大江英樹『となりの億り人』を読んだ&自分が影響を受けたお金関連の本5冊

 

2019年の調査によると日本で1億円以上の金融資産を持っている世帯は133万世帯。これは一般世帯の2.4%に当たる。世帯主100人のうち2人から3人は「億り人」がいることになる。そんなにいるのか、と驚くとともに、直近の10年間でその数が6割も増えている事実に格差社会が進んでいるのでは、とも思った。本書では彼ら億り人の思考や生活について紹介する。『となりの億万長者』というアメリカのミリオネアに取材した本があるがそれの現代日本版といってもいい。

 

億り人に共通する点は二点。

・地位財より非地位財を重視している

・支出を最適化している

前者の地位財とは「他人との比較優位によってはじめて価値の生まれるもの」。非地位財とは「他人が何を持っているかどうかとは関係なく、自分にとって、それ自体に価値があり、喜びを感じるもの」。資産家はお金の使い道として後者を優先する傾向がある。自分にとっての優先順位を把握しており支出の管理が徹底している。彼らにとっては、

お金の心配をしないですむことのほうが、世間体を取り繕うよりもずっと大切

なのだ。見栄や、マウンティングや、なんとなくでお金を使わない。だから貯まる。増やせる。取材を受けたある億り人はこう語っている。

世の中にはたいして満足していないものに、お金を使っている人がいかに多いかということだと思うんです。さらに言うと、そういう無駄なお金を使わせる仕組みが世の中には一杯ありますね。

 

私、人間が無駄にお金を使ってしまう原因は『物欲』と『恐怖心』にあるんじゃないかと思うんですよ。世の中には物欲を刺激して買い物をさせようという広告が溢れていますよね。そこにつけ込んでお金を持っていない人にカードローンを利用させようとするし、誰もが持っている『健康や大切な人の死』に対する恐怖心をエサにして保険に入らせようとする。結果として無駄なお金を本当にいっぱい使ってしまうことになっている気がします。

 

 

肝心の億り人になる方法については…本書には4人の億り人に取材しているが、あまり参考にならなかった。皆レベルが高すぎる。投資信託を毎日9万円購入しているとか住んでいる世界が違いすぎて…。資産を増やすには時にリスクをとる必要があること、給与天引きで貯めるなり投資するなりしないとまとまった額を捻出するのは困難なこと、その二点くらい。著者はインデックス投資はリターンが小さいためそれだけで億り人になるには相当の入金力が必要で容易ではないとシビアに見ている。確かに年利5%で20年かけて1億円に到達するには毎月24万円以上積み立てる必要があるわけでこれはかなり厳しい、日本の平均的な年収の人では不可能か、できても日々かなり節約しなくては達成困難な数字だろう。

 

著者は昨今流行のFIREについて、大事なのは経済的自立であって早期退職ではない、と述べる。経済的自立を果たせば人生の選択肢を増やすことができる。しかし今の仕事が嫌だから億り人になって早期退職したい、というのなら仕事を好きになるよう努力するか転職するかして解決すべきで、それと資産運用とは別の話だと。論理的な意見だと思う。自分も含め本書を読む人は資産を増やすことに関心があるのだろうが、そもそも何のために大金が必要なのか、今一度考えるよう促す。人生は一度きり。時間は不可逆。資産を増やすことも大事だが日々を大切に生きることはもっと大事。金とは何かをするための道具に過ぎない。その道具に振り回されては主従の逆転である。

 

資産運用についての本書の結論。

自分の収入と支出の管理をきちんとやり、無駄な支出を抑えてその分を投資に回す。そして投資をしていく中で揺れ動きがちな自分の気持ちを制御して淡々と続けていく。それが継続できれば自然と資産は積み上がっていくものです。

 

結局のところ、資産形成に近道はなく、その人に合ったやり方で支出を適正化し、地道に貯蓄や投資を続けていくことでいつのまにか億り人になっていたということなのです。最初から1億円を目指していたというのではなく、気が付けば1億円になっていた。そしてほとんどの人は、1億円はゴールではなく単なる通過点に過ぎず、その後も着実に資産は増えています。それは「自分にとって合理的なポリシーを持っている」「そしてそれをずっと続けている」からなのです。これは誰でも理解できるし、やれることではありますが、誰もがなかなかできないことでもあります。

 

至極真っ当で地に足のついた金銭管理の本。とくに目新しさがなかったのは自分の金銭に対する意識も至極真っ当だからだろう。FXも仮想通貨も自分には無理。勝てるはずがない。だから銀行預金の延長線上で(リスクを承知で)インデックスファンドをひたすら積み立てる。優先順位に則って支出を適正化する。仕事を(できる範囲で)頑張る。これを続けるしかない。もちろん今10億円あればさっさと労働から解放されたいが、それは夢想だから。現実は現実としてやっていくしかない。

 

 

以下、余談。

リーマンショック東日本大震災の不況下で1年の無職期間を経て今の会社に就職したとき、自分の資産は7000円だった。金がない、という恐怖。それまであればあるだけ使ってしまっていた金銭感覚は無職になったことで大きく変わった。その後、運よく就職できたとき、とにかくまずは100万円貯めようと決意した。当時、すでに30代半ばだった。家計簿を付けて支出を見直し、なんとなくで買い物するのをやめた。結果、一年後に目標達成できた。100万円という額に深い理由はない。キリがいい数字で、大抵の突発的なトラブルが起きても対応可能な額だったから100万円としただけ。貯めるのにある程度時間がかかる額だからその間に支出の見直しをするようになる。試行錯誤の末に支出を適正化した生活パターンを構築することは現金100万円以上の価値がある、と自分は思う。実際、この10年間ほぼ同じ生活パターンで暮らし続け資産を少しずつ増やせているので。思うに一度100万円を貯められた人はそこからさらに200万、300万と貯められるだろうし、必要があって100万円を使ってしまったとしてももう一度貯めることができる。そしてそのどちらも、0から100万円を貯めたときよりずっと楽にできるようになっている。だから自分はお金を増やしたいと思っている人には、まず100万円貯めるのを目指してはどうでしょう、と言うことにしている。言ったことはないが。

 

 

余談ついでに自分がいいと思うお金関連の本を5冊挙げる。このジャンルの本はこれらを読んでおけば十分と思う。お金に関しては似たようなことを書いている本が多すぎる。

アメリカのミリオネアについてのレポート。社会制度や税制の面で日本とは違っているが資産家の質素堅実なメンタリティはアメリカも日本もよく似ている。

 

給与の4分の1を天引き貯金して残りで生活したとか、投資の話とか。不動産投資の話なんかは追い風が吹いていた時代背景もあり現代で真似するのは無理があるだろうがメンタリティは通用する。資産が増えても生活水準を上げてはいけない。

 

自分はこの本を読んで投資を始めた。『臆病者のための株入門』『ほったらかし投資術』『お金は寝かせて増やしなさい』などでもいいと思う。要はインデックスファンドの長期投資、そして一度設定したら投資はほったらかして人生を楽しめ、と。

 

ウォール街のランダムウォーカー』と並ぶインデックス投資家のバイブル。『ランダムウォーカー』は分厚いので読めていないがこちらは読んだ(原著第6版)。どちらか片方読んでおけば十分では。インデックス投資家がインデックス投資を推奨する類書を読みまくっても発見は少なく持論を補強することにしかならない。だったらバイブルを読んで、あとは再読でいい。

 

上に挙げてきた4冊とは異質。著者は徹底的に金を遣って、大金を費やさねばできない体験をしている。これもまたひとつの金との付き合い方。成金趣味ではなく教養をバックにした趣味のよさがあるのが好ましい。節約だの資産形成だのの禁欲や効率性追求に疲れたときの清涼剤として。