背筋『近畿地方のある場所について』を読んだ

 

 

カクヨムにアップされていたのを今年3月にはてブ経由で知った。当時は「ネット掲載情報4」まで。更新されるたびリアルタイムで読んだ。

kakuyomu.jp

 

その後書籍化。当初は電子版を購入するつもりだったが紙版におまけで呪いのシールが付くと知り紙版にした。買ってすぐ読んだ。感想をブログに書き忘れたので書くために先日再読したら前回読んだときより面白く感じて一晩かけて読み耽った。ほぼ内容を覚えていたから全体像が初読時より把握しやすかったためだろう。

 

謎解きとホラーの二つの要素がある。

最後まで読んでも真相は明示されない。さまざまな形式で書かれた断片的な情報を総合して読者に考察を促すような作りになっている。

 

近畿地方のある場所に集中する怪異についての調査。

山に棲む何かとジャンプする女の霊の話がメインとなる。

 

以下はネタバレを含む俺なりの解釈。

元々は山に何かよくないもの(鬼?)が棲んでいた。こいつは若い女に執着した。地元の人たちは祠を作ってこいつをひそかに祀っていた。祠にあった石にはよくない力が宿っておりそれを知った宗教団体が持ち去って儀式に利用した。信者だったジャンプ女は教団解散のどさくさに紛れてこの石を持ち逃げ。自宅に置いて教団がやっていたのをアレンジした儀式を行い死んだ子供を蘇らせようとした。蘇った子供は化物で、女は殺されるか、絶望して自殺したか、とにかく死んで幽霊になった。呪いを知ることで縁ができ、その縁ができたものを食うことで化物は生きられる。女は我が子を生かすために呪いを拡散している。

 

大まかには大体こんな話だろう。オチは、この小説自体が呪いを拡散するための手段だったというもの。読者(視聴者)を巻き込む点で阿澄思惟『忌録』の「光子菩薩」や台湾のホラー映画『呪詛』と通じる。見ていないが最近テレビ東京がやった『祓除』もそんな作りらしい。

 

hayasinonakanozou.hatenablog.com

 


www.youtube.com

 

真相はどうでもいいと言えばいい。それよりも手法を変えながら恐怖が語られる短編集として楽しみたい。

やばい心霊スポットに凸する「ネット収集情報1」、呪いのシールにのめり込んだ挙句自殺する女性の話「謎のシール、その正体に迫る!」、意識高い系社会人サークルの話「近畿地方のある場所について3」、撮っちゃいけないものを撮ったら呪われる「心霊写真」、恋人が浮気していると思ったら取り憑かれていた「浮気」、これらがとくに面白かった。

一番の好みは「近畿地方のある場所について3」で、事業化集団みたいなのが本当は取り憑かれた奴らの集まりで、異常な言動のあとの沈黙と凝視、何事もなかったかのような翌日のフレンドリーなLINE、ドアの投函口から覗いてくる目など、怖くてよかった。

 

途中著者は何度かこの小説を終わらせようとする。紙の本だとまだ残りページがあるとわかるので効果が弱いが、カクヨムでリアルタイムで追っていたときは唖然とした記憶がある。え、これで終わり? と。リアルタイムならではの体験だろう。なぜ著者は終わらせようとしたのか、そしてそれができなかったのかについては最後に説明される。