トム・クルーズとイーロン・マスク、どこで差がついたのか 『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』を見た

4DX吹替で見てきた。

ミッション:インポッシブルシリーズ、過去作は一つか二つしか見ていない。なのに新作を見に行ったのは、予告編でトム・クルーズがバイクで崖からダイブするシーンがすごかったから。実際見たらバイクでのダイブ以上にカーチェイスや機関車が橋から落ちるシーンが見応えあり、3時間もの長さながら最後まで飽きずに楽しく見られた。ケツは痛くなったが大満足。見ている最中、現実を忘れる。見終わったら高揚した気分で映画館を後にする。これこそが映画館で映画を見ることの醍醐味だよな。

 

町山さんによると、この映画はストーリーより先に撮りたいアクションがあり、それを撮ったあとでストーリーを作っていく方式で製作されているという。めちゃくちゃ。でもストーリーに不自然さはまったく感じなかった。過去作と大まかなつながりはあるようだが今作だけを単品として見ても問題なく楽しめる。途中、ストーリーを説明するためかやたらと長い会話シーンが何度か挟まる。そこでちょっとだれたが基本的にはアクションの連続、ユーモアもあり、退屈せずに見られる。字幕を見ていないからなんともいえないが長い会話シーンは吹替の方が情報量が多くできるぶん理解しやすい、と思う。ただでさえ4DXは疲れるので頭を使うのはできれば避けたい。ホワイトウィドウ役の広瀬アリス、他の声優陣が上手すぎるせいでやや棒っぽく聞こえるけれど悪くはなかった。

 

激しいアクションシーンが多いので4DXはよく動いて楽しかった。終盤の機関車のシーンは風吹きまくり。でもこれもうスパイ映画ではない。スパイってもっと隠密行動するものだろう。トム・クルーズがいろいろ頑張ってる姿を見て楽しむ、そういう映画になってる。どれほどのやべー危機だろうがどうせトムがなんとかしちゃうんでしょ? という水戸黄門的なストーリーをド派手なアクションで彩った映画。

 

今年61歳のトム・クルーズ、今作でも体張ってスタントなしの撮影、腿上げて腕振っての全力疾走を何度も。45歳の俺よりもはるかに体が動いていて讃嘆の念を抱く。普通に考えたら61歳ならとっくに現場を去って管理職になっているものなのにいまだに30代くらいの若手がやりそうな役をやっているんだから違和感あるっちゃああるんだが*1、それをイタくならず「いいぞ、もっとやれ」と納得させてしまうのがトム・クルーズという俳優の説得力なのだろう。

 

ただ衰えは少し感じた。容貌はさすがに皺やたるみが目立つようになってきたし、格闘アクションもイマイチで*2、それを撮る側も察してか、終盤の列車上での格闘は引きではほとんど映らなかった。このへんは『ジェイソン・ボーン』シリーズのリアリティある格闘、映像と比較すると若干の物足りなさがあったがそこまで望んでは贅沢というものだろう。

 

町山さんによると通常主演俳優はスタントなしでアクションシーンを撮影できない。万が一怪我してしまったら撮影がストップして保険会社は多大な支払いを製作会社にする羽目になるから。しかしこの映画はトム・クルーズがプロデューサーを兼ねているので保険会社に通常より大金を払うことで主演俳優によるスタントなし撮影を可能にしているのだという。それ自体がインポッシブルをポッシブルにしてるじゃねーかと言いたくなる。『トップガン マーヴェリック』もそうだったが配信でなく映画館での上映にこだわる姿勢も併せて、トム・クルーズが最後のハリウッドの大スターと言われる所以か。

トムはプロデューサーとして金を出して自分が撮りたいアクションを撮り、あとから監督や脚本家にストーリーを作ってもらって一本の映画として完成させる。この映画は前編で、現時点で後編のストーリーはまだ決まっていないというのだから笑える。またトムが撮りたいアクションを撮ってから考えるのだろう。

今回の敵はスーパーAI。ハッキングされないようデジタルを捨てアナログ環境を整えて対抗するという設定が、CGなしでの撮影にこだわる今作の撮影陣とオーバーラップした*3

 

ビジネスに大金を投じて自らのロマンを実現させる。

…と考えたらふとイーロン・マスクが連想された。トム・クルーズ以上に莫大な額を費やしてTwitterを買収して現在は念願のスーパーアプリを実現しようと進行中。やってることは同じなのに印象が両者で正反対になるのは、マスクが絵に描いたような成金ムーブでユーザーを無視してやりたい放題かましてるのもあるが*4そこに彼自身の欲しか見えないから。もっと自身もユーザー(観客)もともに楽しめるWin-Winなビジネスはできないのかね。俺はもうTwitter…じゃなくてXをほとんど利用していないので今後どうなろうと知ったことじゃないが。

 

 

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*1:トップガン マーヴェリック』もそうだったが

*2:パーティ会場での取っ組み合いはもっさりしてた

*3:トップガン マーヴェリック』が時代遅れのアクションスターを描いていたように

*4:センスが絶望的にダサいせいもある