西伊豆へ行ってきた。
目的はつげ義春「長八の宿」のモデルとなった松崎町の山光荘への宿泊。
去年、熱海へは行ったけれど伊豆へ行くのは久しぶり。伊豆の、観光地としてのスペックの高さを実感した一泊二日だった。
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埼玉から高速利用で3時間ほどの距離。
天候に恵まれ、道中も空いており(多少渋滞があった程度)、スムーズに伊豆市に到着した。月ヶ瀬ICを降りたのがちょうど昼頃だったので降りてすぐの道の駅伊豆月ヶ瀬で昼食にした。フードテラスは混んでいて券売機に並んだ。
あまご山丼を注文。刺身とタタキと炙りの三種盛り。あまごはヤマメの近縁種の川魚。すごい淡白であっさりしている。醤油をかけて食べたあと、おすすめの食べ方に従って出汁をかけたらこの出汁がとても旨くて満足した。こんな寄った写真じゃなくてもっと引きで撮ったのがあったんだけど見たら全部ピンぼけ。これが唯一のまともな写真。興奮しすぎたか。
道の駅は狩野川のすぐそばにある。長い竿で釣っている人たちが何人かいた。
道の駅を出たら伊豆半島の西側を海沿いに南下するルート。道中、海が見えると気分が上がる。当初は寄るつもりのなかった恋人岬に寄り、海が見渡せる展望台まで散歩した。駐車場から展望台まで700メートルらしいがもっと歩いた感じがする。アップダウンが多いせいか?
時間的にド逆光だった。そして残念ながら富士山は見えず。3枚目の写真の中央、わずかに山頂部分だけ黒い影みたくなって写っている。これがやっと。それもすぐ雲に隠れてしまった。
この日は気温30度超えで暑く、日差しも強かった。お店でアイスを買って一服したのち出発。次に目指したのは室岩洞。
昔の石切場。伊豆石の産地。こんなマニアックな観光スポット、俺以外誰も来るめえ(知るめえ)と思っていたら駐車場に4台くらい車が停まっていて驚いた。俺は『ぱらのま』1巻で知ったのだが、有名な場所だったのか?
無料。監視者などはおらず、洞窟の入り口には中に入るのは自己責任(要約)と書いてあるので入る際は滑ったり頭をぶつけたり蝙蝠に襲われたりしないよう気をつけてください。自分はぶつけました。二日経った今も押すと痛い。また、地下水の溜まり場は柵などがないので滑って落ちたら終わります、たぶん。
山光荘に到着。つげさんの「長八の宿」では海風荘になっていた。なまこ壁は迫力がある。この周辺一帯はなまこ壁通りといって似た作りの家が並んでいて壮観。
つげさんのエッセイに登場する女将さんにお会いできるかと期待していたが、諸事情によりお会いできず。代わりに対応してくださった方は娘さんだったのだろうか? そう訊くのも失礼な気がして有耶無耶にしてしまった。この日の宿泊客は自分たちだけ。なので男湯、女湯、それぞれ自由に使ってくれていいと説明される。館内の撮影許可をいただく。
風呂はかけ流しの天然温泉。男湯は漫画に出てきたのと同じ岩風呂で、漫画よりコンパクト。汗を流してさっぱりする。今回、じゃらんで予約した。じゃらんの施設案内にはドライヤー、髭剃り、温水洗浄トイレの項目がなしになっていたけれど、実際にはどれもあった。
夕食までの間、散歩に出る。なまこ壁通りをぶらぶら歩いて松崎海岸の方へ。
日の入りを眺めてから予約していたお店へ移動する。久遠。寿司が食いたかった。
サラダと上鮨二人前を注文。何ヶ月かぶりにアルコールを摂取。ビールと日本酒。ほろ酔いで気分がよくなる。酔っていたせいか、寿司の写真もピンぼけばかり。しかし旅先で酒を飲み、酔ってふわふわした足取りで知らない町を歩いて宿へ帰るというのはなかなか楽しいものだ。現実感が希薄で、まるで夢の中を歩いているような心地になる。外は風が涼しく夏の蒸し暑さはない。松崎町の夜はかなり暗い。そして静か。20時前なのに23時くらいのように錯覚した。
酔いを覚ましたのち風呂に入る。部屋にテレビはあったけれど見ないと決めていた。なるべくスマホも見ず、つげさんの漫画やエッセイを読んで過ごす。23時頃、眠くなったので就寝。外は風が強かった。半睡半覚の頭で、なるほど、だからなまこ壁が要るのか、と合点がいった。深夜、虫の鳴き声で目が覚める。すぐに二度寝して6時過ぎに起床。物音に過敏なので普段は耳栓して寝ているが、町も宿も静寂とあって耳栓なしで熟睡できた。6時半頃、チャイムが鳴った。あれは宿の中で鳴ったのか、町内放送だったのか。港があるから朝が早いのは不思議じゃない。同行者も起きたので朝風呂へ。女湯へ入った。女湯へ入るなんて人生で初めてである。そして今後またあるかどうかわからない。貴重な体験ができた。
入浴後、朝の散歩へ出る。港を通って海岸へ。
山光荘はわけあって素泊まりのため松崎港そばの民芸茶房で朝食。干物定食。あじ、いわし、鯛。あじが旨かった。
チェックアウトの際、「長八の宿」にも出てくる当時の山光荘のパンフレットのレプリカをいただく。これ、現行のとは少しバージョンが異なる。額装して飾ろう。去年、楽園編集部からいただいたpanpanyaさんのイラスト入り年賀状同様、家宝にする。
楽園より年賀状をいただく。我が家のpanpanya単行本は1ヶ月の間に1冊から4冊に増えた。装丁が素敵なので紙の本でゆっくり集めていきたい。カステラ風蒸しケーキの話が好き。 pic.twitter.com/nqoI4XRG0M
— elein (@eleintheforest) 2024年1月1日
二日目、まずは南下して雲見くじら館へ。ここでセミクジラの骨格標本を見学。でかい。
間近で見られる。ホルマリン漬けされた眼球や生殖器も展示されている。
雲見海岸。条件が合えば岩の間に富士山が見えるがこの日も昨日同様見ることはできず。
松崎町へ戻り、伊豆の長八美術館と記念館をハシゴする。まずは美術館から。
入江長八は若くして江戸に出て狩野派の画家に師事して日本画の技法を習得したのち、鏝を使って漆喰で描く鏝絵の左官・画家として数多くの作品を残した。松崎町だけでなく都内や三島市にも長八の作品は残っている。ルーペで見ると絵が立体的に浮き上がっているのがよくわかる。女性の髪の表現はとくに面白く感じた。この美術館は空いていて、椅子に座ってゆったり見られるのでよかった。
長八記念館は浄感寺というお寺。少年時代の長八はここで育ち学んだ。分骨されたお墓もある。ここにも作品が残されている。天井絵の龍の表情はユーモラス。天女の鏝絵はかなり保存状態がいいもの。
山光荘へ泊まり、寿司を食い、長八の作品も見て、旅の目的はもう果たしたようなもの。半島を北上して帰路に就きながら行きたい場所へ寄っていく。まずは堂ヶ島。
『ぱらのま』のお姉さんは西伊豆は一人で歩くのが似合う、東伊豆ではこうはいかない、と言うが、堂ヶ島のあたりは若いカップルが大勢いた。お姉さんの台詞から西伊豆は鄙びた趣ある観光地と想像していたので、その陽性っぷりに意外の感を強くした。レストランは何組も待ちの行列を作ってるし。
この日の干潮時間は11時過ぎとはあらかじめ調べていた。が、潮が引いても30cm以上とのことだったのでトンボロは無理だろうと思い込んでいた。遠くから写真だけ撮ればいいやと。しかし現地に着くと干潮から1時間近く経ってるのにまだ道が見えている。トンボロできるじゃん、と早足で降りて行った。
ただ、写真の通り大小様々な石がゴロゴロしていてかなり歩きにくい。転ばないよう気をつけないといけない。また、俺が海岸に着いてトンボロを歩き始めた頃には潮が満ちはじめていた。なので靴を濡らさないあたりまで行って、戻ってきた。もともと島へ渡りたいとまでは思っていなかった。トンボロが体験できればいい、くらいしか。暑いし、日差しも強く、さほど歩いていなくても体力が奪われる。
俺、ゆるキャン△知らないけど、女子高生が素足でこんな平然と(一人は笑ってる)歩けるような道では絶対ない…と思う。ましてや(服装から見て)冬なんて。
またしてもド逆光。しかしこれ、取り残されたらどうするんだろう。
堂ヶ島周辺は観光地として栄えている。時間的にちょうどよかったのもありここで昼飯にしたかったが、前述のとおり食事処は混んでいたため諦める。最後の目的地、土肥金山へ向かう。
着くなり、レストランへ。
太刀魚の天丼を注文。昨日からこっち、海鮮丼、寿司、干物、天ぷらと様々な調理方法で魚を食っている。いいことだ。
土肥金山は佐渡金山に次ぐ金の生産量を誇った日本第二の金山。昭和40年に閉山。その後観光地化。坑道内は19度と涼しい。展示を見ているうちに(金山の話じゃないけど)『追われゆく坑夫たち』や『ジェルミナール』を思い出して重い気分になった。作業中の事故や犠牲者は多かったと思うがそういった負の歴史については触れられていない。ここはダークツーリズムの観光地ではないな。漂白されている。
坑道より資料館が、たくさんの鉱石があって面白かった。ここには250kgの金塊が展示されていて触ることもできたのだが、制作した2005年当時は時価4億円だった金塊が、最近の金の価格高騰を受け時価が44億円にもなってしまい、諸コストがかかりすぎるとの理由で7月末で展示をやめてしまったという。残念。触ってみたかった。
巨大な碧玉とアメジストが触れるようになっていたので金塊の代わりに触った。アメジストって外は普通の石なのに中はグラデーションの紫色で、まるで柘榴のよう。小さいのがお土産として売っていたので買った。1200円。部屋に飾る。
以上で今回の伊豆観光は終わり。金山を出たのが15時半頃。帰りは東名が渋滞しており、また途中で事故もあり、行きは3時間だったのに帰りは4時間半かかった。疲れた。しかし久々に行ってみて、伊豆は素晴らしいところだとの思いを新たにした。飯は旨いし、海は綺麗だし、見どころ多いし、適度なローカル感が郷愁を喚起する。また行きたい。
山光荘に泊まれたのはよかった。行きたい場所がいつまでもあるとは限らない。去年のクヌルプといい、行きたい場所へは行けるうちに行っておいた方がいい。
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疲れたので早めに寝たら、早朝、寒くて目が覚めた。寝巻きはTシャツと短パン。冷房を点けていなくても、この格好では薄着すぎて夜だと寒いのだ。マジか、と思いつつ、もう9月も下旬。暦の上では妥当といえば妥当。今夜からは短パンではなく長ズボンで寝る。