矢部嵩『魔女の子供はやってこない』『〔少女庭国〕』を読んだ

 

 

 

独特の文体と唯一無二な世界観。『魔女の子供はやってこない』は小学生女子と魔女の日常物語。その出会いとなる第一話からぶっ飛んでいる。小学生たちが流血の惨劇の犠牲者に。カニバリズムも。一転して第二話はジュブナイルファンタジー的に。片想いの切なさもある。第四話の重病患者を魔法で助ける話、第五話の家事が忙しくて自分の時間が持てない主婦を助ける話、これらが凄い。特に第五話は人間の悪意を究極まで描ききっていると思う。いや、あれは悪意じゃなくあの人の天然なのかも。本物のサイコパスだったらああいう行動をするのかも。この人に美術の才能があるというのがまたなんとも。人間として重大な欠陥があろうと芸術的才能とは無関係だといわんばかりで胸が悪くなる。第四話の病気の描写もなかなかにくるものがあった。ここでの悪意は、最後の、ひらがなで呟かれる台詞に凝縮されている。怖い。ホラーとしては第四話で一気に上昇して第五話がピークと思うが、最終話の誘拐の話も読んでいる最中動悸がした。郊外、団地、国道。自分も似たような環境で小学生やってたし、同級生の女子が放課後に変なのに声をかけられる事件が年に一度か二度はあったので(「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」が起きたのも自分が小学生のときだった)、厭なノスタルジーを覚えてしまった。「ちっちゃい頃って異常ですよね。色々したんです悪いこと。悪いとかって思ってないこと。馬鹿だからなんも考えてなくて」という主人公の台詞、自分の子供時代を振り返ってもそうだった。

「悪いことした人むかつきませんか。私天国行ったらやな人きっといると思うんです。どうでもいいかもですけど。同じつもりでいちゃきっとよくないと思うんですよね。それでいいと思うんです。自分が糞みたいな人間だってなるべく忘れないようにして、それで地獄落ちれば」

 

 

『〔少女庭国〕』の設定は映画『CUBE』のよう。トラップこそないが密室、加えてバトルロイヤル。軽いノリでパーティやったあとで少女たちは次々と死んでいき最後に残った一人が「卒業試験合格」…というだけの話なら女子中学生によるデスゲームもの、で終わり。本編に続く「補遺」によってこの小説の途方もないスケールが示される。次から次へと女子中学生たちが登場してこのデスゲームをサバイブするさまが描かれる。大抵はスタンダードなタイマンの殺し合い。しかし中には突然変異的な行動をとる女子が出てくる。彼女ら一部の開拓者によってこの迷宮(でいいのだろうか?)の構造が少しずつ明らかになっていく。生き残るための手段も複雑化していく。試行錯誤の末に少女たちは迷宮に文明を築く。当初デスゲームものだと思っていたのにこんな壮大な展開になるので驚いた。これはプログラムによるシミュレーションみたいな話なのだろう(全員が同じ中学に通っている3年生なのに何千人ものただ一人として知り合いではない)。プログラマーはこの世界の外にいる、いわば神。女子中学生たちはプログラムで、何度も試行されている。全滅するたびにリセットされ、神が再びサイコロを振る、それが延々繰り返される世界、「庭国」。終盤の文明世界は天文学的な確率で成功したパターンだったのだろう。しかしそれもいつかは滅びる。そもそも女子中学生しかいない世界なのだ。いつか世界は終わるに決まっている。

思考実験としてとても面白いけれど終盤の方は無理が感じられた。地下世界に広がる町とか文明とか、かなりシビアな環境・条件内での奇跡だからあり得なくはないのだろうが、どうもやりすぎな感が。本編が始まったときは開けなかった扉の向こうに何があったのかが明かされるのは感動的だった。卒業試験の意図もきちんと解明されたが時系列がこんがらがって腑に落ちなかった。理想を持って開拓の旅に出発したのにあっさり死んでしまったり、せっかく制服のポケットに植物の種を持っていたのにそれを活かせず枯らしてしまったりするのは悲しい。そんな甘い、あるいは優しい物語じゃないのだ。この小説のように地球の現代文明も何度もリセットされた挙句の今かもしれないと想像してみたり。歴史の過程で次々に死んでいく少女たちの姿に「生き物の実態はむしろ死に物じゃないか」という『ご飯は私を裏切らない』の独白が重なった。ローグライク、またはロマサガ2もちょっと連想した。

 

この二冊は新宿のブックファーストで開催されている「木澤佐登志書架記フェア」の冊子で知った。買ったのは『反穀物の人類史』。ダークウェブ、哲学、思想、心理学関連には興味ないけれど、オカルトや陰謀論には関心があるので何冊か紹介されているそのジャンルのを今後読もうかと。文芸の好みは結構重なる部分があった。選書フェアは100冊かそこらでは数が少なすぎて選者の個性が出ず面白くない。このフェアみたいに600冊以上とかでないと。王道的名著ではなくマイナーめな選書に選者の個性が出る。それを拾うのが面白い。