5/2から金沢21世紀美術館で開催のこうの史代展「鳥がとび、 ウサギもはねて、 花ゆれて、 走ってこけて、 長い道のり」を見てきた。
金沢へは北陸新幹線で大宮から2時間程度。日帰りも不可能ではないがせっかく高い運賃払って行くんだから1泊してついでに観光もすることにした。わずかなりとも復興の応援になればいいとの思いもあった。
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金沢は前の会社に勤めていた頃(15年くらい前だ)、一度行ったことがある。当時よく読んでいた吉田健一の小説「金沢」の聖地巡礼だった。あの小説は一種の幻想小説だから舞台が必ずしも現実の金沢ってわけじゃないんだけど。
プランはこちらのnoteを参考にしつつChatGPTに立ててもらい、それをアレンジした。
5/1、大宮からかがやきに乗車。単独行。一人で新幹線に乗るのはいつ以来か思い出せないくらいくらい久しぶりだった。昔、2ちゃんねるの一人旅スレ(だったか?)で読んだ言葉を思い出す。「一人旅ができない奴は人生を見つめ直せ 一人旅しかできない奴も人生を見つめ直せ」。
2時間程度ならじっと座っていてもさほどきつくない。すぐ隣に他人がいるってのは不快だが、混んでる映画館で映画を見ているようなもんといえばそんなもんだ。
着くとピーカン。最高気温26℃の予報。昼時を少し過ぎたくらいだったのでとりあえず腹ごしらえしたく、まいもん寿司へ行ったら待ち発生中。魚がし食堂も12人待ち。一人飯で並ぶのは俺的にナシなので、道中でどこかに寄ることにして兼六園へ向けて歩き出す。ナビによると距離約2キロ、所要時間30分弱。バスで行く方が楽なのだろうが頻繁に来ないので待っている時間がもったいない。
通りかかった近江町市場の近江町食堂に入ってみたらすんなり通された。海鮮丼(ご飯少なめ)を注文、税込2480円。近江町市場は観光客向けで割高だ、みたいな話を聞いたことがあったのでちょっと警戒していたが、少なくともこのお店についてはそんなことはないと思った。こんな霜降り肉みたいな大トロ(でいいのか?)、初めて食べた。口の中でとろける。エビ、イクラ、ウニ、カニ、ネギトロ、穴子、イカ、マグロ、サーモン、ブリ? 玉子、あと何か、もしかしたらノドグロなのかな、わからんけど10種類くらいネタが乗ってこの価格なら妥当じゃないですか? 今時はうな重だって4000円とかしますからね。旨かったし俺としては大満足。
しばらく歩いたら金沢城公園に到着。かつても歩いた記憶が蘇ってきた。前回は城に寄った気がする。今回はスルー。城に興味がない。修学旅行らしい中学生か高校生の集団がいて賑やかだった。暑くて着ていたパーカーを脱ぎ、Tシャツになる。
玉泉院丸庭園。城には興味ないが庭にはある。中には入れない。後ろの石垣が存在感ある。高松の栗林公園を思い出した。
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石浦神社に寄ったのち兼六園へ。足が結構疲れてきていた。ここまでまったく水分補給しなかったのが後々効いてくる。
どこを見ても大概構図的に決まっていて気持ちいい庭。でも玉泉院丸庭園といい石浦神社といい兼六園といい、今の時期より紅葉の時期の方が面白そうに思った。
近江町市場から兼六園まで、直射日光を避ける場所がなくもろに食らう。日差しと、水分を取らずに1時間以上歩き続けたせいで疲れてきた。ホテルが金沢駅そばなので駅までバスで戻りたかったが乗り場がどこかわからず、面倒になって駅までまた歩いて戻る。
途中、尾山神社へお参り。近くの自販機でドリンクを買い水分補給。
ドーミーイン金沢にチェックイン。部屋に入り荷物を置くなり風呂へ向かう。ここの大浴場は天然温泉。たしかにぬるぬるしていた。アイスの無料サービスが嬉しい。
風呂から出たら夕飯時だった。フォーラスのもりもり寿司、どんなもんかと見に行ったら20組待ち。引き返す。何が食べたいのか、自分でもよくわからない。食欲があるのかも微妙。なのにせっかく旅行に来たからと腹ではなく頭で何か食べようとする。今考えるとマクドナルドでも吉野家でも一風堂でもよかったのに、たいして飲みたくもないのに駅前の飲み屋に入ってしまった。なぜその選択をした、俺。
レモンサワーとサラダとおでんを注文。レモンサワーを飲み、サラダをつまんでいたら途端に気分が悪くなってくる。お店は悪くない。脱水っぽかったのに酒なんか飲んだせいだ。おでんが運ばれてきてから、おでんがあまり好きでないのを思い出す。おでんというか練り物全般が好きじゃない。メニューで金沢おでんと見てつい頼んでしまった。あ、でもバイ貝はよかった。
完食。レモンサワー一杯飲むのがやっとだったので、店員におかわりを聞かれる前にそそくさと退店。ホテルに戻るなりベッドにダイブ。頭が痛くなってくる。寝る。1時間ほど寝て、起きると本格的な頭痛。メインはこうの史代展なのにそのついでの観光で死んでどうすんのよ。ド阿呆。水をガブガブ飲んで寝て、夜また大浴場へ。スマホでバスの乗り方を調べる。バスって地方それぞれで乗り方が違ったり交通系ICが使えなかったりするし、電車と違い線路がないから路線図がわかりづらく、間違えて乗ってしまうとリカバリーも難しい。俺は旅慣れてないから結局めんどくさくなって歩いてしまう。金が惜しくなければタクシーを使うのが一番よさそう。この日の歩数19000歩。
8時間くらい寝たけど朝起きても頭痛は消えず。そのくせ朝から海鮮丼作って食ってるし。ドーミーインの朝食バイキングのサーモンイクラ取り放題、楽しみにしてたんだもん、そりゃ取るさ。てかまたおでん取ってんじゃねーよ。お麩好きじゃねーだろ。でもちゃんと完食しました。スルメイカが旨かった。
チェックアウトの10時ギリギリまで粘って部屋で休んでから出発。外に出ると小雨。今日は一日雨の予報。気温も6℃くらい下がってパーカー着ていてちょうどいい。バスの時刻表を見ると21世紀美術館行きが来るのが20分後。待ってる時間もったいねえ、と歩き出す。途中から雨が強くなり折りたたみ傘を開く。歩いているうちに頭痛が弱まってくる。
21世紀美術館でこうの史代展鑑賞。原画500枚以上の展示。写真は一部のみ撮影可、ただしページ丸ごとはやめてくれとの旨が表示されていた。
ぜんぶ見るのに3時間近くかかった。「夕凪の街」は全ページ展示されてるので原画で通して読んだ。最期のモノローグの破壊力すごい。大量の原画のほか、デビュー当時に描いた杉並区の会報誌のイラスト(抽選券のイラストも書いている)、中学生時代の漫画、同人誌関連、自費出版誌、制作風景の写真やビデオなど資料の展示が印象的だった。製作者のバックグラウンドや創作の舞台裏を見るのが好きなのだ。客はそこそこ入っていたけれど空間の余裕は十分あってストレスなく見て回ることができた。はるばる金沢まで来た甲斐があったというもの。去年世田谷で開かれた伊藤潤二展は展示もグッズも充実ながら、人多すぎてゆっくり見られないわ、グッズ買うのに1時間レジに並ぶわで散々だった。
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こうの史代展も都内でやったらものすごい混雑になるだろう。
こうの漫画、四作しか読んだことがないのでもっと読もうと思った。
お土産として購入。複製原画初めて買った。せっかく貰った包装紙は折れてしまった*1。公式サイトにはまだグッズの詳細が載っていない。自分が覚えている範囲では、図録、復刻自費出版誌、ポストカード、複製原画、アクキー、Tシャツ、エコバッグ、巾着、コミックス。まだほかにも色々あった気がする。
お昼は過ぎていたが腹は減っていなかったので館内のカフェでケーキとドリンクを注文して一服。新幹線は18:30過ぎの出発なのでまだ時間に余裕がある。雨なので出歩かず屋内の施設を観光して早めに金沢駅へ戻ることにする。まずは21世紀美術館の展示。いつの間にか頭痛は消えていた。
現代美術の、鑑賞者を挑発するような試すようなアバンギャルドさは好きなんだけど、今回はあまりピンとこなかった。ウサギの着ぐるみのが面白かったくらい。中に人が入っていて、横になってるだけだけどそれがパフォーマンスでギャラ貰ってるから邪魔しないでね、という体の諷刺的なもの。わかりやすいし、ユーモアあるし、見た目も面白くていいと思った。去年、東京都現代美術館で見た「日本現代美術私観」がすご過ぎて、あれを超えるインパクトを求めるとハードルが高くなってしまう。
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今回、こうの史代展ともう一つ、行きたい場所があった。鈴木大拙館。金沢は兼六園の周辺に美術館や神社が固まっていて観光するのに効率がいい。鈴木大拙館も21世紀美術館から近い。
禅的空間の静寂の中で日常の喧騒や俗情から離れ、瞑想と思索に耽ろうじゃないの。水に落ちる雨音と波紋はそれにうってつけじゃないの。…とベンチに座って大人しくしていたんだけど、アジア系観光客グループと、それに負けじとする日本のおばちゃん二人組の話声のボリュームが大きくて、さらに建屋内の構造が声を反響・増幅させるっぽくて、止まない騒音にイラついてしまった。フードコートじゃねえんだからさあ…もうちょっと空気読もうよ…。まったく禅的どころじゃなくなってしまったので退出。もう少しいたかったが仕方ない。ここ、広くはないけどお洒落な空間で居心地がよかった。鈴木大拙の本、一冊も読んだことがないのでいつか読もう。金沢出身だそう。
体調も戻ってきたので歩いて金沢駅まで戻る。途中、風が強まる。ヤフー天気アプリを見ると風速6メートルの表示。折りたたみ傘が風に持っていかれてしなり、折れそうになる。雨も強まってきた。このときは知らなかったのだが、同じ頃埼玉県はもっとひどい雨で警報が出ていた。
駅に着き、雨に濡れる心配はなくなった。マクドナルドでポテトをつまみながらコーヒーでもしばこうと向かうも満席でレジ行列。新幹線の時間までまだ2時間。昼がケーキだけだったので早めの夕食にする。海鮮系はもう十分なのでスルー。フォーラス6階のレストランフロアをうろついた末、牛タン東山に入った。
牛タン定食のお店は利久が好きだったんだけど最近は量のわりに高く感じて行ってない。このお店は利久よりいいように思った。値段は同じくらいで、牛タンは固過ぎなくて食べやすく、味もよく、テールスープも量がある。俺、タンが好きで、昨日食べたバイ貝も好印象で、キクラゲも好きだし、コリコリした食感が好みなのかもしれない。
今回思ったんだけど、旅行に行って必ずしもその土地の名産を食べなくてもいいんじゃないかな。食いたいものを食うのが一番。食が細くなって、酒にも弱くなって、疲れやすいし、食うことを楽しみに旅行するって歳じゃなくなってきた感がある。代わりに何を楽しみに旅行したらいいのかわからんが…。近江町食堂の海鮮丼も、東山の牛タン定食も、ご飯少なめにしてもらってるからね。ほんと、量食えなくなってしまった。悲しいなあ。
お土産買って、本屋ぶらついて、駅前のベンチに座ってスマホいじってたら新幹線の時間になったので乗車。さらば金沢。車内でこうの史代のコミックスを読み、読み終えて目を閉じてうとうとしていたら大宮駅に到着した。ちょうど大雨警報は解除されたとの通知が届いて安堵したが電車は遅延していた。
*1:折ってコミックスのカバーにした