『テネット』を見て頭が混乱する

 

 ノーラン監督最新作。初見IMAXで見てほぼ理解できず。で、パンフレットを買って読み、ネットの解説記事を読んで、答え合わせ? のつもりで二度目(通常上映)に行った。が、二度見ても疑問が増えるばかりなのをいかんともしたがく。当方、洋画邦画問わずそれなりに映画を見てきた人間としてある程度は理解する能力があるものと思っていたが、そんなのは思い上がりに過ぎなかった…。

ただこのわかりにくさは、当方の理解力が低いのもさることながら、映画の説明不足にも起因しているように思う。 たとえばもう一人の主人公というべきニールは、ムンバイでいきなり登場するが、その際、彼の素性に関する説明は一切ない。初見時、彼が何者なのか、主人公の同僚なのか、別の組織の人間なのか、敵側の内通者なのか、まったくわからなかった。キャサリンとの最初の会話もわかりにくい。恋人が描いた贋作を詐欺の証拠として夫がフリーポートに保管している、それを取り返してくれたら協力する、とはっきり言えばわかるのだが、彼女はそんな直接的な言い方をしない。順行時間と逆行時間の併存というめちゃくちゃ難しいテーマを扱っているのに加えてストーリー展開までわかりにくいからしんどい。

 

逆行時間を映像で表現するという試みは斬新だし、高速道路でのカーチェイスのシーンや最後の作戦シーンは、理屈が理解できなくても映像を見ているだけで楽しい。理解できなくても? そう、解説記事などを読んでなんとなくわかった気はしたけれど、解けない疑問が幾つかある。その最たるものがキャサリンの回復。回転ドアに入って過去に戻れば撃たれた傷が回復したが、あれ、過去に戻っても傷は癒えないと思うのだが…。ドラえもんで言うと、回転ドア=タイムマシン(ただし過去しか行けない)なのだろうが、傷が癒えるのならタイムふろしきの効果もあることになる。時間を巻き戻して傷が回復したのなら、ドアを通った者が皆若返っていることになるが、そうではないし。このあたり、腑に落ちない。自分の解釈が間違っているのか? 二度目のフリーポートのシーンで逆行した主人公は過去の自分(順行)と掴み合いになるが、あのシーンも、順行と逆行の人間同士で接触できるものなのか? どこから時間の逆行になるのか…高速道路でキャサリンが乗っていたSUV無人のまま走り続けていたが、あの車はいつから走り出していたのか。あれ、あの車は誰が運転していたんだっけ? セイターは銃を持っていたから別の人間だったか…忘れた。理解力、記憶力、ともに乏しいゆえ、考えれば考えるほど混乱してくる。余談になるが、SUVは最後主人公がブレーキを手で押して停車させたが、その押し方が軽く半分程度押したようにしか見えないのに急停車したのは不自然だった。

 

二度目のフリーポートのシーンが一番面白かった。初めてフリーポートに来たの、回転ドアを使いに来たの、順行に戻りニールにメットを取られるの、救急車を運転するの、担架を押しているの、で多分あのシーンには5人の主人公が登場したはず。ドラえもんでこういうの見た気がする。ドラえもんではタイムパラドックスがよく問題になったかと思うのだが(魔界大冒険とか)、本作だと別の世界線に移動する、ということになっているのか(「祖父殺しのパラドックス」)、特に問題になってはいないようだった。シュタゲだとどうなるんだったか、忘れた。

 

ノーラン監督の映画はどれも映像に圧倒される。ただ細部は粗い印象がある。粗さを映像の迫力で押し切る作風というか。本作は特にそれが顕著だったように思う。たとえば冒頭のオペラハウスのシーン。観客全員があっさり催眠ガスで眠ってしまったり(あんなに即効性あるか?)、銃撃戦で被害がなかったり(ないように見える)、観客を守るといってすぐ頭上で爆弾を爆発させたり(あれだけの爆発なら絶対甚大な被害が出るはず)、細部を気にし始めるとどうも今ひとつ乗り切れない。最後の決戦シーンは頭を空っぽにして見ていた。部隊が、片や突撃し、片や前向きのまま後退していくのはシュールだった。壊され、再生し、また壊されるビルのシーンはこの映画のわけわからなさを象徴するいいシーン。ウィザードリィの「石の中にいる」をノーラン映画で見ることになるとは。そう、この映画、結構笑えるシーンが多い。タリンでセイターがキャサリンにマスクを押したまま後ろ向きで走ってくるシーン(なんてリズミカルなステップ!)、ニールの死体が起き上がって後ろ向きに走っていくシーン、セイターの死体がボートに引っ張られているシーンなど。フリーポートでの死んだふりには劇場内から笑いが漏れていた。あれはさすがに…。

 

映像は凄いけれど面白かったかと問われたら…うーん、どうだろう。微妙。でも一度見たらネットの解説やパンフを読んでもう一度見たくなる、それだけの魅力を持っている映画とは思う。自分は二回見ればもう十分。映画の理解に役立つと聞き今回珍しくパンフレットを購入した。解説やインタビュー等、充実していて満足。

 

note.com

こちらの解説記事がめちゃくちゃ参考になった。

 

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インターステラー」に感動し、「ダンケルク」で映画館を独占し、「インセプション」で寝る。