映画『最後の決闘裁判』を見た、そして俺はしばらく映画館へ行くのを控えようと思った

押井守監督が「サー」と敬称を付けてその名を口にするリドリー・スコット監督の新作。『エイリアン』も『ブレードランナー』も好みでないが、ストーリーが黒澤の『羅生門』(芥川の「藪の中」)的だと知って俄然興味を持った。自分は曖昧な物語、答えの出ない物語、釈然としない物語が好きである。興味のあまり早川文庫の原作本もKindleで買い、映画へ行く前に読み終えた。途中まだるっこしい部分はあったものの楽しく読めた。で、映画のためではないが月曜日がちょうど有給だったため、いつ以来だろう、平日朝イチの上映回へ。観客は自分を含め三人。

 

始まってまず思ったのが、原作を読んでいてよかった、ということ。というのも映画は序盤の展開が早く、友情で結ばれていた男二人が徐々に疎遠になり、遂には憎み合うようになる経過がわかりづらかった。土地と出世、すなわち金と権力をめぐって男二人の友情は綻んでいく。このあたりは時間をかけて丁寧に推移を追っていく原作の方が面白い。また、ストーリー的に盛り上げるためだろう、史実を改変している部分も映画にはあった。ル・グリがべレムの長官に任命されたとか、国王が決闘をあっさり認めるとか、カルージュの母親が若い頃強姦被害に遭っていたとか、友人によるマルグリットの非難とか。でもどれも改変された方が物語としては面白いし、テーマも明晰になったように思う。全編を通じては映画は原作を忠実になぞっていた。導入が決闘シーンから始まるのも同じ。中世当時の雰囲気を伝えるのは本よりも映画の方が優れている。視覚情報は強い。ただ、映画は三章に分けて三者それぞれの視点から彼らにとっての真実を描く構成なので、三回もほぼ同一(三者により微妙に異なる)のストーリーが繰り返されるため中盤はダレた。

 

当時、法による権利はなく、ただ持参金と跡継ぎを産む存在としか扱われなかった女性(といってもマルグリットは貴族の娘だから平民とは比較にならないほど恵まれた境遇だが)が、自らの受けた恥辱、暴力に、沈黙せず断固として立ち向かったことを描く、それがこの映画のテーマだろう。男二人はそれぞれ自身の欲望を綺麗に装っているだけの卑小な存在として描かれ、マルグリットはそんな彼ら二人と距離をとっている。そう、彼女は自分の夫さえ突き放して冷ややかに眺めている。夫の所有物ではない、哀れな犠牲者でもない、自らの意志と声を持った(戦しか頭にない夫よりも領地の管理が有能)、男と対等な、一人の人間として彼女は描かれている。この映画の肝は、彼女と、彼女を取り巻く愚劣な男たちとの対比にあると見る。

 

そう見ると決闘のシーンはあくまでクライマックスの一エピソードに過ぎない。しかし終始単調なテンポで退屈なこの映画の見どころはこの決闘シーンしかない。このシーンは迫力があって素晴らしかった。『ゲーム・オブ・スローンズ』のハウンドとブライエニーの決闘に匹敵する迫力があった。戦いの展開も原作に忠実で、先に読んでいた人間としてはイメージとの比較や補完をしながら見られたのでとても楽しかった。決闘後の夫婦の抱擁のぎこちなさは、この二人の心が取り返しのつかないほど遠く離れてしまったのを示しているよう。ラストはマルグリットの、虚しいような表情のアップで終わりでよかった。最後の野原のシーンは明らかに蛇足。もちろんそうであってほしいと思うものの、「彼女はその後幸せに暮らした」はいかがなものか。史実では決闘後の彼女の人生について詳細は不明だとあった。とってつけたようなハッピーエンドは安っぽく、自分は不満。この映画、つかみはいいが中盤がえらく退屈で、途中時計を見てしまった。二時間半は長すぎる。決闘シーンを除いては期待したほどではなく、はっきり言ってつまらなかった。ストーリーを知りたいなら原作を読めば十分。

 

で、映画がつまらなかっただけでもダメージなのに、三人しかいないシアターで、同列の離れた席に座っていたおっさんが、中盤あたりで30分くらいずっと、クセなのか知らんが持ち込みペットボトルのラベルを爪で引っ掻いてカリカリ不快な音を立てるもんだから、ただでさえ退屈な中盤で集中力が切れているところに更に不快感までプラスされて、いっそ席を立って出ようか迷った。でも決闘シーンは見ておきたかったから思い直した。三人しかいないのに客ガチャ外れ。自分が神経質過ぎるのかもしれないが、映画館で変な客に遭遇する確率が決して低くなくて、とくに今日のような平日朝イチでも外れを引くとなると、もう映画館へ行くのが嫌になってくる。直近だと『隠し砦の三悪人』のときは上映中手拍子する老人が横に来て(その時はムカついたが今振り返ると全然可愛いものだった)、『空白』のときは上映中ずーっと喋ってる、笑うシーンじゃないのに笑う老夫婦が前に来て、『007』のときはちょっと気の利いた台詞の応酬の都度「ンフッ」と鼻で笑うおっさんが隣に来て(このタイプは必ず男性、なんでいちいち声出して鼻で笑うんだろう? クスッとするだけじゃいかんのか)、直近5回で4回変なのに遭遇している。金払って都合つけて映画館行って、それで不快な思いをさせられるのがこうも続くとさすがに疲れる。阿呆らしくなる。これまではちょっとでも面白そうと思ったり、土日予定なくて暇だと映画館へ行っていたけれど、今後はどうしても見たいと思ったタイトルだけ見に行くようにして(世の中の大半の人はそうしている)、通うのを少し控えようかなと。配信と、最近あまり使っていない75インチのスクリーンとプロジェクターとネックスピーカーをもう少し有効活用しよう。平日、会社に行って仕事をするだけでもストレスなのに、その解消目的でもある趣味で更にストレスを増やすとか本末転倒も甚だしい。競馬で負けるのもストレスだが、これは自分が悪いだけなので控えなくていい。

 

 

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