轟音が腹に響いた。IMAXの音響すげえ、と鳥肌が立った。そのあとのカーチェイスも雨の中一般車両を巻き込みながら、まるで『プリズナーズ』のクライマックスのような美しさで、それにさらにアクションが加わって、音は相変わらず振動が体に伝わってくるしで、このシーンに関しては最高だといえる。ドルビーシネマで『フォードVSフェラーリ』見たときでもこんな轟音ではなかった。