国立西洋美術館で「自然と人のダイアローグ」展を見てきた

一年半ほどリニューアルのため休館していた国立西洋美術館が再開されて初の企画展。あまり話題になっている感じはないが世間的にはどうなのだろう。自然と人の交流の歴史、その趣旨は自分好みだがラインナップを見たところメジャーな印象は受けず。ただカスパー・ダーヴィト・フリードリヒの「夕日の前に立つ女性」が来ると知り、フリードリヒはブリューゲルゴヤやジョン・マーティンやムンクらとともに自分の好きな画家なので行ってみるかと。正直、あまり気乗りしなかった。梅雨入りし、時々雨の予報が出ている中、混雑する山手線に乗って上野まで行くのがどうにも億劫で。結局行ったのだが。

 

女の人の用事とちょうど重なったので途中まで一緒に行動することに。山手線を上野ではなく西日暮里で降り、谷中の方から不忍池までだらだら散歩しながら、途中にある釜竹でランチしようかと。夕焼けだんだんだっけ? 谷中銀座の商店街は結構混雑していた。仲見世通りや小町通りに比べれば可愛いもんだったが。しかしあまりにだらだらしすぎたため釜竹に着く頃には昼の閉店時間に。諦めて上野まで出たが、午後二時近いのに大戸屋とかサイゼとかコメダとかそのへんのチェーン店全部待ち。ラーメン屋はどこもスペースが狭小でリラックスできない。ランチ難民になってさまよっているうち雨が降り出す。結局アメ横のかつやへ入る。かつやでさえほぼ満席という盛況ぶり。期間限定のスタミナ炒めとチキンソースカツ丼は美味しかったのでよかったが。日曜日の上野駅周辺、混雑すごすぎてげんなり。このまま帰りてえ…となったがすでにチケットをネットで購入してしまっていたためそれもできず。店を出ると雨は上がってピーカンになっていた。

 

美術館前で女の人と別れる。国立西洋美術館へ来たのは久しぶりでいつ以来かわからない。どこがリニューアルされたのかもわからない。途中雨降ったし、時間も15時を過ぎていたし、館内は空いているだろうと予想して入ったが…甘かった。中は思った以上に人が多かった。とくに若い男女連れが多かったような。時間予約制を謳っていたがずいぶん枠に余裕があるのではないか。SNSによる宣伝効果を期待してか、大部分の作品が撮影可になっていたのは意外だった。美術館といったらカメラ禁止、メモは鉛筆のみ可の印象が強い。これも時代の流れか。

 

人も多かったし、スマホで撮影したい人も多く、動線もいいとは言えず(東博でやった鳥獣戯画展は動線がスムーズだったような記憶がうっすらとあり)遅々として進まずイライラ。あの、列になってベルトコンベア式に絵を見て行くのがどうも性に合わない。興味ないのは流し見して目当てのフリードリヒまでショートカット。「夕日の前に立つ女性」、もっと大きいのかと思っていたら思いほか小さく、A4か、もう一回り大きいかくらいのサイズなので最初見落としてしまった。この絵は撮影可だった。よく見たいが横にも人がいっぱいいるし、絵自体も小さくて、実物なのはありがたいが…油絵って印刷されたのを見ると2Dだけど実物を見ると絵の具が塗り重ねてあって3Dみがあるものだが、うーん。小せえ、というのが第一印象。

ネットで検索すると「朝日の前に立つ女性」とも題されている。女性が向かっているのが夕日なのか朝日なのかはわかっていないそう。女性のモデルはフリードリヒの若き妻らしい。中年だった彼が若い妻から霊感を受けた作品であれば朝日である方が希望が表現されていて画家の心境としてふさわしいようにも思えるのだがどうだろうか。余談になるが海外文学ファンならばフリードリヒというとちくま文庫のイメージが強いだろう。ヘルダーリンノヴァーリスの表紙はこの人の絵。荘厳な景色に(こちらに背中を向けていることの多い)人物を配置する構図がザ・ドイツロマン主義という感じで(自分の勝手な印象)非常に好ましい。画面の明るい絵もあるけれど暗い絵の方がこの人のよさが出ているように思う。

 

目当ての絵は見られたのでリラックスしてあとはざっくりと流し見。興味ある画家だけ見ていった。他人がすぐ横や前や後ろにいても気にせず鑑賞できるほどの集中力も素養も自分にはない。ギュスターヴ・モロー、ルドン、ムンクがいたので彼らの方へ。

ギュスターヴ・モロー「聖なる象」

 

河出文庫ユイスマンス『さかしま』の表紙のルドン

 

ルドンのコーナー。油絵はなかった、と思う。たぶん。

 

ムンク「アルファとオメガ」 月光の表現がこれぞムンクという感じ


上に挙げた画家たちの作品から「自然と人のダイアローグ」というテーマを見るのはちょっと無理がある気もする。モローにその要素あるか? コローやピサロもいたけれど、自然をテーマとするならバルビゾン派の画家がもっといた方がいいだろうし、ミレーもいた方がいいだろうし、飼い慣らされた自然ばかりでなく人間に災害をもたらす脅威としての自然、ターナーや自分は知識がないから知らんがそういうのを描いた作品もあって然るべきだろうし、産業と自然という切り口もSDGsがなんちゃらな今のご時世にマッチしているだろうにそういうのはないし、全体的に物足りなかったというのが率直な感想。自然の中でも森に着目した「森と芸術」展というのがかつて巖谷國士さんの監修であったけれども、あっちの方が内容的に示唆に富んでいた(自分は図録で見ただけだが)。自前の収蔵品も多い中で2000円の料金は結構強気。45分ほどで見終えて外へ出た。

 

 

 

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