高田馬場へは何回か行ったことがある。行くときの用事は決まっていて早稲田松竹で映画を見るか、黒い本も置いている変わり種のブックオフで何か買うか。そのどちらかの目的でしか行くことがないのでそれらまでの道しか知らないし、目的を終えると寄り道せず帰るので土地鑑もない。今はそうでもないけど一時期は古書店巡りをよくやったので古書店が集まっている早稲田周辺へ行ったことがあってもおかしくないのに一度もない。都内の古書店へ行くときは大抵神保町か中央線沿線。
なのでほとんど初めての土地。今回高田馬場へ行く気になったのは先月亡くなった大山のぶ代さんが所有していたアルカノイドの筐体がナツゲーミカドというゲーセンにあると知ったから。少年時代にドラえもんから情操教育を受けたと言っていい人間、プレイすることで哀悼の意を表したくなった。そしてせっかくわざわざ行くのだからついでに周辺をぶらつくことにした。夏が終わり過ごしやすい気候になったからか、最近外出意欲が増している。もう少し寒くなったら滅入って引きこもりがちになるだろうけど。
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今にも雨が降り出しそうな曇天の土曜日11時過ぎ、同行者とともに高田馬場駅に降り立つ。ナツゲーミカドへ行く前に腹ごしらえをするべく、まずはロシア料理店チャイカに向かった。
駅を出てすぐ横断歩道を渡った先にあるドンキが入ったビルの2階。開店前に着いたが店の前にはすでに行列ができていた。自分たちは5組目くらい、初回の案内で店内へ通される。自分はビーフストロガノフ・セットと単品でピロシキを、同行者はシュクメルリ・セットを注文した。
ビーフが口の中でとろける。めちゃくちゃ旨い。ロシア料理を食べるのはたしかこれが二度目で、一度目は新宿だったと思うが、そのときは旨いと思った記憶がないのでここのお店がいいお店なのだろう。セットにはビーツのポテトサラダ、ボルシチ、ロシア紅茶も付いてくる。ピロシキは半分こ(お店の方が気を利かせてカットするか聞いてくれた)。俺は味を語れる舌も語彙もないのであれだが、また来たいと思った。ヤズィク(牛タンのシチュー)とつぼ焼きが気になる。
言葉が通じないし治安も日本よりよくなさそうだしで海外旅行に興味はあまりないんだけどドストエフスキーの国ロシアにだけは死ぬまでに行ってみたい気持ちがある。でもプーチンが生きていて戦争が続いているあいだはなあ…。
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腹が膨れたので当初の目的であるアルカノイドを求めてナツゲーミカドへ。ここはレトロゲーム専門のゲーセンの模様。ゲーセンに足を踏み入れるなんて何十年ぶりだろう。30年とかそれくらいかもしれない。地下と2階があり、アルカノイドは2階にあった。
大山さんの夫、砂川啓介さんの著書『娘になった妻、のぶ代へ』によるとこの筐体は河口湖の別荘にあったもので、大山さんが認知症を発症したのをきっかけに別荘を売却する際に手放したもののよう。100円を投入してゲームスタート…するも1分かそこらでゲームオーバー。難しい。球の速度が思ったより早いのと、レバーじゃなくツマミで自機を動かす仕様なのでプレイしづらい。まあそんなん言い訳にならないくらいの即死っぷりだったが。再度続けてプレイしてみたがやっぱりすぐゲームオーバー。あれ、俺ってこんなゲーム下手だったっけ…と横にあったR-TYPEをやってみたら(こっちはりんごアメみたいな形の普通の操作レバー)こっちはもう少し長かったものの5分かそこらでゲームオーバー。うーん、やっぱゲーム下手だな。俺はゲームに疎いので置いてある筐体を見てもわからないものがほとんどだったがゼビウスはわかった。どうせすぐ死ぬからやらなかったが。土曜日のお昼だというのに自分たち以外客がいないのは意外だった。
30分くらいいるつもりだったがまさかの10分程度で退出。アルカノイドがプレイできたのでよしとする。これも一つの聖地巡礼…というか聖遺物崇拝? 大山のぶ代さん、どうか安らかに。
目的は果たしたがせっかく来たので散策する。目白方面へと向かい切手の博物館へ。
入館料200円。現在、日本の高速鉄道60年記念切手展が開催中。昭和生まれの何年かに1度しか新幹線に乗らない人間にとって新幹線と言ったら0系か100系の印象が強い。どちらももう10年以上前に引退している。各新幹線の現在のモデルを眺めながら時代の流れとそれに取り残されている自分を自覚する。なんだか歴代の仮面ライダーやウルトラマンを見ているような気分に。前者はブラック、後者はレオまでしかわからん…今はこういうデザインなのか…みたいな。来月、久々に新幹線に乗って関西へ行く。
1階では国内、海外の切手を販売している。お土産に、ちょうどロシア料理を食べたし…ということで使用済みのソ連時代の切手を購入。小学校低学年の頃、1年くらい切手収集していた時期があった。当時はインターネットなんてない環境だったから何かの会に入会してそこから送ってくるカタログから買っていたんだったか…よく覚えていない。親宛に届いた封筒に珍しい切手が貼られていたら水に浸けてピンセットで剥がしたりもした。それらの切手は今はないのでとっくに捨てたか捨てられてしまったのだろう。収集の趣味はその後ビックリマンシール、ラーメンばあ(ガムラツイスト)シールへと変わっていき、積読が本の収集だとするなら今につながっているのかもしれない。
かつては趣味の王様とも言われた切手収集も時代の変化とともに衰退しているみたい。切手を使う機会自体、俺が子供だった頃からの40年ほどで大きく減った。若いコレクターなんてほぼ絶滅状態だろう。
収集趣味についての過去記事。
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200円で証明写真を撮る要領で切手のようなデザインのポストカードが作れるブースがあるのでそれもやった。ついこないだも何かで顔写真を撮影したな…と思ったら運転免許証の更新だった。
目白通りへ出て早稲田方面へ。このあたりは土曜日の新宿区だと言うのに人が少なくて心地いい。都電荒川線を初めて見る。どうせ早稲田まで行くし、せっかくなので面影橋から一駅だが乗ってみた。情緒を感じる間もなく早稲田に到着。
目的地はここ、古書ソオダ水。もう歳なので本というか物を増やさないようにしてるんだけど早稲田まで来たのだから一軒くらい古書店に入りたかった。店内は棚のあいだに一人しか居られないスペース。先客がいたが空いていたのでよかった。ちょっと値が張るけど珍しい本を何冊か見つけ、とはいえ普段読むジャンルではないし…と取り出してパラパラ捲ってから棚に戻した。あと10歳若ければ買っていただろう。もう俺には本を──とくに硬い本や分厚い本を──たくさん読める視力も集中力もないし残り時間も多くはないのだ。最近は読めない自分を受け入れ、Chat GPTに本の内容を要約して教えてもらっている。「ハイデガーの『存在と時間』の内容を簡潔に教えて」。
表題作を再読したくなり『内田百閒集成4』を購入。
戸山公園へ。結構距離があったが二人だとだらだら喋っているうちに距離を稼いで苦に感じない。人が少ないので道を歩きやすかったのもある。公園内では子供たちが大勢遊んでいた。休日の午後、子供たちの騒ぐ楽しそうな声、若い人や家族連れの姿もたくさんあり練習中の吹奏楽も聞こえてくる、にもかかわらずこの公園に荒んでいるような負の印象を抱いた。天候の影響かもしれない。灰色の空が何もかもを重苦しくしていたとか。わからない、印象を抱いた理由なんて。
標高446メートル、登頂。視界悪し。春になると桜が満開になってさぞ壮観だろう。
高田馬場駅方面へ戻る。この時点で10000歩近く歩いており足が疲れていたので途中にあるカフェに立ち寄り一服。暑くなりパーカーを脱いでTシャツに。もうすぐ11月だというのに。パフェが食べたくなりメニューにパフェのある店にすればよかったと後悔。
駅前の芳林堂書店に立ち寄り欲しかった『ネット怪談の民俗学』を購入。
店頭に飛鳥部勝則の復刊の数々が陳列されていて迫力があった。最近また何冊か復刊したようだがもう十分満喫したので買っていない。来年1月、早川書房が『堕天使拷問刑』を文庫で出すという。めでたい。読んでいる最中は意識していなかったけど文庫で900頁とあるからかなりの分量だったんだな。それが気にならないくらい面白い小説だった。2023年に読んだ本ベストのうちの1冊。『黒と愛』もよかった。『鏡陥穽』『殉教カテリナ車輪』はそれらと比較するとちょっと劣る。
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17時を過ぎすっかり日が暮れた。駅前は大勢の人でごった返していた。少し歩いた場所にある大地のうどんへ夕飯を食べに行く。店は路地を入ったところにある。薄暗くてちょっと怖い。博多うどんって食べたことがないのでどんなものか興味があった(ウエストにも行ってみたいんだが車で行くにしても町田は遠すぎる)。アットホームな店内、注文は券売機、水はセルフサービス。人気店らしく店内は8割ほど埋まっていた。自分はわかめうどん、同行者はかけうどんを注文。博多うどんと言ったらごぼ天だろうが揚げ物食べるともたれる年齢なので控えた。丸天にしてもよかったかも。
注文を受けてから麺を茹でるので10分ほど待った。運ばれてきたうどんは器から湯気がもうもう。汁はかなりやさしい味付け。ほのかに甘みも。ダシはわからん。そんな高性能の舌は持ち合わせていない。が、旨い。どんどん飲める。麺が柔らかいと聞いていたがたしかにそう。というか透けそうなほど麺が薄い。讃岐うどんや武蔵野うどんと比べるとかなり柔らかく食べやすい。讃岐うどんの方が好みだが武蔵野うどんより食べやすいと思った*1。
Wikipediaを読むと九州のうどん粉はコシが出づらいとある。資さんうどんをすかいらーくが買収したので関東でも博多うどんが身近になればいい。うどんは外食にしては安く、胃に優しく、素早く食べられるから好きな食べ物。
まだ腹に余裕があったので帰りの特急内で食べようとバインミー☆サンドイッチでハーフサイズのバインミーを購入。ベトナムのサンドイッチ。小指『偶偶放浪記』で「すげー旨い」「これ食っちゃうともう日本のサンドイッチ食えない」と紹介されているのを読んでバインミーという食べ物があることを知った。
しかし駅に着くとまさかの人身事故で特急は運転見合わせ。マジか。バインミーを車中で食べるのは諦め、普通列車で帰路に就く。買ったときはほかほかしていたバインミーも帰宅した頃には冷えてしまっていた。
フランスパンに具が入っている。自分が買ったのは1番人気とあったレバーのやつ。食べるとパクチーがかなり自己主張してくる。酢漬けの大根も入っており口の中がさっぱりする。旨いけど日本のサンドイッチもようやってるよ、という感じか。サブウェイが大好きなのに近所に店がない。ワタミによる買収で今度拡大路線を取るという。近所にできないかな。
帰宅して歩数計を見ると16700歩だった。よく歩いた一日だった。風呂に入ってベッドに横になったらそのまま寝落ちした。今回行ってみて、高田馬場周辺はなかなか食が充実しているエリアだな、との感想を持った。ラーメンやスープカレーの気になるお店もあった。
地図を見ると早稲田から牛込方面に漱石山房記念館と草間彌生美術館がある。これらの施設にもいずれ行ってみたい。チャイカ再訪ついでに行けたらいい。
*1:生まれも育ちも埼玉なのに武蔵野うどんが昔からあまり好きじゃない。太い麺の食感が苦手。