FI(経済的独立)したい、RE(早期リタイア)はどうでもいい

今年の1月に亡くなった山崎元さんの新刊『山崎元の最終講義 予想と希望を分割せよ』を読んだ。

 

トウシルに連載していた人生相談を編集して本にまとめたもの。大半は一度読んでいた。中にはブクマした回も。政治経済や時事問題、若い人向けのキャリア論などを述べるコラムも付いている。

 

タイトルの予想と希望を分割せよとは、人間誰しも希望を抱く、それは自然なことだけれども未来を予想する際は希望は排除してあくまで論理に基づいて判断せよ、希望は希望、予想は予想と分けて考えよ、の意。サンクコストや機会費用の考え方と併せて、山崎さんの合理的思考を端的に示している。

 

持ち家と賃貸どちらが有利か、金は貯めるより使う方が楽しい、守銭奴型のFIREはつまらない、定年までに必要なのは趣味と友人を作ること、などの話が面白かったし参考になった。

 

山崎さんはFIREに否定的。みみっちく残高を気にしながら暮らして何が経済的独立だ、そんな生活は人間が小さくなるからつまらない、との思いがある様子。この人はエリートだからキャリア論を読んでも前提とするレベルが高すぎて俺みたいな落ちこぼれのおっさんには何の参考にもならない。

 

山崎さんと水瀬ケンイチさんの『ほったらかし投資術』を読み、実行したおかげで俺の金融資産は大幅に増えた。俺の人生を変えてくれた恩人と思っている。同じような人は他にも大勢いるだろう。山崎さんがもうこの世界にいないことが、とても寂しい。

 

少し前にFIREに関する本を読んだ。今ならプライム会員なら無料で読める。

日本でFIREする方法がかなり現実的に書かれている。年収を上げる努力をする、日々節約を意識する、非課税制度を利用して投資する…など。この本を読むと30代や40代でのFIREはかなり難易度が高いことがわかる。大金が必要だし、将来の年金支給額も少なくなるし、社会保険料は自費になるし、時間が余りすぎて生活が乱れそう。だからといって50代だと、サラリーマンなら50代は賃金のピークになる上にもう少しすれば60歳だから辞めるのはもったいない、となる。50代を資産を増やすラストスパートにあてて60歳で退職するのが最適解かな、と今の俺は思っている。弊社は再雇用制度で65歳まで在籍可能だけれども、賃金が下がるし、さすがに再雇用で現場仕事はさせられないだろうが、冬の寒い時期の労働が苦痛で仕方ないので、60歳で経済的に無理なく辞められるならそこで辞めたい。4月から10月までの期間のみの就業可なんて条件があったら働き続けるけれどそんな都合いい雇用契約あるわけないし。

 

REにはそそられない。ひとりものが早期リタイアして何になる。ニートや無職を長年やった経験から鑑みるにどうせろくな過ごし方をしないに決まっている。下手したらメンタルをやられる。重要なのはFIだ。経済的に会社に依存していなければ精神的な余裕を持って働けるだろう。社会との接点、日々の課題としての仕事、会社負担の社会保険料、定期的な健康診断、定期収入としての給与と賞与、生涯年収増による年金支給額の増加、社会的な信用等々、所属することで得られるものを考えると金銭や待遇面で我慢できる会社なら凡人が安易に辞めるのは得策ではない。頑張って働き、金を稼ぎ、増やし、60歳または65歳で定年退職。凡人なら世間の大多数と同じ道を行くのが無難だろう。以前は65歳まで働こうと考えていたが、独身男性の寿命は67歳とかいう話もあるし、年々冬がつらくなってきてるし、60歳でもういいかなと。

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もともと俺は金にルーズだった。あればあるだけ使ってしまうたちだった。その俺が金の大事さを知ったのは一人暮らしで無職になったのがきっかけだった。この話、もう何度となくこのブログに書いている。2011年に東日本大震災が発生し、連日ニュースを見ているうちに頭がおかしくなった。で、発作的に会社を辞めた。辞めたとき銀行預金は100万円もなかったんじゃないか。無職になって、日々ただ生きているだけで金がかかり、収入がないから残高が減っていく一方の状況に不安と恐怖を覚えた。当時30歳を過ぎていたのに計画性ゼロじゃないか、と我ながら呆れる。金の重要性に気づくのが遅すぎる。どんだけ能天気に生きてきたんだ。いつか辞めるつもりだったのでそのときはのんびり温泉旅行でもしようと思っていたが、実際に辞めてみると残高が気になってそんな余裕はなかった。結局日がな一日部屋でネットで求人探し、ハロワ行って求人探し、応募しても書類選考で落ちまくり、だんだん情緒不安定になって、これじゃ働いていた方がよっぽど精神的に安定していた、と軽率な退職を後悔もした。俺の黒歴史だ。ブラック企業だったので辞めたこと自体は後から振り返れば正解だったのだが…。マケプレで本やDVDを売ってわずかながら生活費にあてた。郵便局が近所だったのはツイていたが、平日の日中に三つも四つも封筒抱えて窓口で発送依頼するのは恥ずかしかった。今ならメルカリなら匿名発送でポストに直接投函できるからいい時代になったものだ。

 

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結局金が尽き、実家に出戻った。2011年当時はリーマンショックと震災の影響で全然求人がなかった。ちょっとでも好条件な求人には何倍、何十倍もの応募者が殺到した。あらゆる業界で人手不足が騒がれる現在とは隔世の感がある。一年ほど無職生活を送ったのち今の会社に契約社員として入社した。とにかく就労して履歴書の空白期間を埋めることが第一だった。その後試験に合格して正社員登用された。採用されたのは俺の能力が高かったからだ…と言いたいところだが残念ながら違う。運がよかっただけだ。俺以外の同期はみな不合格で退職した。あのとき俺も不合格だったら今頃どうなっていただろう。結構厳しい状況に陥っていたかもしれない。この程度の人生でも氷河期世代の大学除籍者としてはラッキーな部類ではないだろうか。

 

その頃から金を増やすのを意識するようになった。100万円を貯めるのを目標に掲げて一年かけて達成した。実家に出戻ったときは全財産が7000円だったので100万円が貯まったときはすごい達成感がありめちゃくちゃ嬉しかった。年間100万円貯める生活はその後5年にわたって続けた。その時期にほったらかし投資の本を読み、実際に投資はしなかったけれども、生活防衛資金として500万円が貯まったら(生活費の2年分が必要と水瀬さんは書いていた)この本に倣って投資をしようと決意した。その間、エリスやマルキール橘玲の本を読んでだいぶ投資を「勉強」した。そして、手間暇かけず平均が取れるインデックスファンドの積み立て投資がベストな選択と判断した。

 

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2017年に楽天証券に口座を開設、インデックスファンドの積み立てをNISA口座で開始。ニッセイの「購入・換金手数料なし」シリーズの先進国、日本、新興国の株式を7:2:1の割合で積み立てていった。翌年からつみたてNISAがはじまったのでまだ年間120万円も投資するのが怖かった俺はそっちに変更した。だんだん慣れてきて特定口座も利用するようになった。emaxis slimシリーズのオールカントリーが出て、これならリバランスの手間が省ける、と買うファンドをこれに変更した。以降はずっとオルカン一本。金銭的に余裕が出てきたのでポイント目当てでSBI証券の口座も開設し三井住友カードでの積み立ても並行して始めた。2022年からは一般NISAに戻して120万円の枠を埋めるようになった。iDeCoが改正されたので加入して満額積み立てを開始した。そして今は新NISA1800万円の枠を最短の5年で埋めるのを目標にしている(さすがに資金が尽きSBI証券の積み立ては停止、ファンドは売却して新NISA成長投資枠でのオルカン購入資金にあてた。俺の入金力で年間360万円は不可能)。この5年はあくまで目標。無理はしない。

 

非課税口座でオルカンを積み立てるという最適解に達したのならあとは愚直にそれを継続するのみで、欲かいてS&P500もとか、コアサテライト運用で個別株もとか、余計なことは投資が趣味でもない人間がするべきじゃない。投資信託の平均保有年数は2年半とのデータがあるという。シンプルで退屈だからこそ継続は意外と難しいのかもしれない。俺は今のところ継続できている。途中何度も個別株の誘惑に駆られたけれども我慢してオルカンだけを買い増し続けた。

 

資産運用を頑張ってきたつもりはない。生活防衛資金を貯めていた5年間は30代の後半だったのでまだ体力があり、たびたび旅行に行ったし(沖縄や北海道にGWや夏季休暇になると行った)、家電を買ったり、いい酒買ったり、外食したり、欲を満たすために必要な金は使いながら少しずつ増やしていった。この時期──2013年頃──から生活防衛資金を貯めつつ投資も同時進行で行っていれば今頃はもっと資産が増やせていたと今になって思うが結果論でしかない。生活費2年分の生活防衛資金は今だと過剰なほど安全寄りに思えるが、リーマンショックと震災があって全然仕事が見つからなかった経験からそのくらいの額が必要だと思ったからそうしたのであって、だから当時の尺度で見れば選択は正しかった。今の俺の生活防衛資金は生活費の半年から一年分程度。総資産の8割近くがリスク資産*1。無リスク資産は銀行預金のみ*2。実家暮らしのひとりものだからリスクが取れる。

 

もちろん父親にはそれなりの額を毎月家賃として支払っている。それが両親の生活の助けになっているようでもある。不動産屋や地主に貢ぐよりいい金の使い方だろう。実家や会社の福利厚生に助けられながら(利用しながら?)12年間、それなりに資産を増やせた。今の生活に満足している。というか満足するしかない。ないものを数えたところで詮無いのだから。孫の顔を見せられなかった点で両親に申し訳なさはある。俺の甲斐性がないせいだ。無職を脱し、勤労者として納税の義務を果たしていることでよしとしてほしい。俺はその程度の人間だ。

 

今年から新NISAが始まった。現在、日経平均がバブル期の最高値を更新するなど相場が好調。インプ稼ぎもあるのかしらないがXを見ると浮かれているアカウントが多く、その楽天的ムードにふと2017年末の暗号資産界隈の浮かれっぷりを連想してしまう。年が明けるとともに相場は急落し一気に冷え込んだのだった。あの時売っておけば…と今でもたまに思い出しては後悔する。が、暗号資産は税金がエグすぎる。もう二度と手を出すことはないだろう。

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2020年の記事。読み返したら懐かしくなった(もはや他人事)。素人が欲かくとだめだね。絶対失敗する。

 

俺の資産運用の目的は老後資金確保。不確定な老後のために現在の楽しみを犠牲にして備えるのは愚かとの見方も可能だろうが、実家暮らしのひとりもののおっさんにそれほど金の使い道があるわけでもなく、だから現在の楽しみを犠牲にしているつもりも、何かを我慢しているつもりもない。俺の楽しみにはさほど金がかからない。散歩、昼寝、読書、映画鑑賞、写真撮影など。それに70歳過ぎても生活のために強いられて働かなくてはならない人生は大抵の人は避けたいだろう。そのための努力を今している。

 

今の俺の資産では経済的独立にはほど遠い。60歳まであと14年、その間にどれだけ増やせるか。金は使うためにある、のは重々承知している。しかし加齢とともに旅行、というかちょっとした遠出すら億劫になり、映画館で映画を観るのを趣味にしてきたが最近は見終わると疲労を覚えるようになって行くのに消極的になり、服装や食事にはこだわりがないし、家具家電は一通り揃っているし(20年以上前の空気清浄機をフィルター交換しながら今も使っている)、老眼が進んで読みづらくなったので趣味だった読書も買う数が減ってきて、あまり金をかけるところがない生活になりつつあるので結果的に余剰資金が生まれているのが現状。俺は大金を必要とする生活を送っていないとはすでに述べた。富裕層やら準富裕層やらになりたい願望もない。金銭的不安から(ある程度)自由に暮らしたいのだ。

 

さて、さんざん金のことを書いてきたが一番重要な資産は健康である、とここで俺なりの結論を出したい。三連休、金曜日の夕方に映画館へ行ったら妙に疲れて、梅雨みたいな天気による気圧の変化か、急激な寒暖差か、疲労か、帰宅するなり頭痛が出て寝込み、土曜日は一日飲まず食わずでベッドから動けず、日曜午後になってようやく起きられる程度まで回復した。体調不良で三連休を寝て潰した。やりたいこと色々あったのに。健康な体は本当に貴重な財産だと改めて思った。金がなくたって健康なら働いて稼ぐことが可能だが、不調なら稼げないどころか通院だ入院だ服薬だで金がかかる。中年過ぎたら自己投資すべきは健康分野一択だろう。とはいえ健康にいくら投資したってだめなときはだめなので、結局最後は運がすべてだ。

 

人生、最後は運だけだ。

 

 

※当記事は投資を勧めるものではありません。投資は自己判断でお願いします。

 

 

以下、関連記事。

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大江英樹さんも今年1月に71歳で亡くなってしまった。年金についての本も書いていたのにご本人はろくに受給していないだろう。人生、一寸先は闇だ。

 

 

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このときは65歳まで働く気でいた。今は60歳でもういいという気分。また変わるかも。

 

 

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*1:インデックスファンドのみ。うち9割がオルカン

*2:管理が面倒だから『ほったらかし投資術』で勧めている日本国債変動10年は持っていない