ひさびさにアタリのホラー映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』感想

あんまり期待していなかったけど見たら面白かった。

 

金曜のレイトショー。わりと客が入っていた。若い男女が多かったのは意外。たまたまか。普段俺が見に行く上映回は中年以上の一人客ばっかりなことが多いので新鮮だった。

 

10代の若者たちがお遊び感覚で降霊術をやったら取り返しのつかない事態になってしまう、というストーリー。いわくつきの手の模型(本物の人間の手らしいが詳細は不明)を握って「トーク・トゥ・ミー」と口にすると霊が出現、その霊を体内に呼び込むとトリップ? する。そのヤバい感覚が病みつきになって主人公は降霊術にハマっていく。

 

この降霊術がドラッグを暗示しているのは明白(この書き方は妙だ)。降霊会はドラッグパーティ。作中では主人公の親友の母親が何度も薬物やパーティの禁止を口にしている。本人は霊を見ているのに周囲の人間には何も見えない、その事態を面白がるシーンは象徴的。トリップしている人間はあんなふうに他人からは見えるのだろう。主人公はハマって何度も自分に降霊させ、それを親友は危ぶむ。「お堅い」彼女は決して降霊術に手を出さないし、居合わせた自分の弟がそれに参加することも許可しない。15歳未満らしい、まだ幼さの残る顔をした少年は、好奇心と己のタフっぷりを周囲に認めて欲しい気持ちから降霊術を体験したがる。ドラッグに手を出す最初の動機に酷似している。みんながやってるから自分もやってみたいという好奇心と、自分もやらなきゃ仲間はずれにされるのではないかという恐怖心と、自分もグループの一員として認めてほしいという承認欲求と、一人前のタフな男として見られたい、というマチズモから手を出す。そして主人公は、彼の姉である親友が席を外した隙に「ちょっとだけなら」と安易な気持ちで彼を降霊術に参加させる。それがどんな結末を招くのかろくすっぽ考えずに。

 

主人公は母親を亡くしている。父親とはうまくいっていない。喪失と不和の感情が十代の微妙な彼女の精神を危うくしている。彼女が降霊術にハマるのはその寂しさを埋めたかったから。この理由もドラッグに手を出すそれと共通している。体験後、彼女は幻視や幻聴を日常的に体験するようになる。悪霊によるものとして映像的に表現されているが幻覚症状だろう。彼女が悪霊だと思っているのはドラッグが見せる幻。無数の虫が体を這い回っているとか自分を笑う声が聞こえるとかと同じように、人の足を舐め、扉を叩く音を聞く。

 

悪魔や悪霊の存在を幻覚とも解釈できる曖昧な表現をしている点で、この映画は『エクソシスト』と似ている。『エクソシスト』の少女は悪魔に取り憑かれたという。だが、父親はおらず、母親は女優の仕事で忙しく、母親に言いよるプロデューサーは性的な目で自分を見てくる…それらによって精神的に不安定になった少女が失調した様子を描いた映画とも解釈できる。ポルターガイスト現象や空中浮遊などは映画的な表現ということにすれば、の話だが。何年か前に『エクソシスト』を見返したとき、こんなに母娘の家族シーンが多い映画だったか、と意外の感を持った。『トーク・トゥ・ミー』の悪霊も、ただのドラッグが見せる幻と解釈できる。というかこの映画に関しては明らかにその意図で作られている。

 

不幸な境遇の少女が主人公なのだから、見ている最中彼女に同情的になってもよさそうなのに、彼女の弱さと頑なさと愚かさがどうしてもそうさせてくれないのは可笑しかった。ことごとく選択肢を間違え、その結果不幸を招く、疫病神的な主人公。親友の弟に降霊術を許可したり、50秒以内と自分で決めた制限時間なのに勝手な都合でそれを延長したり、今は親友と付き合ってる元彼を自宅に連れてきたり、悪霊の教唆に何度も従ったり。最後のはしょうがないとしても、他のに関しては、それやったらどうなるかちっとは考えろや、頭使えや、とイライラする。このイライラが楽しい。馬鹿なやつ、次はどんな馬鹿なことをするんだろう、そう思いながら映画を見る楽しさ。

 

ストーリーはいろいろツッコミどころあるんだが(そもそもあの手は結局何だったのか)、映像がいいのでそっちに気を取られ納得させられてしまう。やっぱり映画は画面の強さあってこそだな、との感を強くする。冒頭すぐの、車にひき逃げされて瀕死のカンガルーを発見する不快なシーン、ジャパニーズホラー的な一瞬だけ映る人影、頭突きを止めようと手を出して骨が折れるシーンの迫力、そしてラストの、部屋の照明がひとつまたひとつと消えていくシーン。ここは怖い。ああ、死ぬときってこういう感覚になるのかも、と思ったり。視界が暗くなって、声を上げても誰にも届かなくて…。暗闇の中を彷徨っていたらやがて遠くに明かりが見えてくる。その明かりに吸い寄せられて行ったらそこは…。

(物語的に)綺麗なラスト。

 

ストーリーの不快さといい、程よい恐怖感といい、こんなにいいホラー映画を映画館で見たのはひさびさな気がする*1。見てよかった。かなり満足。

 

 

 

hayasinonakanozou.hatenablog.com

 

hayasinonakanozou.hatenablog.com

 

*1:去年のNOPEや今年のイノセンツにも感銘を受けたがホラー映画とは少し違う気がする