読書

佐野眞一『東電OL殺人事件』を読んだ

東電OL殺人事件(新潮文庫) 作者:佐野眞一 新潮社 Amazon 1997年に渋谷区円山町のアパートの一室で起きた殺人事件。被害者は東京電力の管理職だった三十代の女性。年収が1000万円以上あり金銭的に何不自由ないはずなのに昼の勤務のあと夜な夜な円山町で立ち…

桐野夏生『柔らかな頬』を読んだ

柔らかな頬 上 (文春文庫) 作者:桐野 夏生 文藝春秋 Amazon 日曜日の昼過ぎから読み始めて日付が変わる少し前に読み終えた。ネタバレあり。 不倫相手の別荘を自分の家族と共に何食わぬ顔で訪問した主人公が、男のためなら夫も子供も捨てていいと思った翌日、…

ハリー・ルーベンホールド『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』を読んだ

切り裂きジャックに殺されたのは誰か:5人の女性たちの語られざる人生 作者:ハリー ルーベンホールド 青土社 Amazon 私たちは質問されもしなければ、話も聞いてもらえない。それなのに私たちの話が書かれていく……。 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『亜…

映画になった凶悪事件のルポを3冊読んだ 『凶悪』『消された一家』『愛犬家連続殺人』

先日読んだ『殺人現場を歩く』の影響で凶悪事件のルポを読みたくなったので。三つとも有名な事件で映画にもなっている。これらを読んで思うのはありきたりながら「事実は小説より奇なり」という言葉。 『凶悪 ある死刑囚の告発』 凶悪―ある死刑囚の告発―(新…

蜂巣敦『殺人現場を歩く』を読んだ

殺人現場を歩く (ちくま文庫) 作者:蜂巣 敦 筑摩書房 Amazon 主に1990年代に起きた18件の殺人事件現場を訪れる。写真多数掲載。有名な事件としては「綾瀬女子高生コンクリート詰め殺人事件」「連続幼女誘拐殺人事件」「埼玉愛犬家連続殺人事件」「世田谷一家…

アーサー・マッケン『怪奇クラブ』を読んだ

怪奇クラブ (創元推理文庫) 作者:アーサー・マッケン 東京創元社 Amazon 復刊。「怪奇クラブ」と「大いなる来復」を収録。今年マッケンを2冊読んだのでその流れで本書も購入、読んだ。 hayasinonakanozou.hatenablog.com 「怪奇クラブ」(原題「三人の詐欺師…

笠井恵里子『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』を読んだ

潜入・ゴミ屋敷-孤立社会が生む新しい病 (中公新書ラクレ, 733) 作者:笹井 恵里子 中央公論新社 Amazon 物が散乱しているとか床が見えないとかいうレベルじゃない。ゴミが堆積して層をなしエアコンの高さまで埋まってしまう、玄関までみっしりとゴミが詰まり…

柳下毅一郎『殺人マニア宣言』を読んだ

殺人マニア宣言 (ちくま文庫) 作者:柳下 毅一郎 筑摩書房 Amazon 殺人現場、犯罪博物館、蝋人形館を訪問しレポートする第1章「巡礼の旅」、猟奇事件の文献を渉猟してシリアルキラーとその事件を紹介する第2章「殺人を読む」、アメリカ社会の異常性を笑う第3…

春日武彦『屋根裏に誰かいるんですよ。 都市伝説の精神病理』を読んだ

屋根裏に誰かいるんですよ。 都市伝説の精神病理 (河出文庫) 作者:春日武彦 河出書房新社 Amazon 精神医学には、患者が誰かが家に侵入して物を盗んだり悪戯したりする、あるいは天井から話し声が聞こえる、と訴える「幻の同居人」妄想というのがある。大抵は…

あるいは陰謀論のルーツか──ノーマン・コーン『新版 魔女狩りの社会史』を読んだ

新版 魔女狩りの社会史 (ちくま学芸文庫) 作者:ノーマン・コーン 筑摩書房 Amazon 魔女狩りの発生から終息までの歴史についての本かと思って読み始めたのだが、本書は魔女狩りという迫害・排除のメカニズムがいかにして成立していったかについての本であり、…

金について考えるのは人生について考えること──『DIE WITH ZERO』を読んだ

DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール 作者:ビル・パーキンス ダイヤモンド社 Amazon 金融資産を使い切って死ぬことを勧める本…というと乱暴すぎる要約かもしれないが。若いうちから老後に備えて倹約し、余剰資金を非課税制度を利用してインデ…

悲しみの、嘆きの、怒りの、恨みの、声を聞け──スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『亜鉛の少年たち』を読んだ

亜鉛の少年たち アフガン帰還兵の証言 増補版 作者:スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ 岩波書店 Amazon 1970年代末から1980年代末にかけて当時のソ連が行ったアフガニスタン侵攻について、兵士や看護師やその家族たちに行ったインタビューを「ドキュメンタ…

デジタル・ミニマリスト宣言

デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方 (ハヤカワ文庫NF) 作者:カル ニューポート 早川書房 Amazon 依存症とは、 有害な結果が生じるにもかかわらず、その報酬効果が強迫的誘因となって特定の物質の使用や行為を繰り返す状態 を指す。かつてはア…

今こそ偉大なロシア文学を──ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』を再読する

カラマーゾフの兄弟(上)(新潮文庫) 作者:ドストエフスキー 新潮社 Amazon 人生でもっとも影響を受けた本。通読するのはたぶんこれが3度目(20代、30代、そして40代で)。衝撃を受けたという点ではこれより先に読んだ『罪と罰』かもしれないが(読書中、…

松浦寿輝『半島』を15年ぶりに再読した

半島 (講談社文芸文庫) 作者:松浦寿輝 講談社 Amazon ブクログを見ると6月に読み終えている。なんとなく感想を書きそびれていたが記録として残しておきたく付箋を貼った箇所を読み返した。読んでいる最中とても楽しんだ記憶がある。15年前に読んだときは(単…

年金制度への誤解を解く一冊──大江英樹『知らないと損する年金の真実』を読んだ

知らないと損する年金の真実 - 2022年「新年金制度」対応 - (ワニブックスPLUS新書) 作者:大江 英樹 ワニブックス Amazon こないだ老後資金について考えた。とりあえず現時点の考えとしては、今の会社で65歳まで働く、年金受給は70歳まで繰り下げて増額して…

老後資産を試算してみた

iDeCoって制度がお得らしいとは知っていたが自分は勤務先の企業型DCに加入しているので加入対象外だった。なので調べずにいた。が、今年の10月から企業型DC加入者もiDeCoへの加入が可能になると楽天証券からのメールで知り興味を持った。MVNO契約、保険の見…

稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』を読んだ

映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~ (光文社新書) 作者:稲田 豊史 光文社 Amazon 年齢が若い人ほど倍速視聴をしている(経験している率が高い)、と去年はてブで初めて知った。本書の著者の記事だった。 gendai.me…

押井守『映画の正体 続編の法則』を読んだ

映画の正体 続編の法則 (立東舎) 作者:押井 守 立東舎 Amazon 押井監督が1年1本の縛りでチョイスした映画について語る『50年50本』の続編。今度は続編映画縛りで語る。 hayasinonakanozou.hatenablog.com 先に結論を書いてしまうと『50年50本』の面白さには…

アーサー・マッケン『恐怖』『夢の丘』を読んだ

恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3) 作者:アーサー・マッケン 東京創元社 Amazon 夢の丘 (創元推理文庫) 作者:アーサー・マッケン 東京創元社 Amazon 『夢の丘』以外のマッケン作品は読んだことがなかった。『夢の丘』が文庫で復刊されたので短篇集『恐怖』と併せ…

小松和彦『神隠しと日本人』を読んだ

神隠しと日本人 (角川ソフィア文庫) 作者:小松 和彦 KADOKAWA Amazon 私たちの日常生活のなかで「神隠し」という語があまり用いられなくなってからかなりになる。いつの頃からかは地域差があって一概にはいえないが、およそのところをいえば、都市化の波が急…

腰痛体験記を二冊読む──高野秀行『腰痛探検家』と夏樹静子『腰痛放浪記 椅子がこわい』

腰痛探検家 (集英社文庫) 作者:高野秀行 集英社 Amazon 腰痛放浪記 椅子がこわい (新潮文庫) 作者:静子, 夏樹 新潮社 Amazon 作家二名の腰痛体験記。どちらも年単位の長患い。自分は幸いにも腰痛になったことはないが両方の肩が四十肩になって2年苦しんだの…

俺もブログもいつか消える──古田雄介『ネットで故人の声を聴け』を読んだ

ネットで故人の声を聴け 死にゆく人々の本音 (光文社新書) 作者:古田雄介 光文社 Amazon 個人が気軽に自分の情報をネット上に発信できるようになってすでに四半世紀が経過した。この間、日本国内だけでも3000万人近い人たちが亡くなっているという。このうち…

人間は猫ほど賢くは生きられない──ジョン・グレイ『猫に学ぶ いかに良く生きるか』を読んだ

猫に学ぶ――いかに良く生きるか 作者:ジョン・グレイ みすず書房 Amazon 人間にとって世界は脅威に満ちた場であり生には不安がつきまとう。哲学も宗教も生きることに伴う不安とその苦しみから解放されることを目的にして生まれた。古代の哲学者たちは禁欲的な…

映画館とは他者のいる場所──『そして映画館はつづく』を読んだ

そして映画館はつづく──あの劇場で見た映画はなぜ忘れられないのだろう フィルムアート社 Amazon 日本各地のミニシアター支配人や関係者、また映画制作に携わる人たちへのインタビュー集。奥付を見ると2020年11月初版発行とある。最初の緊急事態宣言および外…

倉橋由美子『反悲劇』を読んだ

反悲劇 (講談社文芸文庫) 作者:倉橋由美子 講談社 Amazon ギリシア悲劇をモチーフにした短篇集。 「向日葵の家」はオレステスとエレクトラの物語。メタ的というのか、登場人物が芝居を演じていることに自覚的だったり、デウス・エクス・マキナを神ではなく人…

赤瀬川原平『超芸術トマソン』を読んだ

超芸術トマソン (ちくま文庫) 作者:赤瀬川 原平 筑摩書房 Amazon 路上観察学入門 (ちくま文庫) 筑摩書房 Amazon 超芸術トマソンの(一応の)定義は「不動産に付着していて美しく保存されている無用の長物」。トマソンてなんぞやと思ったら1982年に巨人にいた…

『人は2000連休を与えられるとどうなるのか?』を読み自分の無職時代との落差に呆然とする

人は2000連休を与えられるとどうなるのか? 作者:上田啓太 河出書房新社 Amazon 仕事を辞め無職となった著者が、2000日以上に及ぶ自由時間をどう過ごしたかについての記録。解放感を感じるのは最初の二週間くらいまで、一日に1タスク実行で力尽きるよう…

今福龍太『ヘンリー・ソロー 野生の学舎』を読んで散歩について考える

ヘンリー・ソロー 野生の学舎 作者:今福 龍太 みすず書房 Amazon 今年の冬、年明け頃から散歩を始めた。健康のため、そして長期休暇の暇つぶしが最初の動機だった。部屋にいてパソコンでネットしたり、酒を飲んだり、読書したりしていると気分がモヤモヤして…

アメリカは映画の国──『ビデオランド』を読んだ

ビデオランド 作者:ダニエル・ハーバート 作品社 Amazon 日本でレンタルビデオがもっとも流行ったのは(レンタルCDもそうだろうが)90年代だろう。当時高校生だった自分は映画を見たくなると近所のTSUTAYAや地元チェーンのレンタル店に自転車で向かい、棚に…