見た…のだが何が言いたいのかよくわからん映画だった。
以下、ネタバレあり。結構厳しめの感想。
ラジオでの町山さんの紹介を聞いたときは才能ある傲慢な音楽家(指揮者)がキャンセルカルチャーにより栄光の座から失墜する、そんな話なのかなと勝手に想像していた。
大筋はたしかにそんな話。
気に入らない音楽家がポストを得られないように根回ししていたら彼女が自殺してしまう。それをきっかけに、
・ジュリアードでの生徒への高圧的な指導(あの貧乏揺り演技の意味はなんだったのか)
・娘の同級生への脅し(あの子がもう少し大きかったら録音されてただろう)
・副指揮者へのクビ宣告(これは妥当に思えた)
・いいように使ってきた助手の切り捨て(これも妥当かもしれないが助手側の気持ちとして面白くないのは理解できる)
・才能ある若いチェリストへの執着(このチェリストがムカつくいいキャラしてた)
こういった振る舞いが周囲や世間から顰蹙を買って次第に主人公は孤立し、遂には告発される。
才能も名声も持っているかもしれないが、ネット社会の怖いところで一度不祥事動画や音声が(たとえ捏造であれ)拡散してしまうと一気にその人の信用はなくなってしまう。メディアの説得力。エビデンス。「こいつは叩いてもいい」という空気の醸成。
主人公、見る前はてっきりすげー調子こいて横暴イケイケなキャラなのかと思いきや、多少のトゲはあるものの思っていたより全然イヤな人物ではなく、ケイト・ブランシェットの美貌と存在感のせいでグレートに見えるけれどやってることはむしろ小物のそれ。小学生へのマジな脅しや若く美しく才能あるチェリストへの執着なんかは腹が出て脂ぎった中高年男性が演じていたらもっとそれっぽさが出たんじゃなかろうか。
終盤はこの映画、最後どこにたどりつくんだ? という先の読めなさにわくわくした。
直接描かれてはいないが主人公はベルリン・フィルを辞めざるを得なくなり、パートナーとも関係を解消し、娘とも会えなくなり、一人きり、居場所をなくして実家に戻る。そこで若い頃に見ていたコンサートのVHSを見返して指揮者が音楽が持つ力について語るのに再び感動し、初心に帰って、音楽ができるならどこでもいい、とベトナムかどっかのテーマパーク(なのか? なんか参加者みんなコスプレしてた)で演奏する…というオチだと自分は見たが、どうだろう、ラストの解釈はこれで合っているか…。全然的外れなことを言ってるかもしれない。他の人の感想は一切見ていない読んでいない。だんだん歳とってきて他人の感想や評価に興味が持てなくなりただ自分がどう感じたか、考えたか、それだけで十分、という気持ちになってきている。老いだ。
町山さんは上映終了後に観客みんなポカンとしていたら若い男性客があれはこういうことなんだと解説しはじめて聞いた人たちみな納得したと話していたが彼は何と語ったのか。
自分はあの妙なラストシーンをポジティブなもの、と解釈する。
人は何度でも何歳でも人生をやり直せる、継続こそが才能である、そんなふうに。
以下、気になった点をいくつか。
この手の映画が描きそうな「才能ある芸術家の苦悩」みたいなのは全然描かれていなかった。音への過敏さ、それが極まっての幻聴の描写が前半に少しあったけれどそれっぽくするために入れたようなちぐはぐさを感じた。別にあれなくてもよかったような。
ベルリンの住居は主人公のじゃなくパートナーの所有だったんだっけ? 防音設備のなさそうな部屋でピアノやチェロを弾くからびっくりした。常識がなさすぎる(あとで隣人家族に遠回しに迷惑と言われるが)。あんな高級そうな住居の隣人が要介護の婆ちゃんとその身内なのも違和感。あんなところに住めるほどの資産がありそうに見えない。排泄手伝うシーン、必要だったか?
チェリストが車から降りたあと主人公が忘れ物に気づいて呼び止めるシーン、チェリストが消えるのが早すぎる。あの廃屋みたいな住居も「ぽさ」狙いに見えた。失踪した助手の部屋の散らかり具合もわざとらしい。
ちょっときつい、あるいは意地悪な言い方になるが、キャンセルカルチャーの話を不気味な「ぽさ*1」で包んで高尚な感じに見せているだけの映画、と自分には思えた。話と描写やシーンがマッチしていない感じがあり何を言おうとしているのかわかりにくい。アカデミー賞ノミネート作品だから立派な映画なのだろうが自分向けじゃなかった。
主人公がアコーディオン? でアパート売却の歌を歌うシーンは最高だった。あそこは笑った。楽器なんでも持ってるんだな。
ケイト・ブランシェットは凄くよかった。が、綺麗過ぎたようにも思う。チェリストの女性、すげーイヤな、しかし強かなキャラで存在感があった。ディナーに行くくせになんで寝るって嘘ついたんだろう。息をするように嘘をつくサイコパスか?
*1:それもテンプレ的な「ぽさ」