山崎元さん、ありがとうございました

 

 

自分が山崎元さんを知ったのは水瀬ケンイチさんとの共著『ほったらかし投資術』だった。2012年頃だったと思う。Amazonで投資の本を検索すると一番上に出てきたので買って読んだ。読んだ当初は内容の半分も理解できなかった*1。なので読んだだけ。投資はやらなかった。

 

 

 

2017年の7月から老後資金を貯める目的でインデックスファンドの投資を始めた。今年8月で8年目に入る*2。この8年の間に金融資産はかなり増えた。2012年、当時35歳の自分は全財産7000円の無職だった。それが今では金の心配はせずに日々暮らせる身の上になっている。変われば変わるものだ。もともと蓄財に関心が薄く、あればあるだけお金を使ってしまうタイプだった自分は、無職になって金がないことがいかに恐怖と不安を誘発するか身をもって知り*3、その体験によって節約や資産運用をやるようになったのだから、人間何がきっかけで生き方が変わるかわかったもんじゃない。

 

会社を辞めた理由についてはこのブログに何度か書いている。発作的な衝動。代償は高くついた。2011年から2012年頃は震災やリーマンショックの影響でなかなか次の仕事が見つからず*4、軽率な退職を何度も後悔した。その後今の会社に契約社員として入社、正社員登用試験に合格して採用され今日まで12年間勤めている。前の会社にいた時より今の方が給与も待遇も人間関係も恵まれているので、いろいろ苦労はしたけれど結果的には辞めたのは正しい選択だった。本当、人生万事塞翁が馬だ。というか人生、運がすべてだ。

 

『ほったらかし投資術』を読んで山崎さんを知って以来、ずいぶん著書やコラムを読んだ。そしてその合理的思考に影響を受けた。お金は手段、投資より人生を楽しめ、そうも繰り返していた。自分が競馬をやるようになったのも「ギャンブルは教養娯楽費」と語る山崎さんの影響によるところが大きい*5

 

ある程度のまとまった資産があると精神的に楽になれる。お金で対処できる問題に関してはびくびくしなくても大丈夫だという安心がある。お金はないよりあった方が絶対いいに決まっている(お金と学歴って通じるところがあるな)。7年以上にわたって毎月余剰資金をコツコツ投資してきたおかげで今がある。投資のやり方を教えてくれた山崎さんと水瀬さんは恩人と言っていい。感謝。

 

今年1月の山崎さんの訃報はショックだった。いや、ショックというより山崎さんがこの世界にもういないということがものすごく寂しく感じられた。noteで食道がんを公表してはいたけれど早すぎると思った。同じように感じた人はたくさんいたのではないか。

 

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7月に出た『がんになってわかったお金と人生の本質』を読んだ。

内容的にはがん治療、終活、お金の話、人生指南、だいたいそんな感じ。

noteで闘病の経緯は読んでいたし、これまで山崎さんの書いたものをずいぶん読んできたので内容に新しい驚きはとくになく、これまでのおさらい的な、再確認的な読書になった。それでいいのだ。新しい驚きのないことが、この人のぶれなさの証明になっている。業界に忖度せず合理的なお金との付き合い方をずっと発言し続けてきた山崎さんは最後までそれを貫き通した(がん保険はいらない、お金に感情をこめるな、サンクコストにこだわるな、等)。苦しい闘病生活の中にあって理性的かつ冷徹に現実を直視して余命を計算している姿に、本当にすごい人だとため息が出る。「晩節を汚す」なんて言葉があるけれど、そして残念なことに実際そういう著名人はいるけれど、山崎さんはちゃんと最後まで山崎元だった。

 

以下、本書で印象的だった箇所。

・日本は健康保険が充実しているので生命保険には加入しなくていい。その代わり不測の事態に備えてまとまった額を現金で保有しておく。治療費は貯金で十分対応できる。

 

・がん検診は定期的に受けたほうがいい。

 

・情報は判断する行為とセットではじめて有益になりうる。判断できない情報や判断に時間がかかり過ぎる情報は却って邪魔になる。

 

・地位財の競争から降りると家計が楽になって生活の幸福度が上昇する。

 

・飲食の付き合いが人間関係に与える影響は大きい。

 

・なるべく長く働き、老後は便利な場所でコンパクトな住居にシンプルに暮らすのがいい。

 

・幸福とは「他人から承認されている」という実感である。

 

・お金は感情を込めず合理的に付き合う。

 

・予想と希望を混同させない。

 

守銭奴型FIREは人生のバランスが悪くてつまらない。

 

マーケティングとは大して価値がないものを価値を大きく見せて売るための技術の寄せ集めである。

 

・人生のコツは愛嬌。愛嬌のある人は色々な面で得をする。威張らないこと、自分のことを笑う心の余裕が愛嬌を生む。

 

上記の大半はネットで山崎さんのコラム等を検索すれば出てくるかもしれない内容。けれども「ネットで見られる情報」はいつ消えてしまうかわからない。10年後も見られる保証なんてない。だから有用な情報を本というパッケージで持つこと/読むことには意味があると思う。

 

先月中旬あたりからか、株式市場も為替相場も急変している。今年上半期は株式市場が絶好調で、自分の投信の評価額は手取り年収分くらい増益していた。が、ここ3週間ほどでン百万円減ってしまった。でも(あまり)気にならない。リターンはリスクに起因するとわかっているから。それに現状でも一年前と比較するとまだまだ高い。自分の投資のメインはオルカンだが、下落したと言ってもチャートを見ると頂上のあたりで何かやってる、くらいにしか見えない。まだ慌てるような時間じゃない。

 

自分のリスク許容範囲内で投資しているから落ち着いていられる。7年間そうしてきたように、今後も淡々と定額の積立投資を続けていくだけだ。とはいえ毎日数字が減っていくのはさすがに気分いいものではないので(この程度で感情が動くようでは俺もまだまだ修行が足りない)証券口座にログインするのはしばらくやめて他のことに集中しようと思う。仕事でもいいし、読書でもいいし、何か他のことでもいい。投資していることを忘れよう。

 

新NISAが始まったとか、日経平均が4万円を超えたとか、ここのところの株式市場や為替相場の急変とか、山崎さんだったら何て言っただろう、とつい考えてしまう。

でも山崎さんはいなくなっても、その思考のエッセンスは十分に著作を通じて教えてもらった。これからはそれを自分に可能な範囲で実践していこうと思う。

 

山崎元さん、たくさんの貴重な教えをありがとうございました。

 

 

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*1:今ではよくわかる。ずいぶん「成長」した。

*2:2012年から5年間は投資はせず水瀬さんの意見に従って生活費2年分の生活防衛資金をひたすら貯めながら今後に向けて資産運用に関する本をたくさん読んで過ごした。

*3:排便するのだってタダじゃないのだ

*4:正社員の求人はとても少なく、契約社員でさえ数人の求人にその十倍以上の応募があるような時代だった。

*5:今年は関心が薄れてあまりやっていない。