映画になったら面白そう──チャック・パラニューク『インヴェンション・オブ・サウンド』を読んだ

 

 

失踪した娘を何年も探している男。

人が絶命する瞬間の叫び声を録音している音響技師の女。

まったく別の人生を歩んでいるはずの二人の人生、二つの物語はやがてひとつになる。

 

序盤は面白くすいすい読めたが中盤以降から失速していく…というか荒唐無稽すぎて(説得力にも欠ける)冷めてしまった。

 

男が、少女時代に失踪した娘が成長していたらこうだっただろうと思われるような若い女性をエスコートサービスで指名して、擬似的な父娘関係を演出している、という設定はいかれていていい感じ。この女性は女優志望で男が教えた娘の過去を台本としてすべて暗記して完璧に演じることができる。完璧すぎて男の方が曖昧な記憶を正されるほど。そう、何年もかけて狂気に駆られながら執拗に娘を探しているにも関わらず、男の記憶は時間とともに徐々に薄れてきており娘との思い出のディテールは日を追うごとに曖昧になっていく。あれほど大事な娘について忘れるなんて自分が許せない。同時に、「正しく」娘を演じる赤の他人が許せない。怒りに駆られて銃を取り出すシーンは最高に頭がおかしくて興奮した。

 

一方の女は父親の跡を継いでハリウッドの音響技師となった。父は人をさらい、殺害し、その最期の瞬間の叫び声を録音して映画会社に売っていた。彼の作る叫び声は聴いた者の感情を常軌を逸するほど揺さぶる作品であり高額で取引された。娘である女も父と同じことをしている(彼女は録音しているだけで殺しは別のメンバーがしているようでもある。録音の前は必ずドラッグをキメて酩酊しており記憶が飛んでいる)。やがて彼女の制作した叫び声はハリウッドの映画界に凄まじい大破壊を招くことになる。

 

タイトルは大破壊をもたらす彼女の作品を指しているのだろうけれど、このキモの部分がいくらなんでも荒唐無稽すぎて馬鹿らしさを覚える。でも映画だったら説得力が出る…というか映像の迫力で有無を言わせず見る者を圧倒できるかもしれない。映画で見た方が面白そう、と思った。

 

不思議だったのはなぜこれから起きることがわかっていながらハリウッドスターたちはわざわざ劇場へと向かったのか。ある社会の破壊と再生を描き資本主義への諷刺としたのか。