『トップガン』はたぶん高校生の頃にレンタルで見ている。特別感銘を受けた記憶はなく、『マーヴェリック』も、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』も、映画館で何度も予告を見せられたのでお腹いっぱいの感があり、当初はスルーするつもりでいた。今調べたら当初の予定より公開が2年遅れたとのこと。一転して見に行くきっかけになったのはルーツ氏の4コマをTwitterで見かけて。
トップガン面白すぎるだろ!トップガン面白すぎだろ!
— ルーツ (@JT_roots) May 31, 2022
トップガン面白すぎるだろ!面白すぎだろ(素敵~♪)
トップガン面白すぎるだろ!トップガン面白すぎだろ!
トップガン面白すぎだろ!
チンポ pic.twitter.com/gF9LRA2C1E
すげー楽しそうな感じが伝わってきて見たくなった。自分は他人の影響を受けやすい人間である。IMAXがいいか…と思ったが4DXもあると知り興味がいく。これ4DXでやる意味あるの? みたいな映画もある中、『マーヴェリック』は戦闘機の映画だからまさに打ってつけだろうと。Twitterでちょろっと検索すると評判も上々の模様(もっとも、SNSは過剰・大袈裟な発言が多い場なので鵜呑みにはしないが)。ただし4DXは吹替しかない。映画館で吹替の洋画を見た経験がないのでどんなものか不安だったが声優陣が豪華なので間違いないだろうと。吹替の初体験も含めて4DXで見ることに決めた。すっかり内容を忘れていたのでアマプラで1を視聴して予習。こちらは字幕で。1986年の映画だがわりと退屈せずに見られた(ラブシーンは要らないと思った)。戦闘機のシーンは今見てもよく撮れてるなーと感心。マーヴェリックとアイスマンの友情についてはあっさりした描写でプロセスがいまいち伝わってこなかった。そして出演者皆若い!
映画館に行く前に逆噴射聡一郎先生のレビューを見つけて読んでしまった(目についたら読まずにいられようか)。ネタバレになっていないのはさすが。見に行く前、そして見終わってからもう一度読み直して、俺の言いたいことのほとんどがこのレビューに書かれてしまっている、あるいは逆噴射目線で映画を見てしまったのかもしれない、と思った次第。
Danger Zoneが流れるオープニングから1をなぞるような展開。やらかした翌日の教官の登場とか、なかなか進展しない恋愛とか、ビーチでスポーツとか、対立していた二人が訓練を通じて友情を深めていくとかはまんま。オープニングの離陸シーンなんて本筋とまったく関係ないシーンなのでわざわざそれを冒頭に持ってきたのはサービス精神の賜物だろう。1と違って今回は明確なミッションがある。ならず者国家の核施設を戦闘機で爆撃・破壊する。ただしその施設は山岳地帯の奥地に建設されており、GPSが使用できないため無人機による攻撃は不可能。戦闘機にパイロットが搭乗する必要がある。その戦闘機は(理由は忘れたが)今や旧世代機であるF18というやつしか使えない。敵の戦闘機が旧世代機では太刀打ちできない高性能な第五世代機であることが作中で幾度も言及されるので、主人公たちが旧世代機に搭乗するというのは本作の重要なテーマになっていると見る。
逆噴射先生が書いているように、この映画は絶滅危惧種であるエリートパイロットを、逆境にある映画(館)業界に重ねて描いた映画である、と思われる。マッハ10に到達するすげー戦闘機と超人的な搭乗スキルを持つすげーパイロットなんてもはや時代遅れ。これからの時代、パイロットは地上にいて、飯食って、排泄して、眠って、その間にドローンが攻撃する。GPSやAIを駆使すればパイロットを養成するよりはるかに効率的に、安全に、低コストに済ませることができる。映画(館)も同じ。上映スケジュールに合わせないといけないとか、一ヶ月程度で公開が終わるとか、入場料が毎回かかるとか、感染症の時代に不特定多数と同じ空間にいなくちゃいけないとか(映画館の換気能力は強力なので感染症のリスクは低いとされている)、もう時代遅れなんだよ、月額払ってネトフリやアマプラやらで見た方が安くて手軽で便利で安全だし、そもそも新作をすぐ見る必要なんてないし、現に制作スタッフや俳優たちは配信サイト制作の映画に名を連ねるようになっているし、そうして作られた映画が映画賞候補にも挙がるようになってるし、映画が娯楽の王様だったのは半世紀以上も前の話であり、趣味が多様化した現代では映画は無数にある娯楽の中の一つに過ぎない。それなのに映画館のビジネスモデルは半世紀前からほとんど進歩していない。アクションだってすげーショットだって今やCGを使えば自由自在に作れる。スターが体張ってアクションするとか、いい感じの雲が出るまで待機するとか危険だし効率悪いし何より時間と金の無駄。
…という時代にあって、トム・クルーズは愚直に映画スターであろうとする。動画配信サイト制作の映画には出演せず、あくまで映画館で公開される映画にこだわり続ける。その姿勢が、もはや時代遅れとなったすげー戦闘機乗りであるマーヴェリックと重なる。
上官がマーヴェリックに言う。「お前たちはいずれ消える」と。それに対してマーヴェリックは、そうかもしれない、と同意したあとで、「でも今日じゃない」と言い放つ。まだできることはあると。トム・クルーズ、今年還暦だぜ? その人がこう言ってのける、そのカッコよさ。比類ない。
マーヴェリック。一匹狼。でも1と違って今回のミッションは一人では完遂できない。仲間が必要だ。すげーマーヴェリックがすげースキルを持っていたところで他のメンバーがうまくやれなければ無意味だ。この展開はうまいと思った。まー、若きエリートパイロットたちが誰も成功できなかった訓練飛行をマーヴェリックが一発で成功させてお偉方を黙らせるシーンとか、彼が編隊長として出撃する展開に関しては、トム・クルーズにはインポッシブルなことなど存在しないと言わんばかりで少々興醒めしたのは事実だが…。でも本番ではトムは成功して当たり前、むしろ第二撃をマニュアル操作で成功させたルースターの方が凄い。あの瞬間、彼はマーヴェリックを超えていたんじゃないか? そういうトム万歳、トム最高なだけじゃない、若者にもしっかり見せ場を作ってやれてるところがこの映画のいいところ。ヴァル・キルマーの大将や、ジェニファー・コネリーのシングルマザーもいい味を出していた。中年の友情、中年の恋愛。どちらも時間の重みを感じる、そして心温まる描き方。1の映像をそのまま流すシーンが何度かあったのは未見のファンへの配慮か、1を見ていなくても十分に楽しめると言われる所以だろう。
見どころは言うまでもなく終盤のミッションのシーン。4DXだと常に風が流れ、シートは揺れ動くしとても楽しい。まあ遊園地のアトラクションほどの激しさはないので過剰な期待は禁物だが。チームが次々戦艦? 空母? から離陸して、そのあと発射されたトマホークミサイルが彼らを追い抜いていくシーンの臨場感は凄かった。あれが本作のベストシーン。配備された敵のミサイルを意識しながら低空飛行で山岳地帯を抜け、目標へ向かって背面からダイブ、攻撃後、再上昇によって加わる意識を失うほどの10G…からのミサイル回避。ここがクライマックスで、そのあとはちょっと蛇足に感じた。トム走りとか、トムキャットとかはファンサービスっぽい印象(前者は違うか)。さすがにF14で第五世代機にドッグファイトで勝つ…なんて芸当はマーヴェリックでもできない。ヘリのシーンと第五世代機のシーンで2回味方が助けに来るからちょっとダレるんだよな。同じことの繰り返しで。どちらも若者の見せ場といえばそうだし、能力では劣る旧世代機でも力を合わせれば次世代機に勝てる、そのことに含蓄もあるのだろうが。
でも面白かった。とても。「夢のような面白さ」とまではいかないかもだがそれに近い満足。ちょっとサービスが過ぎるだろ、と俺は思ってしまったが、それを嬉しく感じる人も多いだろうし、あれはあれでいいのだろう。今回、劇場で初めて吹替で映画を見たがよかった。予告動画を見る限りだと字数に制限のある字幕よりむしろ吹替の方が正確に翻訳されているように思えたし(「カバン持ちのバッグマン」とか、「同じミスはしない」とか予告字幕だと意訳されている)、吹替だと字幕を追わなくて済むぶん画面に集中できる。映画館で吹替、声優陣にもよるだろうが全然アリだな、と思った。この日、映画館は珍しく盛況で、4DXもほぼ満席だった。初体験らしい観客もちらほらいたらしく最初のデモで劇場内がどよめいたのは面白かった。中年向け映画と思いきや結構な数の若い人たちがいたのは意外だった。ヒットするといい。都合がつけばもう一度、今度はIMAXで2回目を見たい。
以下、余談。「キャプテン・マーヴェリック」ってマーヴェリック大尉じゃねーの? 大佐はカーネルだろ?(北斗の拳知識)と思って検索したらこんなツイートが。勉強になった。
米海軍の階級の話でCaptainが大尉とされているなら誤りです。陸軍、空軍、海兵隊はCaptain=大尉で、海軍だけがCaptain=大佐となっています。https://t.co/vhvZR2zY3Z
— 在日米海軍司令部 (@CNFJ) July 23, 2019
この映画も公開延期しまくった。
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今、映画館で映画を見る意味。
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