飛鳥部勝則『殉教カテリナ車輪』を読んだ

「書泉と、10冊」という復刊企画シリーズの一冊。去年、同じく復刊された同じ作者の『堕天使拷問刑』がとても面白かったので続いて復刊した『黒と愛』『鏡陥穽』に続き4冊目となる本書も予約して購入。魔が差して? ポストカード付きの高額な方を買ってしまった。

 

創元推理文庫だがアマゾンの商品紹介だと単行本の画像しか出てこない。なので写真を貼っておく。書泉(芳林堂書店)限定復刊だからアマゾンではマケプレの中古しか取り扱いないしプレミアが付いているので本作含め復刊している4作を欲しい方は、まだ買えるかどうかわからないが楽天市場内の書泉のサイトか実店舗で求めるといいと思う。

 

図像学とミステリの融合。絵の謎解きと殺人事件の謎解きはよく似ている、という登場人物のセリフが出てくる。本書前半はすでに死んだある無名画家の生涯を追いながら彼が遺した謎めいた絵を図像学を用いて解明するパートで、たしかに事件の真相を暴くようなスリルがあって楽しい。以前読んだ野崎歓『異邦の香り』では、ネルヴァルが遺した断片を彼の生涯や当時の社会状況から読み解いていくその手際に感動したものだったが(「ネルヴァルと夢の書物」)考えてみるとあれもミステリと通じる知的スリルによる感動だった。

 

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後半は密室殺人の謎解き。そのトリックの解明と、犯人の追求。途中でおや? と思うような叙述に出くわして、読み落としたかとページを戻ってみたのだがはっきりせず、もやもやした気持ちで読み進めていったのだが、それがトリックに通じていたのは解明パートに差し掛かってからだった。注意深く読むと初見でも誰が犯人か(論理に基づいて)見抜けるかもしれない。俺は馬鹿だから見抜けなかったが。密室のトリックは肩透かしと言えば言えるが、現実だったとしたらこんなもんかな、と思わないでもない。

 

飛鳥部作品を3作ほど読んできて思ったのが、この作者は狂人の異常心理を独白させるとすごい。『堕天使拷問刑』、『黒と愛』、どちらも該当箇所で圧倒された。それらと比べると『殉教カテリナ車輪』はだいぶおとなしい印象。この作品には今まで読んできた作品に出てきたような奇矯な登場人物は出てこない。それをどうしても期待してしまうので、本作はエンタメとして十分な面白さではあるものの読み終えて物足りなさが残る。これまで読んできた飛鳥部作品を面白かった順に並べると『堕天使拷問刑』がずば抜けていて、『黒と愛』、そこから少し間が空いて『殉教カテリナ車輪』『鏡陥穽』となる。『鏡陥穽』はホラーとして頑張っているのはわかるが設定的な無理に目がいってしまっていまいちハマれなかった。

 

書泉の企画に乗って復刊された飛鳥部作品はすべて読んできた。今後も続くかどうかは知らないが、俺としては一旦もういいかな…というのが今の気持ち。最近アナウンスがないみたいだが今後は何を復刊するのだろう。飛鳥部作品を続けるのだろうか。稲生平太郎アクアリウムの夜』『アムネジア』、伴名練『少女禁区』、増田みず子『シングル・セル』、福永武彦『死の島』なんかが復刊してくれたら嬉しいんだが。

 

 

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