松本清張『小説帝銀事件』を読んだ

 

 

ブクログの感想から引用)

小説と謳っているがノンフィクションのような。方便だろうか。序盤は読ませるが中盤から終盤にかけての叙述が公文書のように硬くて読み飛ばし。松本清張の文章、読みづらい。

 

帝銀事件についてはその名しか知らなかった。こんなに凄惨な事件だったとは。昭和23年1月に発生、犯人は都の職員を名乗って赤痢の予防薬と偽った青酸化合物を帝国銀行内にいた行員ら16人に飲ませ12人死亡させた上で現金を奪って逃走した。犠牲者には8歳の小使も含まれていた。冷酷非道な事件。

 

のちに画家が逮捕され裁判で死刑判決を受けたが執行されないまま40年近く獄中で過ごし最期は病死。おそらくこの人物は真犯人ではない。犯行時、犯人は生産化合物を飲ませたあと1分開けて第二薬として水? らしきものを与えている。第二薬は毒物の効果を確実にするための時間稼ぎだったと思われる。薬の取り扱いの手際や、信用を得るために自らも飲むなど相当な薬物の知識・スキルがある人物。ただの画家にそれだけの知識も技量もあるはずがない。犯人が用いた道具は軍で使用されていたと思しき高級品。真犯人は元軍人、戦争中に生物兵器の研究を行っていた731部隊の復員兵の誰かではないか、というのが本書の推理。この731部隊満州生物兵器による人体実験を行っていたとされている。警察は元々軍関係方面を捜査していたがGHQによる横槍が入り思うように捗らなかった。

 

しかしこの画家にも謎がある。ずっと金に困る生活を送っていたのに帝銀事件後に急に大金を手にしているのだ。金の出所について本人は最後まで口を閉ざしたままだった。高額報酬に釣られてやむをえず春画を描いたものの世間に知られたら画家生命が終わってしまうために言えなかったのではないかと本書では推測されている。

 

警察が自白偏重の捜査を行ったためにこの画家が犯人とされたのだが、薬物や道具の入手経路を説明できない時点でクロではないと思う。事件当日のアリバイも(一応)ある。しかし奇矯な性格の持ち主で虚言癖があったのが災いした。

 

731部隊の復員兵周辺をもっと捜査できていれば真相にたどり着けたように思える。

(引用ここまで)

 

 

この本を読むかぎりでは犯人は画家ではなく731部隊の復員兵と思えてくる。実際、部隊の一人は警察に対して犯人は自分の部下かもしれない、彼ならやりかねない、と何人かの怪しい人物の名を挙げたという。GHQによる捜査への横槍が本当にあったとしたら、彼らは何が目的でそうしたのだろう。帝銀事件の犯人が明らかになっては困る理由が何かしらあったということか? …なんだかだんだん陰謀論に近づいていくような気になるが…。

 

 このことから犯人の性格は計画的で科学的であるということが言える。ただ、時のはずみとか、酒の上での酒乱だとかいうような衝動的な殺人ではなく、なんら自分とは利害関係のない人間を、平然として十六人、一瞬のあいだに抹殺しようとしたその心は、科学的であると同時に人間性を失った男と見るべきだ。そのことは昭和二十三年という当時の社会情勢、終戦後の混乱、道徳の破壊という現象とこの犯罪と離して考えることはできないようである。帝銀事件の犯人の性格が不気味であり、非情性であり、残忍であるということから、硝煙の匂いが犯人の背後に立ち昇っていると言われるのも、このことからである。

 真犯人は毒物の最小の致死量を完全に知っていた。またその飲ませ方も経験者でなければできないことである。警視庁が真犯人は軍関係でなければならぬとした理由でもある。

 

 なるほど平沢は噓ばかり言う男である。それもすぐ暴(ば)れるような、見栄坊的な、はったりの噓であった。計画的な噓は吐けないようである。しかし、帝銀犯人は、もっと頭脳的な、冷徹な計画性をもつ男でなければならない。逆説的な言い方をすると、平沢は噓吐きだから、帝銀の真犯人としての適格性が無い、と言えるのである。

 

事件とは関係ないが、8歳の子供が小使として働いていたり、昼休みの時間を30分も過ぎているのに悠々と会社に戻ってきたり、暇だからと娘婿の会社を就業時間中に訪れて時間潰ししたり、時代のゆるさに感慨を覚えた。

 

(追記2023/3/6)

NHKスペシャル未解決事件の「松本清張帝銀事件」視聴。GHQ731部隊の戦争責任を問わない代わりに実験データを求めたと。憲兵Aが怪しいが…しかし動機がわからない。単純な金欲しさならこんな手の込んだ大量殺人を選択しなくてもいいだろうに。シリアルキラーは何度も殺人を繰り返すがこの犯人はその後2度と毒殺事件を起こしていない。過去の未遂2件は帝銀事件の予行演習のようだし。