読書

アメリカは映画の国──『ビデオランド』を読んだ

ビデオランド 作者:ダニエル・ハーバート 作品社 Amazon 日本でレンタルビデオがもっとも流行ったのは(レンタルCDもそうだろうが)90年代だろう。当時高校生だった自分は映画を見たくなると近所のTSUTAYAや地元チェーンのレンタル店に自転車で向かい、棚に…

中年の生存戦略を尾崎一雄に学ぶ──『新編 閑な老人』と『暢気眼鏡・虫のいろいろ』を読んだ

新編-閑な老人 (中公文庫 お 33-3) 作者:尾崎 一雄 中央公論新社 Amazon 暢気眼鏡 虫のいろいろ 他十三篇 (岩波文庫 緑 157-1) 作者:尾崎 一雄 岩波書店 Amazon 荻原魚雷さん編集の尾崎一雄の文庫が出たので購入、ついでに岩波文庫のも再読。昨年読んで感銘…

「下流老人」の日常を飄々と──岡田睦『明日なき身』を読んだ

明日なき身 (講談社文芸文庫) 作者:岡田 睦 講談社 Amazon 1932年生まれの作家による私小説を5篇収録。三人目の妻と団地の一戸建てに住んでいた作家は彼の薬物依存が原因で離婚になる。家は妻の所有となり追い出される。行くあてなく生活保護を受給してアパ…

アメリカは幽霊の国──『ゴーストランド』を読んだ

ゴーストランド: 幽霊のいるアメリカ史 作者:コリン・ディッキー 国書刊行会 Amazon 読み終えたのは一月末だがいい本すぎて感想がなかなか書けなかった。アメリカ各地に残る幽霊話を検証することで彼の国の過去を発掘していく。 私たちは、生者を理解する手…

矢部嵩『魔女の子供はやってこない』『〔少女庭国〕』を読んだ

魔女の子供はやってこない (角川ホラー文庫) 作者:矢部 嵩 KADOKAWA Amazon 〔少女庭国〕 (ハヤカワ文庫JA) 作者:矢部 嵩 早川書房 Amazon 独特の文体と唯一無二な世界観。『魔女の子供はやってこない』は小学生女子と魔女の日常物語。その出会いとなる第一…

『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』を読んで自分の投資を振り返る

全面改訂 第3版 ほったらかし投資術 (朝日新書) 作者:山崎 元,水瀬 ケンイチ 朝日新聞出版 Amazon 本書のオリジナル版が自分が初めて買った投資の本だったと思う。しかし買って読んだものの投資を始めるには至らなかった。前の会社に勤務していた頃だから201…

ユートピアそれともディストピア──『消滅世界』と『沙耶の唄』を読んだ

消滅世界 (河出文庫) 作者:村田沙耶香 河出書房新社 Amazon 沙耶の唄 (星海社 e-FICTIONS) 作者:大槻涼樹,Nitroplus 講談社 Amazon 二冊とも『文藝 特集・夢のディストピア』の「精神と身体改造のための闇のブックガイド」に教えられた。 『消滅世界』の舞台…

『ルポ中高年ひきこもり 親亡き後の現実』を読んだ

NHKスペシャル ルポ 中高年ひきこもり 親亡き後の現実 (宝島社新書) 作者:NHKスペシャル取材班 宝島社 Amazon 十年以上も引きこもったまま中高年になってしまった人たちが日本には推定61万人いる。自分もかつて引きこもりだったから分岐次第ではそうなってい…

J.C.ブラウン『ルネサンス修道女物語』を読んだ

ルネサンス修道女物語―聖と性のミクロストリア 作者:J.C. ブラウン ミネルヴァ書房 Amazon 17世紀、トスカーナ地方の尼僧ベネデッタ・カルリーニは幻視者だった。磔にされたキリストと同じように体に聖痕が現れ、使徒や天使の言葉をトランス状態で語り、人々…

洗脳教育と労働について──鈴木大介『老人喰い』と新庄耕『狭小邸宅』を読んだ

老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体 (ちくま新書) 作者:鈴木 大介 筑摩書房 Amazon 狭小邸宅 (集英社文庫) 作者:新庄耕 集英社 Amazon 『老人喰い』は特殊詐欺に関するノンフィクション…らしいが取材を元にフィクション化されている不思議な本。この本に登場す…

和田靜香さんによる民主主義についての本を2冊読んだ

時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。 作者:和田靜香 左右社 Amazon 選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記 作者:和田靜香,小川淳也 左右社* Amazon 大島新監督の『なぜ君は総理大臣になれないのか』は面…

中島らも『今夜、すべてのバーで』を読んだ

今夜、すベてのバーで 〈新装版〉 (講談社文庫) 作者:中島らも 講談社 Amazon 著者の体験に基づいているのであろうアル中小説。連続飲酒の挙句に入院する中年男性が自らが依存症に陥った経緯を振り返り、自身の経験から依存症一般を考察する。入院といっても…

高橋ヨシキ『悪魔が憐れむ歌』を読んだ

悪魔が憐れむ歌 ――暗黒映画入門 (ちくま文庫) 作者:高橋 ヨシキ 筑摩書房 Amazon 何事においても政治的な正しさが求められる時代に、政治的な正しさなどクソ喰らえと真っ向から反論する硬派な映画評論。紹介される映画の半分は未見なのに未見だろうがそうで…

アン・ケース/アンガス・ディートン『絶望死のアメリカ』を読んだ

絶望死のアメリカ――資本主義がめざすべきもの 作者:アン・ケース,アンガス・ディートン みすず書房 Amazon 『絶望死のアメリカ』によるとアメリカは今や学士以上の大卒者と低学歴者では別世界なほどの超格差社会になっている。エリートが富を独占する一方で…

大江英樹『となりの億り人』を読んだ&自分が影響を受けたお金関連の本5冊

となりの億り人 サラリーマンでも「資産1億円」 (朝日新書) 作者:大江 英樹 朝日新聞出版 Amazon 2019年の調査によると日本で1億円以上の金融資産を持っている世帯は133万世帯。これは一般世帯の2.4%に当たる。世帯主100人のうち2人から3人は「億り人」がい…

稲生平太郎『アクアリウムの夜』『アムネジア』を読んだ

アクアリウムの夜 (角川スニーカー文庫) 作者:稲生 平太郎 KADOKAWA Amazon アムネジア (角川書店単行本) 作者:稲生 平太郎 KADOKAWA Amazon 書影はアマゾンだがDMMブックスでポイント還元セールをやっているのでそちらで買ってiPadminiのアプリで読んだ。以…

ハイジ・J・ラーソン『ワクチンの噂 どう広まり、なぜいつまでも消えないのか』を読んだ

ワクチンの噂――どう広まり、なぜいつまでも消えないのか 作者:ハイジ・J・ラーソン みすず書房 Amazon 新型コロナウイルスの対抗手段としてワクチンが開発され接種されている。しかし接種を拒否する人たちも世界中に数多くいる。著者はユニセフやWHOのワクチ…

町山智浩『それでも映画は「格差」を描く』を読んだ

「最前線の映画」を読む Vol.3 それでも映画は「格差」を描く(インターナショナル新書) (集英社インターナショナル) 作者:町山智浩 集英社 Amazon 近年、世界各国で経済格差や貧困をテーマにした映画が増えてきているという。カンヌ映画祭のパルム・ドール…

ジェームズ・ブラッドワース『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』を読んだ

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した~潜入・最低賃金労働の現場~ 作者:ジェームズ・ブラッドワース 光文社 Amazon イギリスのジャーナリストによる最低賃金労働現場の体験ルポ。原題はシンプルにHIREDなので邦題はだいぶ盛っているというか煽…

江川紹子『「カルト」はすぐ隣に  オウムに引き寄せられた若者たち』を読んだ

「カルト」はすぐ隣に オウムに引き寄せられた若者たち (岩波ジュニア新書) 作者:江川 紹子 岩波書店 Amazon カルトによるマインドコントロールについてオウム真理教を例に検証・分析する。1章では教祖麻原の生い立ちとオウム真理教の成り立ちを、2章ではオ…

エド・ゲイン関連の二冊を読む──ハロルド・シェクター『オリジナル・サイコ』とロバート・ブロック『サイコ』

オリジナル・サイコ―異常殺人者エド・ゲインの素顔 (ハヤカワ文庫NF) 作者:ハロルド シェクター 早川書房 Amazon サイコ (創元推理文庫) 作者:ロバート ブロック 東京創元社 Amazon ヒッチコックの映画『サイコ』(原作はロバート・ブロックの小説)のノーマ…

カロリン・エムケ『なぜならそれは言葉にできるから』を読んだ

なぜならそれは言葉にできるから――証言することと正義について 作者:カロリン・エムケ みすず書房 Amazon この本は二ヶ月くらい前に再読している。初読はもっと前、今年の春先頃だったか。一読して圧倒され、感想を書こうにも書けなかった。そのうち時間が…

小山清『風の便り』を読んだ

小山清はいい。文は人なりという言葉があるけれど、遠慮がちに、慎み深く、善美を希求するその文章を読むと胸が温かくなる。本書には著者自身の身辺を語ったり内省するような作品が11編収録されている。勤務先の金を使いこんだがために刑務所に服役し、夕張…

ブックオフせどり黄金時代の記録──吉本康永『大金持ちも驚いた105円という大金』を読んだ

大金持ちも驚いた105円という大金 作者:吉本 康永 三五館 Amazon 還暦間近の予備校教師によるブックオフせどりの記録。2007年当時、著者は事業の失敗と複数の不動産購入により毎月の40万円のローン返済を抱えていた。そこへリーマンショックによる不況と少子…

ブックオフにあまり通っていないけれど『ブックオフ大学ぶらぶら学部』を読んだ

ブックオフ大学ぶらぶら学部 作者:砂鉄, 武田,トロンボ, 大石,賢二, 山下,貴司, 小国,晋, 佐藤,幸治, 馬場,潤一郎, 島田,Z 夏葉社 Amazon ブックオフの魅力と思い出を執筆者たちが述べた本。自分はあまりブックオフに思い入れはなくて、掘り出し物を見つけ…

『押井守監督が語る映画で学ぶ現代史』を読んだ

押井守監督が語る映画で学ぶ現代史 作者:押井守,野田真外 日経BP Amazon 押井監督の映画評論も三冊目。1963年の『世界大戦争』から2014年の『キャプテン・アメリカ/ウインター・ソルジャー』、さらにはYouTubeへと至る映画・映像作品から、制作当時の時代精…

エリック・ジェイガー『最後の決闘裁判』を読んだ

最後の決闘裁判 (ハヤカワ文庫NF) 作者:エリック ジェイガー 早川書房 Amazon リドリー・スコット監督の映画の原作。映画へ行く前に内容を把握したく読んだ。結果的には先に読んでから映画を見て正解だった。退屈な映画だったが読んでいなかったらもっと退屈…

押井守『シネマの神は細部に宿る』を読んだ

シネマの神は細部に宿る 作者:守, 押井 東京ニュース通信社 Amazon 押井監督が自身のフェティシズムの観点から映画を語る。まえがきがいい。世に数多ある名作傑作の類いはせいぜいが数度見ればもう繰り返し見ることはない。その一方で、褒められた出来ではな…

津野海太郎『最後の読書』『百歳までの読書術』を読んだ

最後の読書 (新潮文庫) 作者:津野 海太郎 新潮社 Amazon 百歳までの読書術 作者:津野 海太郎 本の雑誌社 Amazon 『歩くひとりもの』から時が経った。あれは中年本だったが今度の二冊は老齢本。著者はすでに後期高齢者である。 hayasinonakanozou.hatenablog.…

ヴァージニア・ウルフ『病むことについて』を読んだ

病むことについて 新装版 作者:ヴァージニア・ウルフ みすず書房 Amazon エッセイ及び書評14編、短編小説2編を収録。 表題作は、病気はなぜ文学のテーマにならないのか、という魅力的な問いから始まる。文学にとっては常に精神が関心事で、肉体の苦痛につい…