和田靜香さんによる民主主義についての本を2冊読んだ

 

 

 

大島新監督の『なぜ君は総理大臣になれないのか』は面白かった。これがきっかけで小川議員に興味を持ったけれど昨年の衆院選で維新の候補者に出馬を断念するよう迫ったというニュースで一気に関心が冷めてしまった。民主主義否定してんじゃん。そういえば前に読んだ『本当に君は総理大臣になれないのか』で部活の試合と重なるから模試の日程を自分だけお願いしてずらしてもらったというエピソードが紹介されていて、もうこの頃から感覚ずれてたのかなあ。勝手すぎんか。

 

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『時給はいつも〜』の方はフリーライターの和田さんが小川さんに現在の政治の課題について議論し合う。小川さんの話は著書がベースになっていて、それは『本当に君は〜』でも披露されていた…はず(政策の話は流し読みした)。本書では和田さんが生活者の視点から疑問を小川議員にぶつけていく。小川議員曰く人口減少が全ての問題の根幹としてあると。衆院選を経た今、野党議員である小川議員の政策の部分を読んでもしょうがないというか、優先度は低い。増税は絶対らしい。日本の人口減少は「エネルギー環境問題で生き物として制約を感じた人類が、個体数を減らす方向に舵を切ったということかもしれない」と発言しているが、集団的無意識? オカルトめいた思考でびっくりした。どう考えても経済停滞が原因で産めない人が増えているからとしか思えずにいたから。政治はまず市民に経済的余裕を用意してやることが最重要、それによって社会のことを考える心の余裕も生まれるという主張には同意。

 

『時給はいつも〜』は小川議員ありきの本であまり面白くなかった。和田さんのしゃべり言葉のような文体(昔のラノベの一人称っぽいと思った)が硬めな内容とアンバランスで読みにくかった。自分はこういう文体は好きじゃないがより多くの読者に訴求するための編集者の判断か。よくわからん。

 

で、衆院選が終わり、映画『香川1区』が一部の映画館で上映が始まり…という頃に『選挙活動〜』が出たのを知る。小川議員ありきの内容だったらもうお腹いっぱい、野党議員だし…と思ったのだが、こちらは思いっきり和田さんの色が出ていて、『時給はいつも〜』とは比較にならないほど面白かった。小川議員が香川1区で選挙活動を行なっている間、そこで一緒に活動した記録が日記形式でまとめられている。これの何を自分が面白く感じたかというと、『なぜ君は総理大臣になれないのか』でもっとも印象的だったのが、選挙活動をしている支援者たちも拡声器使って選挙カーから候補者の名前を連呼するのをうるさくて迷惑だと自覚していたことだった。分かっててやってるんだと知りちょっと感動したのだ。もちろん一般の感覚を持っていればそう感じているに違いないのだが、それを当事者の口から聞けたのがとても新鮮だった。普段見る機会のまずない選挙の舞台裏や人間模様。『選挙活動〜』はまさにその舞台裏の記録。面白くないわけがない。

 

和田さんは個性が強い。食べ終えた食事の写真を掲載するのは(自分としてはかなり厳しいが)百歩譲って許容できる、しかし食べかけの食事の写真まで掲載するとは…試されてる感じがした。選挙活動として小川議員の演説現場についていったり、ビラ配りしたり、折ったり、電話をかけたり。しかし和田さんのいいところはだるくなったらサボっちゃうところ、そしてそれを悪びれず正直に書いているところ。本人ならいざ知らず応援に来ただけなのに選挙期間中毎日全力でやれるわけがない。「国の代表者を選ぶ選挙なのに候補者が過労死寸前みたいに朝から晩まで動き回り、周りのスタッフもボランティアも死ぬほど働き、やばいじゃん!と言いたい。メディアはそこに一度でいいから疑問を持ってよ、頼むよ。ああ、メディアの人たち自身だって、その間はお休みなしとかでしょう?」って、ほんとその通り。こういう素朴な問題提起がされているのは健全だと思った。

 

私は選挙にありがちな、戦いモードが苦手だ。もちろん、選挙は勝敗を決めるのだから、戦いではあるのだろうが、ことさらに候補者がそれをアピールしたり、周囲が煽るのを見ると、引いてしまう。選挙は候補者のものであるけれど、それ以上に選挙は私たち有権者のものでしょう? 候補者たちの中から誰に投票するかを選ぶとき、私たちの心の中で「問う」ことはあっても、「戦い」はないはず。

 

選挙は私たちが主役だってこと、ここに来て、改めて感じている。報道も、そのことをもっともっと伝えてほしい。

 

「こうやって選挙になって、街宣などでみんながワイワイ盛り上がっていると、必ずそこから漏れてしまう人、疎外感を抱いて遠巻きにしてしまう人、取り残される人が出てきますよね。それを見逃さないでほしいです。それはリアルの現場もそうですが、投票ができない人たち。この国に住みながら、投票権がない人たち、その人たちのことも、小川さんには思っていてほしいし、できれば言葉にして、言ってほしいです」

 

私たちが話したのは、「選挙にまつわる言葉ってたいがいマッチョだよね~」ってこと。それって結局、これまで政治の世界が男中心の社会だったから。選挙戦って言い方だって「戦?」って気になるし、街宣車を「 宣 車」と呼ぶなんてのは戦車を彷彿とさせてキモい。 「私は、『~を男にしてやってください』ってのが、本当に大嫌いなの」

 

メディア(テレビ)を使って露出過多し、強引な物言いで、多少それが間違っていてもグイグイ押し、強いリーダー像みたいなものを作る──それはそれで手法としては上手いのだろうし、実際に支持者も増えた。けど、支持する人たちは物言うリーダーというメディアが分かりやすく見せる虚像に、自らはあまり考えることはせず、引っ張ってもらうことを願い、すがっているように思える。  そういう強いリーダーに引っ張ってもらいたい!みたいな政治のあり方、家父長制的な政治は、もう、イヤだなぁ。カリスマ的なリーダーとかに盲信して付いていきたくない(カリスマ性あるとは思わないけど)。この人の言うことは絶対に正しい、すばらしいなんて思い込みたくない。私は私だ。私の考えがある。私は今、私の考えを持てるようになった。

 

女性の、あるいはマイノリティの立場からされる上記発言のどれもがド正論。『時給はいつも〜』では感情的な部分が目立つばっかりだった和田さんが、こんなにも広い視野で客観的に政治を論じていることに感動する。やっぱ何事も何歳になっても勉強だよな、と勇気づけられる。俺も頑張ろう。

 

本書の白眉はたすきをめぐる和田さんと小川議員の議論だろう。和田さんの意見は「政治的に」、小川議員の意見は現実的に、どちらも正しい。双方の言い分は論理としても心情としても理解できる。結果的には和田さんの意見が通るのだが後味は悪い。必ずしも「政治的に正しい」ことが現実において最優先課題なのかどうか、という問い、そしてその答えのない問いをぶつけ合い議論することが民主主義であるという証明(折衷案として「妻・名前」にしたらどうだったろう、と思った。外野の意見だが)。選挙期間中に偶然見かけた平井大臣(当時)が思ったより小柄な人だったとかの何気ない記述もよかった。

 

スケジュールが合わず『香川1区』は見られずじまい。配信が始まったら見る。