2023年読んだ本ベスト&裏ベスト

今年読んだ本は65冊。

去年が75冊だったので去年ほどは読めなかった。

ブクログの履歴を見ると5月は1冊、7月は0冊。7月は職場異動があり慣れない仕事、覚えることの多さにだいぶ参っていたので本を読む元気がなかったのだと思われる。5月は謎。

2022年は4月が2冊、9月が1冊とそこだけペースが落ちている。

俺は春と夏頃に本を読めない時期がくるっぽい。なぜかはわからん。記録をつけてると傾向が見えて面白い。

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今年もいい本をたくさん読んだ。

文章が合わない。内容がつまらない。難しい。興味が持てない。そういう本は無理して読まない。途中まで読んだとしても放棄する。自分にとって面白いと思える本だけを読むのが読書のコツ。46歳になったし、もう背伸びして難解な本読んでる俺カッケーしなくてもよくなった。というかおっさんがインテリな見栄を張るなんて痛すぎる。精神衛生的にもよろしくない。倉橋由美子だったか四方田犬彦だったか、つまらない本を我慢して読み続けるとそのうち頭がおかしくなると述べていたのは。そのとおりだろう。

 

「人生前半の課題は挑戦であり、後半の課題は別離である」という俺の好きな中井久夫の言葉がある。人生いよいよ後半戦(とっくに?)。読書をフィジカル的*1にもメンタル的*2にも楽しめるのが70歳までと仮定したら*3残りの時間は24年。年間で平均50冊読めるとしたら1200冊。俺に残された猶予はそんなもんか。その中には再読の本も含まれるから未知の本に限ればさらに数は少なくなるだろう。65歳まで今の会社で働くとしても定年後は年金生活になるからそうなったら今のペースで本を買うのは不可能になる。国書刊行会みすず書房の本は贅沢品としてため息まじりに棚から眺めるだけになるかもしれない。

 

今年7月にXでポストするのをやめた。見るのは続けているが以前より時間は減った。浮いた時間を読書に充てようと思っていたがなかなかうまくいかなかった。習慣化の努力がまだ足りない。うまくやればもう何冊か読めただろうに。

 

とはいえ人生は有限。人間何をしようと最後は必ず「途中」で終わるんだから過剰に意識しなくてもいいんじゃないの、とも思う。死ぬまでにあれも読まなくちゃとかこれも読みたいとかそういう強迫観念みたいなのからは自由でいたい。そういうの、なんか強制されてるみたいで窮屈な感じがする。リストの穴埋め作業やってるみたいな味気なさもある。

 

それに読書って、ただ書いてあることを読むだけじゃない。本屋で本を探すこと、選ぶこと、買うこと、所有すること、書棚に並べること、装丁を撫でること、ぱらぱらめくって内容を想像すること、これらもまた読書だと俺は思っている。読むことは読書という営みのうちのひとつに過ぎない。読書っていうのはとても懐が深いものなのだ。

…以上、独身中年ブルーワーカーの戯言である。

 

で、今年読んだ本から10冊を選んだ。

けっこう迷った。10冊に限定せずよかった本をすべて挙げてもいいのかもしれない。

でもあれを選びこれを除く…という行為から今の自分が何を好み何に関心があるかがより明瞭になるのではないかと思えたので10冊縛りで今回はやってみた。いやあ、今年は本当にいい本をたくさん読んだ。読書ライフ、充実してた。

以下、読んだ順に。

 

pha『人生の土台となる読書』

phaさんによるブックリスト。読書は自分を変えるのではなく自分を自分らしくしてくれる、という文章が印象強い。この本で紹介されて興味を持った本を何冊か読んだ。『カルトの子』『聖なるズー』『飼い喰い』『自作の小屋で暮らそう』…どれも面白かった。とくに『聖なるズー』はすごかった。ブックリストとしては去年読んだ荻原魚雷『中年の本棚』と同じくらい俺好みだった。進化論や脳科学といった普段まず読まないジャンルの本も読む気が出てきた。

今年はphaさんの本をよく読んだ一年だった。本書のほか『持たない幸福論』『どこでもいいからどこかへ行きたい』『しないことリスト』を読んだ。言ってることは毎回大体同じで、自分らしくあること、無理をしないこと、人とゆるくつながること、居場所をつくること、の大切さが書かれている。同じ系譜に連なる本として鶴見済『人間関係を半分降りる』も位置付けられる。この本もよかった。

 

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小島美羽『時が止まった部屋 遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』

実際に孤独死現場の整理にあたる人が書いた体験記。死の状況をダイレクトに伝えてくる再現ミニチュアの強烈なインパクト(故人や遺族に配慮しており純粋な再現ではないらしい)。俺も生涯ひとりが決定している身なので他人事じゃねえな…との思いが。俺が今年、サードプレイス作りたいとか人間関係は大事だとか言うようになったのってもしかしたらこの本が影響していたのかも。とくに気が滅入ったのが火事場泥棒の話。孤独死した人物の部屋に友人を名乗る隣人がやってきて生前貰う約束をしていたと主張して遺族が見ている前で遺品をかっさらっていくケースは決して珍しくないという。こわ。きも。

カレー沢薫『ひとりでしにたい』とも共通するテーマ。

 

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シルヴァン・テッソン『シベリアの森のなかで』

フランスの冒険家、作家の著者が半年間シベリア奥地で過ごした記録。

隠遁は反逆である。小屋を手に入れること、それは監視画面から消えるということだ。隠遁者は姿を消す。彼はもはやインターネット上に記録を残さないし、通話履歴も銀行の取引データも残さない。彼は逆ハッキングを実践し、パワーゲームから降りるのだ。しかも、森に行く必要はまったくない。革命的な禁欲主義は都市環境でも実践できるからだ。消費社会では、都市環境に適応するという選択肢がある。ちょっとした規律があれば十分やっていける。裕福な社会では、まるまると太るのも自由なら、修道士を真似て本のざわめきに囲まれて痩せたままでいるのも自由だ。したがって、禁欲主義者たちは自分のアパルトマンから出ることなく、自らの内なる森に身を寄せているのである。

俺も埼玉県某市の住宅街のど真ん中の家の中に自分だけの森を作りたい。

 

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ミシェル・ウエルベック『滅ぼす』

刊行されているのを知らずたまたま立ち寄った大宮のジュンク堂で見つけて上巻を購入。ウエルベックってこんなだったっけ? と思うようなエンタメ展開に数日で読了、続きが読みたくてすぐ下巻を購入した。過去作にあった露悪的な性描写や世の中に対する嘲笑や毒は消えて全編に厳かな諦念が漂っている。大御所の風格を感じた。テロとの戦いや大統領選といったスケールの大きな話が主人公の病いとともにどんどん小さくなっていく。人間、死が迫れば仕事も世の中もどうでもよくなって最後は体の痛みと身近な人のことしか頭になくなるのかもしれない。

 

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背筋『近畿地方のある場所について』

カクヨムに書かれていたのがはてブでスターを集めていたので知った。読んだときはまだ掲載の途中で続きが書かれていくライブ感にどう展開するのかとわくわくした。書籍化すると知って嬉しかった。電子版ではなく紙の本を買ったのは呪いのシールが欲しかったから。構成が複雑なので2回読んで整理がついたときの方がより楽しく感じた。こういう情報の断片を組み合わせていく構成のホラー、好きだな。

 

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ばるぼら さやわか『僕たちのインターネット史』

最近のインターネット、便利になったけどつまんねえなと感じていて、その原因はスマホ普及によるマス層の流入と商業主義の蔓延にあると思っていたのだけど本書も大体俺と近い答えを提示している。「今ではインターネットは現実の上にかぶさっているもうひとつのレイヤー」という言葉が印象深い。普段は本や映画の話題をメインにXで検索するんだけど、先月車を買ってから同じ車種について検索してみたらこれまで俺が見てきたのとまったく異なるタイプのアカウントばかり出てきて衝撃を受けた。文章やノリが全然違って別世界。今更何言ってんだ、Windows Meの頃から何年ネット触ってんだって話なんだが…。俺は知らぬ間にクローズドなインターネットに閉じこもっていたんだろうな。その間にインターネットはどんどん変化していたのだ。もうインターネットは完全に棲み分けがされていて現実世界とイコールになってしまった(現実/非現実って枠組みでインターネットを考えるのがモロにロートル的思考なんだろうが)。

内容的に電子版が出てそうなのに出ていないの、謎だ。

 

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春日武彦『自殺帳』

精神科医による自殺にまつわるエッセイ。著者が実際に診た患者のほかに事件やフィクションの自殺を扱っている。フィクションを例に自殺を語るのってけっこう珍しい試みな気がする。三島由紀夫にふれないのが不自然に感じた。

自殺はさまざまな事情あってするんだろうから意志を尊重すべきなのかもしれないが、成功したあとで後悔しても取り返しがつかない点で俺はすべきじゃないんじゃないかなあと思っている。可能なら自殺に成功した人に質問してみたい。自殺してよかったですか、と。

今年は自殺に関する本をほかにも読んだ。『「死にたい」とつぶやく』『「死にたい」と言われたら』。

 

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小田嶋隆『上を向いてアルコール』

中島らも『今夜すべてのバーで』、吾妻ひでお失踪日記』と並ぶアル中本の名著ではないだろうか。アル中にストーリーなんてない、飲んじゃったのがすべてとか、アルコールのない暮らしは4部屋ある家なのに2部屋で暮らしているような寂しさがあるとか、アルコールのない暮らしを構築するには知性が必要とか、金言の宝庫。ところどころで著者の性格の悪さが滲み出ていい味を出している。

だらだら酒飲んで時間を潰してしまうのが嫌になって11月10日から晩酌をやめて現在も継続中*4。早死にしたくない。健康に長生きして世の中の変化を観察したい。また、氷河期世代としてこれまで社会から受けた仕打ちのぶんを少しでも金で取り返したいとも思っている(冗談です。たぶん)。

 

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アルテュール・ブラント『ヒトラーの馬を奪還せよ 美術探偵、ナチ地下世界を往く』

美術探偵によるナチ時代の彫刻調査の顛末。ナチグッズのコレクターなんてのがいるんだから世界は広い。趣味は奥深い。下手なフィクションよりはるかに面白いノンフィクション。元ナチ高官の子孫が素性を伏せて大企業のオーナー一族やってたり、政党を問わず政治家とナチ残党の関係が現在も続いていたりドイツも相当闇が深い。映画化したら面白そうだが題材的に難しいか。

 

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飛鳥部勝則『堕天使拷問刑』

復刊がXで話題になっていたのと、プレミアがついて中古価格が高騰してると知って興味を持って購入。この本も著者も知識ゼロ。ただのミーハー。

届いたら分厚い上に二段組の文字組みだったので怯んだ。しかし読み始めたら面白くてどハマりした。ミステリとしてはめちゃくちゃ。ホラーとしてはかなり面白い。クライマックスの盛り上がりはお祭りみたい。

先日、本書に続いて復刊した『黒と愛』を読み終えたが『堕天使拷問刑』の方が上かなと。著者は無口で無表情な女性にこだわりがあるのだろうか? ヒロインがどっちも綾波タイプというか長門タイプというか。江留美麗の方が示門黒に輪をかけて浮世離れしている。会話にならん。

飛鳥部作品、変にクセになる。休暇中に『鏡陥穽』も読むつもり。

 

もしこのブログを読んで興味を持った方がいても上のAmazonのリンクから買ってはいけません。大金出して古本を買わずとも書泉の通販で新品が定価で買えます。

 

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以上が2023年に読んだ本のベスト。

加えて、今年は雑誌をけっこう読んだのでその中から印象深かったのものを裏ベストとして挙げる。雑誌じゃないものも混じってるが…。

 

木澤佐登志『書架記』

ブックファースト新宿店のフェア特典冊子。木澤さんは『闇の自己啓発』で博覧強記っぷりを披露していた。テクノロジー関連や資本主義批判などを語っているイメージ。この冊子では硬軟問わず600冊超の本が紹介されている。俺と関心が重なるところもあればそうでないところもある。人が自分の好きな本をリスト化したのを見るのは楽しい。10冊20冊程度のリストじゃその人の特徴って見えてこない。ここから興味を持った本もある。巻頭エッセイ、本棚を廃墟に喩えているが俺は本棚は生成する森だと思っている。

 

 

本の雑誌20223年2月号 特集:本を買う!

中野善夫「本を買え。天に届くまで積み上げろ。」が素晴らしい。このエッセイに影響を受けたのか、今年は電子より紙の本をよく買った。中野さんご自身は本棚の電子化に邁進してるようで複雑な気分。

 

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国書刊行会50年の歩み

「特殊版元」国書刊行会創業50周年記念冊子。俺はあまり国書刊行会の本を持ってはいないけど気になる出版社ではある。マイナーな海外文学のシリーズ、ゴージャスな箱入り本、分厚い「鈍器本」を出してるイメージ。この冊子では普段知ることのない編集者の方々の話がたくさん読めて面白かった。「語り出したら止まらない」。営業車の運転が嫌で駐車場に停まってるバンを見た瞬間に嘔吐したってのに(失礼ながら)声出して笑ってしまった。国書刊行会のXアカウントって竹中朗さんなのかなと勝手に推測しているがどうか。本は内容を読めればいいってだけのもんじゃない、装丁を含めて本。『アーサー・マッケン自伝』買って今年の国書税納めなくちゃ。

 

 

ソローキン祭り 無料配布冊子

ロシアによるウクライナ侵攻未だ継続中。もはや日常の一部になってしまった感も。やべー小説ばっか書いてるイメージしかなかったのに今やソローキンは「皇帝化するプーチンを予言」していた作家として見做されているそう。ノーベル文学賞候補としても名前が挙がっているとか。『ロマン』しか読んでないけど『愛』と『親衛隊士の日』は持ってるので来年はソローキン読みたいな。この冊子ではソローキンのプロフィールと全著作(未邦訳作品含め)が紹介されている。『ノルマ』『四人の心臓』『青い脂』が面白そう。俺に読めるかどうかは別として。

 

 

現代思想2023年10月号 特集:スピリチュアリティの現在

石井ゆかり「上昇と下降、今を生きるための神殿」を読めただけでも買ってよかった。

 私は日々生きていて、目の前のことをなんとかしようとしている。ニュースを見ては理不尽に憤り、ケガや病気をして痛みにうめき、〆切や雨漏りに悩み、できれば善い人でありたいと願い、でもなかなかままならず、過去の傲慢を後悔し、今の自分の弱さを嘆き、人に盛大に迷惑をかけながら、もがきまわっている。もがき、泣き叫び、人生はそういうものだよと言って、同じ時代に生まれた者同士、背中をなであって生きて死ぬだけでは、足りないのだろうか。

 多分、人間はそれでは、足りないのである。

 

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吉村萬壱『萬に壱つ』

サイン入り生写真が付録で付いてくる豪華さ。エッセイが二本載っているがメインは写真。吉村さんの小説は読んだことがないがXアカウントはフォローしてて、ポストいいなあと思ったり、あと俺はこの人の撮る写真が好きで。とくに水面のアップで光の反射や波紋をとらえたやつ。変態っぽいとあるがどんな小説を書いているんだろう。Xでは真っ当なことを言ってる印象があるが。来年読んでみたい。

 

 

小指『宇宙人の部屋』

表紙のイラストに惹かれた。アル中関連本。自身は飲まないのに交際する相手が必ずアル中、しかも重度の、という著者による体験記。アル中の二人と向き合うにつれ自身の共依存を自覚していくという話。メインで描かれるのは二人の男性。どちらも超然としていて破格の人物。生活感溢れる部屋の写真に、この本の出版に関わっている都築響一の『TOKYO STYLE』を連想した。装丁がちくま文庫に似ているのも影響していたかも。文章がいいので重い話なのにすらすら読めた。アルコールはやばいドラッグ。

 

 

スペクテイター52号 文化戦争

アメリカに蔓延するポリコレについての解説。まだ半分くらいしか読んでないが、アメリカって今こんななの? という驚き。これじゃもう迂闊に発言できない。多文化尊重的な主張が言論を萎縮させるような方向に向かうのって皮肉な感じ。いやこれは萎縮じゃなく正当なのか? わからん。2016年の大統領選でトランプが勝てたのはポリコレに疲れた人たちが歯に衣着せない発言をする彼に惹かれたから。過去に遡ってレッテル貼りするキャンセルカルチャー、怖すぎる。

 

 

panpanya『商店街のあゆみ』

路上観察学と言われるとたしかにそうかも。本書を買ったあと『おむすびの転がる町』と『枕魚』も買って読んだ。俺はあまりこの人につげ義春っぽさは感じないのだが『枕魚』収録の「地下行脚」は絵にちょっとぽさがあるといえばあるかも。『おむすびの転がる町』収録の「そこに坂があるから」がよかった。日常のちょっとした事物や風景から想像が膨らんでいく、異界に迷い込む、panpanya作品のそういうところが好き。

 

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ユリイカ2024年1月号 特集:panpanya

インタビューでは路上観察学や考現学、幼少期を過ごした川崎市の原風景、見過ごされている日常的な光景や明日には消えているかもしれない物への関心などについて語っている。どれも作品に反映されている要素。「坩堝」なんてまんま誰からも顧みられず消えてゆく物たちの話だった。つげ義春との共通性がよく言及されるが、語り手のキャラクター性をできるだけ排除してオブジェクトや現象をメインに描く作風は、私小説的なつげとは真逆のアプローチに思える。

 

 

以上。

来年もいい本がたくさん読めますように。

 

 

*1:視力や筋力

*2:集中力や好奇心

*3:図書館に行くとそれくらいの年齢の高齢者は大勢いるのでもっと期間を長く見てもいいのだろうが余裕? をもって短めにしておく

*4:付き合い等外で飲むのはよしとするルールなので職場の飲み会には参加して飲んでいる