エグくてグロくてやばすぎる 映画『サブスタンス』を見た

 

ネタバレあり感想。

この映画は展開がすごいので情報なしで見た方が楽しいと思います。俺の予想の斜め上をいくとんでもない映画だった。

 

予告を見た限りだと、50歳になって*1仕事がなくなった落ち目の元スター女優が禁断の若返り術に手を出してかつての栄光を取り戻す、しかし若返りには代償があって…みたいな話とばかり思っていた。若返りじゃなく美容整形だが芸能人を主人公にしてルッキズムを描いた名作に岡崎京子の『ヘルタースケルター』がある。あんな感じの話だろうとばかり予想していた。そのわりにデミ・ムーアとマーガレット・クアリーが似ていないのを妙に思っていたのだが。

 

予想と違い単純な若返りじゃなかった。落ちぶれた女優が禁断の薬品を接種すると若く美しい分身が、まるで蝶が蛹から羽化するように背中を真っ二つに裂いて誕生する。二人は本体と分身。二つで一つ、しかし人格は別。分身の若さと美貌は本体の生命力に依存している。7日ごとに入れ替わらなくてはならないルールがあり、もし破るとその分本体に皺寄せがいく。老化が進んでしまうのだ。

 

だが若い方が人生が楽しいから、そして分身はその美貌でスターダムをのし上がっていくから7日ルールを守らなくなる。本体に犠牲を強いればいいと考える。昔話的なお約束のルール破り*2のあとで本体に戻ってみれば婆さんになってしまっている。腰が曲がり手足はヨボヨボ、顔はシワとシミだらけ、頭髪はまばら*3

 

この婆さんが、50歳だったころの*4自分の写真を愛おしそうに眺める。若返りなど自然の摂理に背く愚行だった、ありのままの自分を受け入れて歳をとっていけばよかった、とでも後悔してまとめるのかな、と思ったらとんでもない。そんな、俺が思いつくような退屈で常識的で教訓的な話にはならない。突き抜ける。モンスターの誕生だ。

 

ジャバザハットと寄生獣をミックスしたような、「シテ…コロシテ…」なモンスター。そいつがステージに上がるシーンは絵面があまりにもひどすぎて笑うしかなかった。顔にかつての自分の写真を貼ったり、側頭部らへんに付いた口から嗚咽しながら乳房を嘔吐するシーンは、監督よくこんな発想できるな? 頭イカれてんのか?(褒め言葉)と感嘆した。俺が幼い子供だったらこの映画の終盤は間違いなく一生物のトラウマになっただろう。ひどすぎて笑ったと書いたけれども、そして自覚はないけれども、もしかしたらそのときの俺の笑いは引き攣っていたかもしれない。

 

はちゃめちゃな映画なのにしっかりオチをつけて綺麗に(汚い?)終わる。ルッキズムやエイジズムを諷刺的に描いてるんだけど、絵の力が強すぎてテーマなんてどうでもよくなってしまう。圧倒されてしまう。これほどの映画を事前情報ほぼなし*5で見られたのは幸運だった。俺の人生で強く記憶に残る映画の一つになった。やべー映画体験としては3年前のジュリア・デュクルノー『チタン』以来。デミ・ムーアがこの映画でアカデミー主演女優賞取れたら最高だったのになあ。

 

 

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美と欲望と資本主義を描いた名作。

 

 

*1:実際のデミ・ムーアは62歳

*2:浦島太郎が決して開けるなと言われた玉手箱を開けてしまうように

*3:それなのに歯はばっちり揃ってるのが可笑しかった

*4:見た目が婆さんなだけで今も50歳なんだが

*5:予告動画と町山さんの「アメリカ流れ者」を聴いたくらい